第9話
次の日学校に行くと、何やら校内がザワザワと賑わっていた。
かと言っていい賑わいと言われればそうではなく。何やらヒソヒソと話している。
廊下を歩いていると、何やら此方に向けられている視線をチラチラと感じる。誰もが何か口にしていてそれは、俺に関係あるかのように視線が行き来していた。
その視線の中を気にせず歩き教室に到着すると、待ってましたと言わんばかりに女子たちが押しかけてきた。
「ねぇねぇ!白翔くんって、夕伊先輩と仲良いんでしょ?」
「夕伊先輩に紹介してよ〜!」
次から次へと言ってくる女子になんでこんなことになっているのだと謎に思う。
昨日までには何もなかったのに。
入学当初とは変わり、先輩は教室には来なくなったし、連絡だってさりげないものばかりなのに。
クスクス
すると、笑い声が何処からか聞こえてきてそちらを見れば昨日のいじめっ子と数人の男子生徒が此方をみて笑っていた。
なるほど、情報を流したのは連中か。
また、面倒なことをしてくれた。
暇なら俺で遊ぶよりも別の遊びにしてほしい。
「ちょっと!聞いてるの!?」
「‥知らない、興味ない」
そう言えば女子たちは黙り込み固まる。その固まりから抜け出して、自分の席に行けばまた紙屑、もはやゴミともう言ってもいいだろう。
書いてあることには大体見当はつくし、読む必要もなくそのままゴミ箱に捨てる。
「チッ!」
いじめっ子が大きく舌打ちをし明らかに不機嫌を表すようにため息を吐く。
ため息をつきたいのはこっちの方だ。散々な扱いをされて、仕舞いには女子に囲まれて面倒な質問までされた。
今もほら、適当に答えたせいか女子たちが白い目でこちらを見てヒソヒソと何か此方をみて話している。
すると、リーダー格の女子生徒だろうか此方にきて机を力強く叩いてこちらを睨みつける。
「こっちは、ちゃんと聞いんての!興味ないとかお前の意見知らないし!ちゃんと答えろよ」
女子とは思えない荒々しい言葉遣いに、もう鬱陶しくて仕方ない。
俺はただ、面倒ごともなく静かに過ごしたいだけなのに。
「‥興味がないって言ってる。お前たちにも他の奴らも。大体、知りたいなら自分で聞きに行けばいい。
それもできないから俺に当たるのって、鬱陶しい」
正論を言うと、リーダー格の女子生徒は黙り込み舌打ちをして机を蹴って去って行った。
あぁ、これでもう安心安全の学校生活は無くなった。
そして、この教室全員が敵になった。
だから、嫌だったんだ。人気者に関わると孤立者はもみくちゃにされるのなんて馬鹿でも理解できることなのに。
まぁ、その馬鹿になったのは自分からなのだが。
もしかしたら。先輩と居たら、今まで動かなかったものが動くかもしれない。感じることができるかもしれない。
そんな馬鹿な希望を持ったせいでこうなった。
やはり、孤立者に人じゃない俺に人としての希望なんて持っては行けなかったのだ。
こんなことになるなら、希望なんて持たずに冷え切っていつか尽きる心のうちを見届けることを選択すべきだった。
そうこう考えてるうちにチャイムは既に鳴り終わっていて、授業が始まっていて教材を出してない俺の机を教員が睨みつけていた。
ため息を呑み込み、教材を出してノートを開いて授業に取り組んだ。
それからは、面倒で何度もため息を飲み込んだことか。
男子生徒のいじめっ子連中からのゴミを投げられ、女子生徒からもゴミを投げられ始めて一応中身を見てみた。
『陰キャ』
『先輩と仲良くしてんじゃねぇよ』
男子生徒とそう変わらない内容に、やはりため息を飲み込む他ない。
そして、何を勘違いされてるのか授業中に手紙の交換はやめるように教員に注意された。
もう、授業を受ける気もなくなり休み時間になった途端携帯だけポケットに詰めて、図書室でも校舎裏でもなく、適当な空き教室に入って椅子に座って今まで溜めていた息を吐く。
ポケットから携帯を取り出せば、先輩からのメッセージが来ていた。
『お昼前の授業にいつもの所に集合!』
それに対してメッセージを打とうとしたが、面倒くさくて諦めた。
携帯をポケットに戻して何も変哲もない空き教室の天井を見上げる。
あぁ、また心が冷めていく。
ツキリ、ツキリと胸の内に感覚が走る。
まさか、このくだらない茶番劇に悲しいだとか苦しいだとか、辛いだの思っているのだろうか。
感情が動かない、表情も変わらない人形みたいなこの俺が。孤立者のくせに。
「‥それこそ、くだらない上に面倒くさい」
独り言を呟くも誰も返しはしない。
本当の孤立者になりたい。区別されて一人になって本当に何も感じない、面倒なこともない者になりたい。
人でないと言うなら人じゃなくてもいい。化け物でもいいから、一人になって何も感じたくない。
でも、頭の中で思い浮かぶは先輩の姿。
まだ、希望を持っている俺がいる。諦めればいいのに。
でも、先輩を見てると動くそれが欲しくて堪らない。変わる変わるするそれも欲しい。
もしかして、先輩と一緒に居たら。
それを捨てきれない俺がまだそこに居た。
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