外典 1-5  そして、そして・・・・

「彼女は僕のラブレターを受け取ってくれたんです。僕の好きになった人なんです。無下にされているのを黙って見てられません」


「お付き合い出来ませんって断られたのではなくて?」


「それとコレとは話が別です。そもそも何で知っているんですか」


「教師は生徒のことを何でも知っているものよ。今でも未練は在るのでしょう。だったらわたしと一緒に参加する?別にわたしは良いのよ」


 適当なコトを宣いながらも指先は滞ることは無く、纏わり付く手はすでにシャツの中にまで入り込んでいた。

 まるで触手か、のたうつヘビのような艶めかしさだった。ピンポイントで大事な部分を掴み取られてしまうような妖しさが在って、それが逆に恐ろしかった。


「えっ、でも、その・・・・良いんですか」


「構わないわ」


 あたしはそんなコト許可してない。


「勝手に話を進めないで下さいっ」


 あたしはジャージ教師に絡みつかれたまま藻掻いた。


 力任せに暴れれば振りほどくのは難しく無い。でもどの程度の力加減で良いのか。あたしのほんのちょっとは普通の人のどの程度だろうか。ちょっと振り回して腕がもげたではあんまりだろう。

 多少行き過ぎては居るが、悪意の無い相手を怪我をさせる訳にはいかなかった。


「邑﨑さん、ごめんなさい。やっぱり僕は諦めきれなくて」


「自分のシャツのボタンを外すんじゃない。何をしようとしている」


「邑﨑さんだってシャツ脱いでいるじゃないですか」


「コレは違うっ。四谷先生勝手にボタン外すんじゃない」


「自分の気持ちには正直に」


「正直も何も無いわ。放せボケっ」


「教師に向ってなんてコトを言うの。教育が必要だわ」


「耳朶を舐めるな。首筋に息を吹きかけるな」


「シンプルなデザインのブラ。邑﨑さんに似合ってます」


「たわけたこと言ってんじゃない。寄ってくるな。頬を撫でるな。顔を近づけ、むぐっ!」


 唇を奪われた途端に聞こえて来たのは女生徒の声だ。


「そこの三人、何をやっているのです」


「委員長」


「見て分からないかしら。六軒さん」


 ちょっと待て、アンタまでどうして此処に居る。


「異性不純交遊です、職員会議に掛けられますよ」


「その通りですね。ですが此処に居るみんなは恐らく同じ事を考えて居ますから、たぶん問題無いと思いますよ」


「如何にも見透かしたかの物言い。不遜だわ、七瀬くん」


 また一口増えた。


「八重垣先生。そんなコト言いながら邑﨑さんの靴を脱がして何やっているんです」


 もう一人教師か!


「靴下の長さが校則通りか調べているダケよ。行かず後家だなんて、不埒な物言いする子にはキチンとした教育が必要なのよ」


 勝手にスカートまさぐるな。あっ、いつの間に出て来た男性教師。


「スカートのジッパーに手を出して居るのは誰?九十九先生、ホックが先でしょう」


 脱がす順番で揉めてんじゃねぇ!


「ああ、このふくらはぎ。よく鍛えているわ、そうは思わなくて十禅寺くん」


 男子が更に追加。


「この左手の手首が良いです。良く似合ってるよ、この男物の腕時計」


 いい加減にしろっ。


「シャツのボタン、最後の一つは俺に外させてくれ」


「髪を撫でるのは反則です」


「左首筋にキスをしたのは誰?」


「右足の靴下はわたしに脱がさせて」


 眦がステキ。小指の先がセクシー。お尻の形が。腰のくびれが。肩のラインが。縦割れの腹筋が。喉の下の滑らかさが。髪が。頬が。唇が。うなじが。鼻筋が。睫毛が。脇の下が。膝の裏が。土踏まずが。鎖骨が。鳩尾から喉元へのラインが。この艶めかしい臍が。


 様々な場所に手が伸び、指が伸び、衣服と身体をまさぐった。もう何人が群がっているのかすらも分からなかった。


 必死で藻掻いた。もう怪我しようが知ったことかと思った。玩具にされてたまるかと叫んだ。

 でもろくに力が入らなかった。

 担ぎ上げられた格好で踏ん張りどころが無かったからだ。

 四肢が幾つもの手足で絡み取られててんで自由が効かず、声すらも様々なモノで遮られた。


 焦燥と、そして動転が在った。


 蠢こうとする度に腕を取られた。蹴ろうとする都度に太股を撫でられた。

 床を踏みしめようとしたら持ち上げられて足の甲にキスされた。

 息をしようとしたら再び誰かに唇を塞がれた。

 暴れようとしても暴れられず為す術が無かった。


 訳も分からず無力化されて、身に着けているものが次々と剥がされてゆき、どんどん無防備になってゆき、更に連中は大胆に為って、エスカレートしていって。


 止めろ、止めろ!


 力の限りに声を張り上げた。


 これ以上はダメだ!


 叫んだ筈なのに叫べなかった。


 あたしはあんたらの玩具じゃないと、そう喚いた。


 玩具じゃないわ。


 そうとも、大事にしたいと思って居るんだ。


 大切な人だから大切に扱っているダケよ。


 この気持ちを分かってもらいたいものだな。


 無数の言葉が響いて、何度の何度もこだまして直に頭の奥底にまで響いていく。

 そして、そして・・・・

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