第15話 本音
「ど、どうするの?」
ユタカの一言。
もし捜索判定されていたら今にもレーザーの速度が増すかもしれない、この時間がない状況で、誰も結論を決められずにいた。
十八回目であるラデンと、そして、なぜかメシアは、冷静に考えて不可能だとわかっている。問題があったのは、それぞれのチームのまとめ役であるシャラクとクロメ。
「行くべき、ではないでしょうね。安全策を取るなら、ここで何分か待機してレーザーが増えるか確かめる、という手になりますが……」
「悪魔の証明だよ。もしレーザーが増えなかったとしても、それが瞬間的なものであって永続的であるかは不明のまま」
「え、っと……」
「あたしたちが捜索してる最中に増えて、終わった頃には八本フルスピードになってました、ってこともある。そもそも増えるまで待つのは本末転倒だし、増えるとしたらあたしたちの第一シアタールームの分で、そのすぐ後に第二シアタールームの分が増えるだろうから、どっちにしろフルになって、再集結は無理」
「あぁ、なるほど」
手段はもうない。
それでも、内心に渦巻く不安と恐怖から逃れる手段が目の前にあれば、縋りつきたくなるのは人間として間違っていない。
クロメはリーダー気質ではあったものの、人を惹きつけるだけの魅力を持たない。場を和ましたり指揮を取ったりはできても、決断力が圧倒的に足りない。
シャラクはストイックで、そして他人に興味がない。表舞台での活躍を見れば圧倒的だが、それは評価されてからの話であり、それまでの彼女が他人から歓迎されていたかと言われれば、お世辞にもイエスとは言えない。
プレイヤーになる理由は、大きな偏りがある。社会へ適応できない、もしくはする気がない。
彼女たちは、失敗ばかりしてきた。確実な証拠もない状況で決断するような自信もなければ、他の策もない。
「……もう、仕方ないんじゃないのかな」
「と、言いますと?」
「二手のまま捜索すれば、良いんじゃないのかな。というか、本当はそれしかないのよね。さっきの話を聞いて、ようやく理解したわ。私だけよね、気づいてなかったの。あら恥ずかしい」
大袈裟に恥ずかしがらように見せて、ユタカは続ける。
「怖くても、どうしようもないのよね。冷静な二人なら、私なんかよりも早く結論が出ていたのでしょう?」
「……ん、そうだね」
「それなのに二人して……一体、何を怖がっているの? 怖いのなんて、今に始まったことじゃないでしょう?」
「…………」
言えなかった。
シャラクの恐怖は、今に始まったことなのだ。
仲良く五人でやって、打算もなく協力して、誰もが誰かのためにできることをやった。冷め切っていた彼女の心は、無意識のうちに……たしかな友情を感じていた。
しかし。
あの爆発により思い出す。これはデスゲームであり、自分の命も友の命も、みな等しく軽いのだ。
死ぬための理由にデスゲームに参加して、四回も勝った。当初の理由はどこへやら。今では彼女は、生きたいと強く思っていた。
故に、彼女には決断できない。自分の判断で友を危険に晒せるほど、彼女は自分以外を信用できない。
生きたいと思っていた。そして、それ以上に、生きていてほしいと思っていた。たった数時間前に会ったばかりの相手に。
そんな恥ずかしいこと、口が裂けても言えるはずがない。
「はぁ、そうだよ。ユタカの言う通りだよ。やるしかないんだ、どうせ。命賭かってるし」
「シャラクさん、根は優しいのね」
「はぁ!?」
「それで、クロメさんは?」
「行きますよ、もちろん。どうせ手段はないと諦めていたところです。現実的に考えれば、悩む理由もないんですが……ほら、ワタクシビビりですので」
「ふふっ、そうだったわね」
くすりと微笑めば、それに対応するようにクロメも笑う。リーダーとして気質はあっても素質はないが、場を和ませるだけであればクロメにとって難しいことではない。
「そ、それじゃ、行きましょうか」
「お互いに気をつけて行きましょうねっ!」
「「「……もしかして、待ってた?」」」
「い、いえっ!」
「そんなまさか!」
動揺しきったラデンと、わざとらしい否定をしたメシアのせいで、三人の顔が真っ赤な羞恥に染まる。チームメンバーにそれを見られまいと、そそくさと、シアタールームへと入って行った。
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