第5話 救出作戦

 ぼくは、コンソールの椅子に座ると、頭に画像投影用のARグラスを被り、ヘッドフォンをつけた。


 猫ロボとの感覚のシンクロを行うと、そこは小型宇宙船の中だった。傍らで上条主任の灰色の猫が寂しそうに鳴いている。


 ぼくの見ている猫ロボのアイカメラを通じた画像は、そのままこの宇宙ステーションを介して、世界中に送られているはずだった。世界中の人が固唾をのんで、猫たちの救出劇を見守っているということなのだ。主任もきっと心配してモニターに釘付けになっていることだろう。


 シンクロ状態を維持したままでいると、ほどなくして宇宙人の超巨大宇宙船に小型宇宙船は入っていった。


 超巨大宇宙船はちょうど月の裏側に今ある。先ほどまで地球上にいたはずの小型宇宙船が、もうそこに達しているというのは凄まじいほどの超スピードだと言える。地球人の科学レベルからは考えられないくらいの科学力を宇宙人が持っているというのは確かなことなのだろう。


 小型円盤がドックに停泊し、入り口が開いた。ぼくはこのまま連れて行かれることも考えたが、最初に打ち合わせたとおり、素早くその出口から外に出た。宇宙船の中の様子を撮影し、宇宙ステーションに送る。その情報が猫たちの救出作戦に役立つためだ。ぼくは超巨大宇宙船の中を一つ、一つ調査・撮影を続けながら、猫たちの居場所を探した。


 主任の猫が気になったが置いていった。いざとなれば、主任の猫にもセンサーが埋め込まれている。後で助けに来ればいいだろう。


 まずは、捕まった猫たちがどこにいるのか、だった。ひょっとすると複数の場所にいる可能性も考えられたが、それも含め、怪しいところはしらみつぶしに探す覚悟だった。


 各国の知見の結集である臭気センサー、赤外線センサー、振動感知センサーの3つをフル稼働させ、通路を歩いて行く。かなりの距離を歩き回り、怪しいと予想されている地点を調査して回ったが。お目当ての猫たちはいなかった。その中で、ぼくは猫を抱いた宇宙人に出会ったのだった。


 小柄な紫色の華奢な体。大きな頭の中で、黒目だけの目もかなり大きい。その胸に猫を抱いていて、猫ロボの鼻センサーもそれがはっきりと本物だと示していた。その灰色の猫をよく見ると、一緒に来た主任の猫だった。宇宙人は猫を慈しみ、かわいがっているかのように見えた。猫も特に嫌がっているようには見えない。


 ぼくは宇宙人の目的をはかりかね、首をかしげた。

 すると、宇宙人がその場にしゃがんで「チッ、チッ、チッ」と口を鳴らしてぼくを、いや猫ロボ手招いた。


 ぼくは反射的に自分の操縦の割合を減らし、猫AIの働きの割合を90%に増やした。動きの大まかな部分だけをAIに命令し、あとはAIに任せる。


 猫ロボが猫そのものの動きで宇宙人に近づいていくと、宇宙人は猫ロボを抱き上げた。

 喉の下を撫でられ、ゴロゴロと鳴き声を上げる。


 宇宙人は意味不明な言葉を話しながら、ぼく(猫ロボ)ともう一匹の猫を抱きかかえ、どこかへ歩いて行った。


 おそらく、他の猫が捕まっている場所へ連れて行かれるのだろう。ぼくは辺りをキョロキョロと見回しながら、今自分がどこをどう連れて行かれているのか、情報を宇宙ステーションに送り続けた。

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