依存

戌亥

第1話

 期待した物事が、期待通りであるはずがない。

 これは、だれの言葉だったろうか。わたしはすでに、いままさにそれを体現している。

 ありとあらゆるものに期待して、しかしそれはただの人任せであり運任せであり、怠惰であった。わたしはそれを、理解していなかった。

 わたしは愚者であり、故に腹から血をながして蹲っている。

 旧知の友は、ただわたしの金が欲しかっただけであり、最愛の妻は、ただわたしの地位が欲しいだけだった。

 わたしは考えるということをしなかった。周りにはつねに人がいて、したいことがあれば叶えてくれるし、だめなことはだめと言ってくれる。人に甘えて生きてきた。

 誰かがいるのは当然だと思い生きてきた。敵はいないと思い生きてきた。

 そんなわけはない。そんなはずがない。

 わたしは、死んで初めてそれを知ったのだ。

 幸福と思っていた生涯は、ただ無為であった。

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