第3話
翌日。
教室に入ればそれは、入学式が終わったと言うのにその賑わいは切れず、教室は明るく華やかな空気だった。
教室内を見ればもうすでに友人グループがそれぞれ作成済みというやつだろう。
女子のグループも男子のグループも賑わいを見せていた。
それを横目で見ながら、黒板に書かれた座席表を見る。席を確認すると一番後ろの窓席だ。
第一に、一番面倒のない席で良かったと思う。これで、もし真ん中なんて席になんてなってしまったら、どう足掻いても人間関係が必要になってしまうのだから。
中学のような二の舞いは、ごめんだ。
面倒な子供じみたいじめも俺の人生を自分の人生のために使うような教員もごめんだ。
あの胸の内が冷めていく感覚はあまり味わいたくない。これ以上冷めてしまったら俺はどうなるのだろうか。
そう考えながらも席に座って窓の外を眺めるても桜しか見えず退屈だ。
カバンを見たところで教科書とノート筆記用具しか入ってないのだから暇を潰せるものもなく、意味をなさない。
まぁ、いいかと再び窓の外を眺めることにした。
すると、教室内で「キャー!!」という女子の歓声に耳がツキリと感覚が走りそちらを横目で見る。
すると、教室のドアの前には昨日会ったばかりの陽由香先輩。
そこにクラスの女子が集まり固まりと囲まれていた。
やはり、イケメンというやつはモテるらしい。
女子たちが顔を赤くして必死に押し合って先輩に話しかけようと必死だ。
俺にはどうでもいいことだ。
再び窓に視線を向ける。
「白翔くん!」
まさに今、俺が関係ないと思った矢先に先輩が手を振ってこちらに近づいて来る。
こちらに来ないでくれと今更願っても遅いことがわかる。
その瞬間、女子がヒソヒソとこちらを白い目で見て何やら話している。
人に関心がない俺でもわかる。
これは、面倒なことになってるということが。
すでに先ほどの賑わっていた教室内も、明るさも華やかさもなくほぼ、静まり返っていた。
「昨日ぶり、俺のこと覚えてる?」
「‥陽由香先輩」
それでも、話しかけて来るこの先輩はきっとこの扱いに慣れているのだろう。
そして、名前を呼んだだけ。それだけ言っただけなのに先輩の瞳は輝き、周りの女子はさらにヒソヒソと話し睨みつけて来る女子もいる。
きっと気に食わないのだろう。自分は見向きもされなかったのにこんなやつに話しかけている姿が。
考えなくても、確かにこんな前髪がボサボサで如何にも孤立人に、先輩とは釣り合いが取れてないだろうに。
「そういえば、クラス聞いてなかったなって探してたんだ」
「‥はぁ」
また、赤くなってる。
何がそんなに赤くなることがあるのか。全くわからなかった。
先輩はよく、表情がコロコロ変わる。
入学式の時もそうだったが、今まさに赤くなっていた。そうかと思えば次は、あわあわと慌てたまま何か話している。
俺も先輩と同じになったらあんな風に話すのだろうか。何か心動かすことがあるのだろうか。
いや、考えても無駄か。どれだけ努力しても何も変わらなかったのだから。
「‥とくん!白翔くん!」
「‥はい」
考え事をしてる間に何回も呼ばれていたらしく、先輩は頬を膨らましていた。
「連絡先聞いても良い?」
怒っているのかと思えば、机の前でしゃがみ込んでコテンと首を傾げ、柔らかい笑みを浮かべながら問いかけられる。
後ろに控えてる女子が小さく歓声を上げている。
これが、イケメンの力か。
何やらキラキラと感じるものがあり、心なしか眩しく感じ、目を細める。
そして、近くで見るとまつ毛も長く切れ長の目がより綺麗に見える。顔が整っているのがよくわかる。
だが、俺には何も感じない。何も思わないし意味がない。
連絡先。
交換するのは別に構わないのだが、この先輩はだめだと頭の中で思った。
例えばこれが女子から人気もなくいわゆる『普通』の生徒だったら適当に渡しただろう。
だが、人気すぎるがあまり面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。
「‥いやだ」
すると、先輩は呆気に取られ口を開けて固まってしまった。
切れ長の目も大きく開かれてまさに、『驚いている』という顔を表していた。
数秒固まった後、先輩は顔を俯かせて立ち上がって黙って去っていった。
先輩が教室を去り、教室内の空気は最悪だった。
明らかに視線は俺に集められていて、何やらよくないことをヒソヒソと言われてるのがわかる。
最悪というのはこのことを言うのだろう。
登校初日からクラスで悪い意味での注目の的になってしまった。
時計を確認すれば後数分でチャイムが鳴る。
「はぁ‥」
仕方ない。初日からサボりはしたくなかったがこの空気で変に絡まれるのも面倒くさい。
席から立ち上がり俺を中心に行き交う視線が痛い教室を立ち去る。
さて、何処に行こうか。
とりあえず、人気のない方向に廊下を歩いて辿り着いたのは図書室。
もうすぐ授業が始まるからか中には誰もおらず適当な椅子に座って机に顔を伏せる。
春の陽気と言うのか、この図書室の静けさのおかげか、すぐに眠気がやって来る。
目を閉じればすぐに眠れた。
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