第13話

「ねぇねぇ!見てみて!」

効果音に『ジャーン』と付きそうなくらいにいきなり声を上げた先輩に雑誌を広げて見せられる。

今は、放課後でいつも通りおすすめの本を渡され、読んでいたところ休憩の時間。半分は読み終わりもう少しだと思っていたところだった。

そこで、全くみたことない雑誌を見せられる。

女性が表紙を飾っているということは、女性誌だろうか。

中学の時何回か、女子の塊が歓声を上げながら見ていたのを見たことがある。

だが、こういうものは男性も読む物なのだろうか。

内心謎に思いながらも先輩は遠慮なく見せてきた。

肩がくっつくくらい隣に来た先輩はご機嫌で、雑誌に目を向ける。

「‥デートスポット‥?」

そこにデカデカと書かれた文字と、カップル同士の写真がちらほらと。

そして、ピンクと赤いハートで彩られたページ。

これを見て女子たちはテンションを上げていたが、実際見ても装飾が賑やかな本だなくらいしか思わず、テンションは全く上がらない。

ボッーと眺めていると声がしなくなったのに気づき隣を見れば顔が真っ赤な先輩がいた。

「い、いや!これは!違っ‥くもないけど!まだ早くて‥じゃなくて!これ!これが食べたいんだ!」

何が違くて、何が早いのか全くわからないが、指さされた方をみる。

すると、春限定のイチゴクレープと書かれていた。

こういうものは食べたこともなければ初めて見る。

ただ、クレープに異常なほどまでのクリームとイチゴが載っていて、そこにどこかぶっきらぼうな猫の装飾をされたアイスともう一つは綺麗めな猫の装飾をされたアイスのものがあった。

「これが?」

「これさ、こっちの猫の方白翔くんに似てない?この、ボッーとした感じがさ!可愛い!」

そう言って指さされたのは、ぶっきらぼうの方の猫だった。

改めて見るも、そんなに似ているだろうか。少しぶっきらぼうな猫に見えるが、他の人には俺はこう見えるのか。

そして、これを可愛いという物だろうか。特に食べるものの装飾には、あまり興味を持ったことも無い。何も感じず口に入れて食べている俺だからわからないが、先輩には余程可愛く見えて魅力的な物に感じているのだろう。

目がキラキラと輝いている。先輩は所謂女顔と言うものに部類されると思う。だから、尚更女子のように見えた。

そして、隣の綺麗めの猫の物をみれば目元の切れ長さなところが先輩に似ている気がした。

「あとね、あとね!クレープ買うと数量限定のキーホルダーも付いてきて!これも欲しくてさ、どうかな?」

よく見れば下の方にそれぞれの猫に似たキーホルダーがあった。

特段興味はないが、先輩はものすごく行きたそうだ。

先輩なら、他に行く人なんて候補が多くいるだろうに。

特に何も関心を持たず食べる俺ではなく、それこそ女子と行った方が盛り上がりそうだ。

だけど、何故だろう。

先輩の隣に俺ではない誰かを想像したら、ツキリと胸の内に感覚が走った。

何故だろう。何かモヤモヤとしたものを感じるも首を横に振る。

「他の人と「白翔くんと一緒がいい!」‥わかった」

結局提案してみるものの勢いにおされてしまった。

キラキラした目で押され断りきれずに了承してしまったが、これを食べて何をするんだろうか。

食べること。それは、体の健康維持に必要なこと。

それ以外に感じたことはない。

小さい頃帰り道で、ファミリーレストランでにこやかに家族を見ても何故、笑っているのだろうと思ったくらいだ。

俺にはわからない。にこやかに食事をすることが。

だって、両親は帰って来ず唯一の兄は、遠くに引っ越してしまった。

家に帰っても、パンを齧るか栄養ゼリーを吸うくらい。

それくらいなのだ。

きっと、つまらないものになってしまうのではないだろうか。

こんなに瞳をキラキラと輝かせている先輩が、つまらなくなってしまうんじゃないだろうか。

「へへ、嬉しいな!白翔くんと行ったらきっと楽しいだろうな!」

その一言。

その一言で、胸の内の黒いものが晴れたいくような感じがする。

その笑みにも言葉にも嘘偽りを感じない。きっと、心から思って言っているんだ。

それに、初めての感覚が胸の内に走る。

『心が踊る』『ワクワクする』『落ち着いて居られない』

その言葉を思い出す。落ち着いていられない、でもそれは嫌な感覚ではなく、今にも踊り出したいくいの気持ち。

これが、先輩の言っていた感情。

あぁ、一つ生まれた感情。求めていた物。

そして、胸の内がドキッと高鳴り、暖かくなっていく。

やはり、先輩はすごい。そばに居ればいるほど知れるそれに手を伸ばしたら、授けてくれるのだから。

一度深呼吸をして胸の内を落ち着ける。

そして改めて雑誌を見て一つ謎におもうことが生まれる。

でも、これは一体いつ行くのかと首を傾げてると先輩は荷物をまとめて俺の手を取った。

嫌な予感がする。キラキラした瞳でこちらを見ている。

「じゃあ、行こうか」

そう言った先輩は、そのまま俺の荷物まで持って、手を取られそのまま連行された。

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