第10話

それからと言うもの、クラスメイトの当たりは強く、嫌がらせもヒートアップして行った。

今日も今日とて、ノートを開けばビリビリに破られていてそこにはいろいろと書かれていた。

『キモ陰キャ』

『バカ』

『調子乗んな!』

ノートをどれだけ捲っても綺麗な部分なんて残っていなくて、汚い言葉で溢れかえっていた。

中学で経験したからと言って、まさか高校でもこうなるとは。

そして、教科書といえば昨日ゴミ箱からぐちゃぐちゃに丸められていてこれは、もう読めないなと思いそのまま捨てた。

別にあってもなくても困らない。勉強と記憶力には自信があるし、参考書で補えばなんとかなるのだから。

ただ、学校生活が送りにくいことは変わりなかった。

例えば教室から出ようと歩いていれば足を引っ掛けられて転ばされる。

「っ!!」

もちろん咄嗟の事にバランスなんて取れるはずもなく床に無様に転ぶわけだが、それを見てクスクスと笑うクラスメイト。

「‥はぁ」

これで何回目か。昨日部屋で足を見れば何回も転ばされてるせいかあざができていた。

痛くはないのだが、もう起き上がるのも面倒でゆっくりと起き上がる。

制服に着いた埃を払って再び歩き出せば大きな舌打ちが「チッ!」と聞こえ、不機嫌なのがわかる。

それも聞こえないふりをして教室を出て、次の授業はサボろうと適当な空き教室を探して、椅子に座って机に顔を伏せて目を閉じる。

いつもならすぐ眠れる。だが、今の状況で流石に眠れない。夢見が悪いのだ。

嫌がらせが絶えないクラスメイト。

クスクスと笑う中心には俺が立っていて、なんとも思わず黙り込む。

だが、そこに最近は先輩が出てくるのだ。

先輩の手にはクラスメイトたちが持っていたナイフ。

それを持って近づいてくるところで目が覚める。

そして、目が覚めた後胸の内がいつもより激しくツキリ、ツキリと感覚が走って眠れないのだ。

結果、ここ数日一日に眠れるのは数時間。もちろん睡眠時間は足りず寝不足だ。

「ふぁ〜」

そのせいで、ため息も出れば欠伸も出るわけで口元が忙しい。

そのまま、ボッーとしてると携帯がメッセージが来たのを告げて開けば先輩からのお昼の誘いだ。

『むり』

数日ずっとこれを送っていて、教室まで来ようとしたことがあったが、『嫌いになる』と言ったら納得してくれた。

別に好きでも嫌いでもないのだが、先輩にはこれが効くだろうと思った。

携帯をポケットに戻して、瞼を下ろして暫くするとゆっくりと意識が落ちていった。

‥‥

クスクス

あぁ、またこの光景だ。

もう飽きてしまった。

周りには俺を嘲笑うクラスメイト。

そして、俺の目の前にはナイフを持った先輩。

先輩がゆっくりと近づいてくる。いつもコロコロ変わる表情がなくなり、無表情で。

そして、目の前まで来てとうとう刺されるのかと思えば先輩はナイフを手から離した。

『‥え‥』

その瞬間、強く抱きしめられていた。

なんで。なんで、刺さないんだ。

ゆっくりと、先輩の顔を見るといつものように柔らかな表情を浮かべていた。

‥‥

「‥とくん!白翔くん!」

うるさい。誰だ。

ゆっくり瞼を上げれば何処か必死な先輩の顔が目に入った。

「陽由香、先輩?」

その時、知った。俺の瞳から雫が落ち、頬を伝っていることを。

何で。泣いてる。泣いたことなんて無かったのに。何で。

溢れる雫を雑に拭うと、その手を止められて先輩のジャケットでそっと拭われる。

黙ってされるがままで、ようやく治って椅子を持ってきて、向き合うように座った。

「ねぇ、何かあった?」

「何もない」

「嘘だ。だって、白翔くんは泣いてでしょ?」

それに対して何も言えずに暫く居ると、椅子から立ち上がった先輩に急に腕を掴まれる。すると、何処かに向かうのか無理やり引っ張られながら歩く。

「陽由香、先輩‥!何処に‥!?」

何か嫌な予感がする。

早く振り解かないと。たが、そう思うものの力が強くそれは叶わず等々目的地だろそこに着いて、教室のドアを開ける。

そこは、俺のクラス。

教室内は先輩の登場で昼休みを楽しむ賑わいは無くなり、静まり返る。だが、先輩は歩みを止めることなく引っ張る手も離さない。

そして、俺の席まで行くと机を見て先輩は息を呑んでいた。

「‥何、これ」

そこには、朝まで書かれてなかった汚い文字達が書かれていた。

『バカ』

『キモい』

『出ていけ』

まぁ、それは色々と。それを見て、後の掃除が大変そうだなとしか思わない俺に対して、先輩の握る手は震えていた。

「誰がこんなことをした?俺の大事な人に何してる?」

聞いたことないような低い声が教室に広がる。それだけじゃない。何かとても強い圧を感じる。

クラスの連中も目を逸らす者ばかりだった。

「そ、そいつが悪いんだよ!!」

その中で最初に嫌がらせをしてきた男子が、必死に俺を指さしながら訴えを上げた。

切れ長の目はそれを睨みつけた。

「何が?」

「そいつが、調子に乗ってるからだ!」

「どこが?」

「授業サボったり、一人優位に立った顔して‥!夕伊先輩だってそいつに絡まれて迷惑でしょう?」

それに対して先輩は俺の腕を離してその男子生徒に詰め寄る。

男子生徒は追い込まれ等々壁に背がついた。それに対して先輩は大きな音を立てて壁を手でついた。

「意味わからないんだけど?君に何一つ迷惑かけてないよね?それに、俺が迷惑?何言ってるの?俺が好きで白翔くんと仲良くしてるのに邪魔するとかありえないんだけど?」

低い声と早口で捲し立てるその姿に等々男子生徒も何も言えなくなり、腰が抜けたのかズルズルと座り込んでしまった。

そして、先輩は壁から手を離しクラスの連中を睨みつけて再び口を開いた。

「次、俺の大切な人傷つけたら許さないから。男子でも女子でも何かあるなら俺に言いなよ、聞いてあげるから」

最後に笑みを浮かべた先輩だったが、クラスの連中皆黙り込んだままだった。

これが、恐怖に染まるというのか、その空気を感じた。

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