第6話 作戦開始
そこは、どこまで続くのか分からないほどに巨大な空間だった。真っ白なドーム状の天井は、端が見えないほどに曲線が広がっている。
「何なんだ。ここは? あの宇宙船の中にこれほどに広い部屋があるはずが無い……。まさか、四次元空間をここに展開しているのか!?」
ぼくは、宇宙人の科学力に身震いした。
部屋にはたくさんの猫たちがびっしりと寝転がり、まったりとしている。
宇宙人は、ぼくが操る猫ロボともう一匹の猫を床に下ろした。途端に、猫が床に寝転がり身もだえ始める。鼻センサーを稼働し、分析すると、マタタビの成分を感知した。薄くマタタビ成分を含んだガスのようなものが、まかれているのだろう。
何でこんなことをしているんだ?
呆然としていると、猫ロボを指さして宇宙人が騒ぎ始めた。その場で倒れていないのがぼくの操縦する猫ロボだけだったからに違いない。
宇宙人が、突然ぼくにラッパのように先の広がったものを向けた。先から出た光線が猫ロボを捉え、動きを拘束されたまま宇宙人の手元へと移動していく。
何だこれは? ロボが動かないぞ。重力光線っ……!?
「くそっ! なめるな!!」
ぼくは猫ロボの秘密動力である超小型核融合エンジンを起動した。アメリカが墜落した宇宙人のUFOから盗んだテクノロジーだった。猫ロボは見る見るうちに戦闘形態へと変形していく。後ろ肢は短くなり、小型反重力装置が飛び出る。前足にはチタン合金製の爪が生え出る。
猫ロボはあっさりと重力光線の拘束を打ち破った。
慌てる宇宙人の横をすり抜ける際に首をスパッと切り離すと、部屋の天井へと飛んでいく。そして、チタン合金製の爪に備えた高周波ブレードで天井を破壊していった。部屋の場所を猫輸送用の宇宙船へ発信する。
「猫たちはここだ! 助けに来いっ!!」
すると、ぼくの猫ロボは飛んできた複数の小型の円盤に重力光線を網のようにかけられ絡め取られた。地球の小型ドローンくらいの大きさの円盤が、よってたかって重力光線を発射していた。
「何てことをしてくれたんだ? 我が同士を殺すとは?」
直接脳に言葉が響いた。日本語と言うよりは、イメージがそのまま降ってくる感じだ。テレパシーというのが一番しっくりくるような気がする。
「お前たちが猫を誘拐するからだ! 飼い主たちはみんな悲しんでいるんだぞ!!」
「地球人は気づいていないだろうが、猫たちは絶滅寸前だったのだ……」
「どういうことだ?」
「猫エイズというのを知っているだろう? 猫たちが免疫不全症になる病気だ。そのウイルスの遺伝子が突然変異したのだ」
ぼくは宇宙人の言葉を呆然と聞いていた。猫エイズは野良猫のかなりの数が罹患している不治の病だ。未だ、完全な治療法は見つかっていないはずだった。
「空気感染をするようになり、発症率も桁違いに上がった。今までなら発症せずに命をまっとうする猫もいたのだが、今回のは致死率100%だ」
「そんなの知らないぞ……聞いたことも無い」
「そうだろうな。地球人が気づいたときにはもう遅い。それまでは待てなかった。だから我々は猫たちを保護したのだ。本当に猫というのは可愛らしく面白い。気ままに過ごし、気位きぐらいも高いのに、構ってやらないと、甘えてくる。こんな生物は宇宙のどこを探してもいないのだ。猫に会いたいために地球に来る仲間も多い……」
「そうなのか……その病気は、猫科の他の動物にはうつらないのか?」
「今回の変異はなぜか家猫だけだ。我々はこの愛らしい生物が絶滅するのは我慢ならなかったのだ……」
「治せないのか?」
「無理だ。病気に
「くそっ……」
「それにしても、地球人が猫たちを助けるために、ここまでするとはな。いつも戦争ばかりしている君たちが力を合わせてここまでやってくるとは想像を超えたぞ。それだけ、猫の持つ魅力は大きいと言うことだな……この猫のロボットは君たちを連れてきた円盤に乗せて地球に返すよ。ただし、君たち地球人は猫たちとは会えなくなる。もう地球に残っている家猫のほとんどは猫エイズのキャリアだろうからね」
宇宙人がそう言った途端、ぼくが遠隔操縦する猫ロボの視界カメラが真っ暗になり、全てのセンサーが遮断された。つまり、遠隔誘導そのものが無効になったのだった。
後で分かったのだが、同時に猫輸送用に用意していた地球側の宇宙船は一瞬で破壊されたらしい。そして、宇宙人の巨大UFOは何らかの推進装置によって爆発的な加速をすると、太陽に沿って軌道を回り重力を利用したスイングバイ加速でさらに速度を上げ、宇宙の彼方へ消え去っていったとのことだった。
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