第8話
目を覚ませば、中学の制服姿の俺になっていた。見慣れた教室。
周りを見渡せば同じような顔の奴らに囲まれていた。
クスクス
『白翔って、何考えてるかわかんねぇ』
クスクス
『何あの長い前髪〜きもっ』
クスクス
『少し勉強できるからって調子に乗んなよ!』
そう言って投げられて胸に刺さったのは鋭いナイフだった。
当然ナイフを刺されたら血が出る。
血が出るはずなのに俺には何もなかった。
中学のクラスメイトがクスクスと笑いながら鋭いナイフを投げてくる。
身体中に刺さったそれは痛くもなく、血も出なかった。
クスクス
『やっぱり、『普通』じゃないね』
クスクス
『気持ち悪い〜』
皆笑っている。でも、それは悪意に満ちた笑いだ。
小さな子供よりタチの悪い、玩具で遊ぶ連中。
飽きてしまったら雑に捨てていくのがわかっているのに、俺にはその感情も想いも理解なんて到底できず、されるがまま。
そして、何回か刺され続けてクラスメイトの連中は次は別の笑い声をあげて背を向ける。
桜が舞っている。
あぁ、これは卒業式か。
卒業で泣いている人。
卒業で晴れやかに笑ってる人。
その中でも俺は孤立していた。
なぁ、その感情は何処からやってくるんだ。生まれてくるんだ。
その気持ちはどうやったら手に入る。
求める手を伸ばしながら、その者たち問いたくても声も出なければ、手も届かない。
遠のいていく景色に手を伸ばすも孤立者は、手をどれだけ伸ばしても掴めず暗闇に追いやられていった。
‥‥
重い瞼を開けて、顔を上げるとそこは変わらず静かな図書室。
肩に何かが掛かっているのに、デジャブ感を感じ隣を見ると本に集中している先輩がいた。
いつから、ここに居るのか。
肘をついて頬杖をつきながら先輩の方を見るも先輩は、本の世界へと吸い込まれていた。
此方に気づくまで数分、一度机に本を置いた先輩はようやく此方を見ると飛び上がるように驚いて、椅子から落ちた。
「陽由香先輩、大丈夫?」
「痛って‥、何とか大丈夫」
ゆっくり立ち上がる先輩は、腰をさすりながらも椅子に座り直す。
そういえばと肩にかけてあったジャケットを先輩に手渡す。
「これ、返す。というか、毎度掛けなくていいよ、別に寒くないし」
「白翔くんはいつも手が冷たいから心配で、掛けてるけど迷惑だった?」
手。頬杖を止めて、改めて触れてみても元よりこの体温だからわからないが、冷たい方なのだろうか。
首を傾げて手をペタペタと触るもわからずに居ると、先輩の手が俺の手を包む。
温かい。先輩は体温が高い方なのだろうか。
こうしていると、改めて俺の手の温度がわかる気がした。
「ね?冷えてるでしょ?」
「まぁ、そうだけど。元からこのくらいだからわからなかった」
先輩の手はそのまま包み込んで摩ってくれる。
すると、冷えていた俺の手は暖かさを取り戻しつつあった。
すると、そういえばと先輩はジャケットのポケットからある物を取り出して此方に差し出してきた。
「はい、これカイロ!俺もよく使うけど白翔くんに上げるね」
そのカイロを押しつけられて、持たされる。
先輩の手とはまた違う温かさがあって、それを握りしめる。
「‥ありがとう」
そう、お礼を述べると何やら頬をかいて赤くなりデレデレしてる先輩がそこにいて、若干距離を取る。
「そういえば、もう放課後だけど白翔くん帰らなくても大丈夫?」
その言葉に、素早く時計を見るとすでに夕方の4時を過ぎていた。
昼から眠ってそのままだったが、まさかそこまで眠っていたとは。
また、教員からの目が厳しいものになりそうだ。
「‥帰る」
「じゃあ、一緒に「先輩目立つから、いやだ」」
そのまま縮こまった先輩をよそに、立ち上がり図書室を後にする。
先輩と一緒に帰ろうものなら、この学校の生徒もそうだが、他の人まで惹きつけてきそうだ。
面倒ごと当たり前、家にいつたどり着けるかわからないだろう。
ポケットに入れていた携帯がメッセージを告げる。
『また、明日ね!』
先ほどまで縮こまっていたのに、メッセージでは元気そうだ。
『わかった』
そのメッセージに対して特に特別なことを返すこともなく、短文の簡単な返事。
ポケットに携帯を戻し、教室に入れば当然誰もおらず、自分の席に向かえば丸められた紙屑が幾つか机の上に転がっていた。
『サボり魔』
『調子乗んなよ』
『キモすぎ』
一つ一つ開いていけば、そう書かれていてため息が出る。くだらない上に、連中は余程暇らしい。こんなことする暇があるなら、勉強に励めばいいのに。
というか、孤立者なんて無視して過ごせばより学校生活を楽しく送れるだろうに。
いや、違うか。あいつらの遊びがこれなのだから、これが連中の楽しみなのだから。
いつ、飽きることか。再びため息が出てしまう。
朝投げられた紙屑を含め教室のゴミ箱に捨てて、鞄を手に教室を後にする。
外に出れば赤い夕焼けが照らしてくる。
黒い影がいつもよりも伸びる。黒い黒い影がまるで、先ほどの夢の真っ暗さを思い出させる。
あまり、いい夢ではなかった。
本当に、俺は何処までいっても人の想いも感情も理解できない孤立者と改めて理解した日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます