第11章 「傀儡の刃と、燃えあがる決意」
<闇の回廊、傀儡部隊との遭遇>
道場塔・管理室エリアを抜け、エレベーターシャフト付近の廊下へたどり着いた佐伯(さえき)ライチたち。
そこに突如として現れたのは、主任・吉良(きら)が率いる“傀儡部隊”。仮面を被り、黒い外骨格スーツに身を包んだ彼らは、一糸乱れぬ足取りでこちらを包囲しようとしている。
「フフフ……よくここまで来たな」
上の通路から吉良の声だけが響き、彼の姿はすでに闇の向こうに消えている。雷鳴がときおり塔内を照らし、傀儡兵の金属製のマスクと刃が光を反射する。
「こいつら、AIガントレット部隊よりも手強いかもしれん……。」
峯岸(みねぎし)光雲(こううん)が息を切らしながら警戒の構えをとる。脇腹の血がじわりとにじんでいるが、その闘志は消えていない。
「どんなトリックかは分からんが、全員高度な機械義手か外骨格を使ってるのかも。スタミナもパワーもこっちを上回ってる可能性が高い……!」
春口(はるぐち)幸奈(ゆきな)が動揺を隠しきれない。
汐崎(しおざき)祐真(ゆうま)が金属バットを握り、「こんな人形みてえな連中、まとめてぶちのめしてやる!」と突進しかけるが、藤浪(ふじなみ)卓矢(たくや)が「待て、まず相手の動きを見ろ!」と制止する。
傀儡兵たちは動き出すタイミングを探るように腰を落とし、両腕のブレードがチリチリと放電するような音を立てている。
「……来るぞ!」
佐伯が身構えた瞬間、傀儡兵が一斉に斜め横へジグザグに動き始めた。足音がほとんどせず、まるで滑るような高速移動だ。
「な、速い……っ!」
藤浪が驚きつつも即座に反応し、近づいてくる一人を回し蹴りで迎撃。しかし相手は地を這うように身を沈め、ブレードを逆手に振り上げる。
「くっ……!」
藤浪は間一髪で後ろへ飛び退くが、ブレードの先端が服を裂き、火花が散る。AIガントレットより小ぶりな武器だが、切れ味は凶悪そうだ。
「背後に回る気か……!」
春口がすかさず横へステップして、別の傀儡兵が藤浪の背後を取ろうとしたところへ飛び込む。腰を落としてタックルする形だが、相手の体は異様に硬く、外骨格のフレームが軋(きし)む音を発して抵抗してくる。
「この野郎……柔術で極めてやる……っ!」
春口が腕を取ろうとするが、傀儡兵はバネ仕掛けのように跳ね上がり、手首を巧みに外してブレードを振り下ろそうとする。
ガキィン……!
金属バットが割り込んで攻撃を防ぐ。汐崎が背後から援護に回り、「あんまり調子に乗るんじゃねえ!」とドスの効いた声を上げる。
「はぁ、はぁ……やっと一体を牽制したが……!」
春口が汗をかきながら立ち上がると、すでに別の傀儡兵が距離を詰めている。
一方、峯岸と佐伯は中央付近で合体攻撃を狙う。
「先生……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないが、やるしかない……!」
峯岸が脇腹を押さえつつ、息を整えて構える。佐伯は師匠に合わせる形で前方の傀儡兵に飛び込み、思い切り拳を叩き込もうとするが――。
「うっ……速い!」
傀儡兵は俊敏なステップで軌道をずらし、ブレードを振り上げる。佐伯は紙一重で下に潜り込み、ボディへの連続パンチを入れようとするが、外骨格の硬さに拳が痺(しび)れる。
そこへ峯岸が横から肘打ちを合わせ、外骨格のジョイントを揺さぶる形で衝撃を与える。
ゴキン……!
金属パーツがわずかに歪(ゆが)み、傀儡兵がバランスを崩す。
「今……!」
佐伯がとどめとばかりに上段へフックを叩き込む。仮面にひびが走り、傀儡兵の頭部が後ろへ仰け反る。電気スパークが走り、機械的な音が漏れる。どうやら顔面の制御ユニットを破壊したらしい。
傀儡兵が倒れ込むと同時に、峯岸が片膝を突き、苦しそうに息を吐く。脇腹の傷口から血が滴(したた)って床に広がるが、それでも歯を食いしばって立ち上がろうとする。
「先生……!」
佐伯が支えようとするが、峯岸は首を振る。
「まだ……ここで倒れるわけにはいかん……。」
その周囲では、残りの傀儡兵も三体ほどが猛攻をかけている。藤浪や春口、汐崎がなんとか押し止めているが、どこもギリギリの状態だ。
「このっ……しつこいんだよ!」
汐崎が金属バットを振り下ろして、外骨格の足を叩き折りにかかる。バキンという嫌な音がして傀儡兵の動きが鈍るが、上体だけでブレードを振り回してくる。
ザシュッ……!
汐崎のジャケットが切り裂かれ、胸元に浅い傷ができる。「ぐぁっ……!」血が滲むが、彼は怯まない。逆に牙を剥くように「こいつぅ!」とバットをもう一度叩き込んで頭部を粉砕する。
「ふ……はぁ、はぁ……。」
汐崎が荒い呼吸を吐き、目が血走っている。痛みと戦いながらブレード兵と対峙するのは容易ではない。
その横では藤浪が二体を相手に苦戦している。片方の足に引きずられるような動きを強いられ、あと一撃で切り刻まれそうな寸前で春口がタックルを決め、相手を弾き飛ばす。
「ふう……助かった、春口……。」
「いえ、こっちこそ……あともう一体いる……!」
傀儡兵が剣閃(けんせん)を振り下ろし、二人に狙いをつける。周囲は破壊された装甲片や火花が散乱し、足場が危うい。だが彼らは怯まない。連携と武術の技量で、わずかに道を切り開く。
<崩壊する足場、雷鳴の咆哮>
敵が執拗(しつよう)に攻め立ててくる中、塔外からの雷鳴がさらに激しくなり、稲妻が窓ガラスを明滅させる。どうやら本格的な嵐が近づいているらしい。
「塔が完成していない部分から雨水が漏れて、床がぬかるんでるぞ……!」
春口が注意を促す。配線やケーブルが剥き出しの床に水が溜まり、感電のリスクも高まっている。
すると、傀儡兵の一体が上段の鉄骨に飛び移り、天井を走る配管を伝って奇襲を狙うような動きを見せる。
「やばい……あれを放置したら上から狙われる!」
藤浪が空中へ跳躍しようとするが、足場が滑りやすくバランスを崩す。
「くそ……なんてしぶとい奴らだ!」
汐崎が唸(うな)りながらバットを投擲(とうてき)する。狙いは天井に張り付いた傀儡兵だが、ヒットには至らず、鉄骨をカンという音を鳴らして跳ね返る。
「――っ……!」
銀色の稲妻が窓の外を真昼のように照らし、同時に突き上げるような轟音が響く。塔全体が揺れた気さえする。雷撃がどこか付近に落ちたのかもしれない。
「ひとまず、あいつを引きずり下ろすしかない……!」
佐伯が焦る。そこへ峯岸が声を上げる。「……俺がやる。肩車をしてくれ、佐伯……!」
「先生、そんな体で……」
「いいから!」
峯岸の頑固な調子に根負けする形で、佐伯は師匠の背中を支え、肩車の体勢を作る。峯岸は脇腹に手を当てながらも足で踏ん張り、一気に頭上を狙う形に。
そこへ藤浪や春口も援護に入り、傀儡兵の視線を引きつける。
「うおおお……っ!」
峯岸が全身の力をこめて拳を突き出す。天井近くにいる傀儡兵に対してまっすぐ突く形だ。間合いはギリギリだが、相手が移動する瞬間を見切り――。
バキィン……!
拳が金属フレームを貫くように衝撃音を立て、傀儡兵の胸部装甲を潰す。機械的なスパークが散り、傀儡兵が悲鳴にも似た電子音を放ちながら下へ墜落していく。
「やった……! 先生、大丈夫ですか!」
佐伯が慌てて支えるが、峯岸はそのまま血を吐きそうになるほど苦しそうだ。
「ぐっ……大丈夫……今ので……少し落ち着いた……。」
落ち着くどころか真っ青な顔をしているが、峯岸は意地でも倒れない。
そして地面に落ちた傀儡兵が痙攣(けいれん)しながら動かなくなる。どうやら最後の一体も撃破完了らしい。
「ふう……全滅か……?」
藤浪が警戒しつつ周囲を見回す。ぴくりとも動く影はない。ブレードや外骨格の破片が散らばり、床はオイルや血が混じり合ってカオスな状態だ。皆の息遣いだけが響く。
「これで……少しは前に進めるか……。」
春口がヘトヘトになりながらつぶやく。汐崎はバットを拾い直し、「こんなのがまだごろごろ出てくるんじゃねえのか? たまんねえな……」と舌打ちする。
峯岸は佐伯に肩を貸されながら言う。
「先を急ごう。制御ブロックへ行けば、こういう連中をまとめて停止させられるかもしれない……!」
「ええ、そうするしか……。先生、マジでもう無理はしないでくださいね……。」
佐伯が必死に支え、藤浪や春口も周囲をカバーする。足場にはひび割れや浸水があり、時折火花が散る配線をまたぎながら階段を探す。
雷鳴が追い打ちをかけるように塔の外壁を打ち付け、何かが崩れるような嫌な振動が足元に伝わる。だが、ここまで来て引き返す道はない。全員、覚悟を固め、塔の上層を目指す。
<階段へ――制御ブロックへの道>
暗い廊下の奥に“STAIRWAY”と書かれた扉が見えた。緊急階段のようだ。
「ここだ……でも非常灯が落ちてるせいか、ほとんど真っ暗だな……。」
春口が扉を押し開けると、錆(さび)臭い匂いと湿気が押し寄せる。足を踏み入れれば下手すれば崩落しそうな雰囲気もあるが、ほかに選択肢はない。
「ここを上れば5階あたりに制御ブロックが……行くぞ!」
汐崎が先頭を切ろうとするが、佐伯と藤浪が「俺たちが先に行く」と言い、援護する形をとる。峯岸は疲弊が深刻だが、なんとかついて行く構えだ。
「無茶しやがって……じいさん、俺の肩貸すか?」
汐崎が意外にも気遣うような口調で峯岸に声をかける。峯岸は「いらん、これくらい……」と断りかけるが、体が正直もう限界。仕方なく汐崎の腕に借りる形で階段を上り始める。
「先生……私たちが先を切り開きますから……!」
藤浪と春口、佐伯の三人が階段を一段飛ばしで駆け上がり、先行偵察をする。壁にはひび割れや鉄骨がむき出しになり、雨水が流れ込んでいる。
ズシャア……
不安定な音がするたびに足場が揺れるが、なんとか1階分ほど登ったところで、さっきまでのような敵の気配は感じられない。
「このまま……何事もなく……とはいかないだろうけどね……。」
春口が青ざめた顔で呟く。
後方から汐崎と峯岸が追いついてくる。峯岸の呼吸が荒く、顔色もますます悪い。
「だ、大丈夫ですか……先生……!」
佐伯が心配そうに声をかけるが、峯岸は歯を食いしばり「先に進め……」とだけ言う。その気迫に、弟子たちも涙を浮かべそうになりながら頷く。
雷光がコンクリ壁の隙間から差し込み、一瞬、皆の顔を白く染める。彼らはもう退けない。
ゴゴゴ……
遠くで何かが唸るような振動が走る。塔の上層や外壁が風雨で揺さぶられているのかもしれない。耐久性が完全ではない塔が、本当に持ちこたえられるのか――。
それでも5人(峯岸・佐伯・藤浪・春口・汐崎)は意を決してさらに上へと向かう。制御ブロックの破壊こそがこの戦いの鍵。自分たちの命を繋ぎ止める最後の希望だ。
こうして暗い階段をよじ登る彼らの背後で、ひび割れだらけのコンクリが小さく崩れ落ち、火花と雨水が混じり合う音が虚しく響いていた。
<監視室の視点――吉良の策謀>
同じ頃、道場塔の上階にある仮設の監視室。
主任・吉良(きら)は大型モニターを睨(にら)みながら、侵入者たちの動きをリアルタイムで把握していた。監視カメラの多くは壊れているが、まだ生きているチャンネルもある。
「ほう……峯岸が相当に傷つきながらも尚、戦っているのか。弟子どもも汐崎も、まさに死に物狂いだな……。フフフ……実に素晴らしい。実験データも十分に取れそうだ。」
吉良は椅子に深く腰を下ろし、傍らにいるオペレーター風の人物に命じる。「傀儡部隊がやられた分、次の兵器を起動しろ。AIコアへ誘導するんだ。」
「はい……主任。ただ、外壁が荒天の影響で損傷しているエリアが増えてきました。このままだと上層の完成部分が崩れ落ちる恐れが……。」
オペレーターが危惧(きぐ)を示すが、吉良は鼻で笑う。
「構わん。所詮は“未完成”の構造だ。実験に使えれば十分だろう。……奴らが踏み込んでくれば、AIコアのシステムで一網打尽にできる。倒壊しそうなら逃げればいいだけさ。
それに、ここで峯岸どもを潰しておけば、もう二度と神戸県に歯向かう者はいなくなる……!」
モニターには脇腹を押さえる峯岸の姿。吉良は薄笑いを浮かべながら、「ジャッカルを仕留めた借りを返させてもらう」と呟(つぶや)く。
さらに別の画面を見ると、外部からレジスタンスの撹乱(かくらん)工作が行われているのか、一部施設で爆発や衝突が起きている様子が映っている。
「フフフ、無駄な足掻(あが)きだ。どうせAIコアを止めなければこの施設の真の機能は潰せない。結末は変わらん……。我ら神戸県の新時代に死んで花を添えてくれよ、峯岸!」
冷酷な笑みを浮かべ、吉良は指示を伝える。さらに上層の数カ所に兵器を展開し、制御ブロック付近にもAIによる自動防衛システムを起動するという。
「これでトドメだ……」
<階段からの崩落、そして新たな階層へ>
階段を必死に上っていた佐伯たちの足元が急に揺れ、強烈な地響きが走った。雷鳴に続き、下の階層で爆発か何かが起きたのかもしれない。
「やばい……揺れてる……!」
藤浪が手すりにしがみつき、春口も動揺する。
「急いで……この階段、下から崩れ始めてないか?」
汐崎が下を覗き込むと、コンクリ片が剥(は)がれ落ち、階段の支柱がぐらついている。さらに落雷の明滅が塔全体を薄青く照らし、まるで悪夢のような光景。
「あと少し……5階まであと二、三階分だ……行くぞ!」
佐伯が声を張り上げる。峯岸は肩で息をしながら、「……お前らだけ先に行け……俺はここで……」と呟くが、弟子たちは一斉に「先生、ふざけないで!」と返す。
「このまま先生を置いていくなんてできません! 一緒に来てください、何としてでも……!」
春口の目が涙で滲(にじ)む。峯岸は苦しそうに唇を噛みながらも、「ちっ……」と罵倒(ばとう)を飲み込み、弟子の肩を借りて一歩ずつ階段を上がる。
ガラガラ……!
下の階段が崩れ始め、煙と埃(ほこり)が吹き上がる。ぎりぎりのところで一行は上階の踊り場へ駆け上がり、息を切らして扉を蹴り開ける。
そこは狭い通路。非常灯の光がわずかに漏れている。壁には「5F」と書かれたプレートが見えた。
「ここが……5階か。地図によれば、このフロアに制御ブロックへの通路があるはずだ……。」
藤浪が息を吐きながら確認する。春口がタブレットでマップを開き、「うん、ここを右に進んで二つ目の通路を左に曲がれば、制御ブロックの入口……」と読み上げる。
「了解……行こう!」
汐崎が先頭を走ろうとした瞬間、背後でけたたましい崩落音が響き、振り返ると階段が完全に落下し、もはや来た道を引き返せない状態になっていた。
「こりゃ、戻れねえな……。制御ブロックを潰すしか生き残る道はねえってわけだ。」
峯岸が思わず苦笑しながら、腹の痛みを押さえる。
「生きて帰るぞ……弟子たちよ……。」
佐伯や藤浪、春口は緊張した面持ちで「はい!」と返答する。汐崎も黙って頷き、5階の通路へ走り出す。
<制御ブロックへの接近――AIシステムの牙>
5階フロアは、工事中とは思えないほど金属製の壁面が整備され、床にもケーブルが這っている。監視カメラやセンサーらしき装置がずらりと並び、重厚な電磁ロック付きの扉がいくつも配置されている。
「ここだけ近未来っぽいな……。さすが中枢部というわけか。」
春口が声をひそめながら感嘆する。
レジスタンスからの通信で、「6階にAIコアがあるらしい」という情報が飛び込むが、まずはこの5階にあるメイン制御ブロックを止めないとエレベーターなども動かせない。
「地図ではこの突き当たりを左に曲がったところだが……警備が手薄なわけがないよな。」
藤浪が身を低くしながら周囲を探索する。
キイイイ……
機械駆動音が耳に入った瞬間、通路の奥にある扉がウィーンと開き、中から一台の四脚ロボットが姿を現した。頭部にはカメラアイがついており、背部にガトリング砲のようなものを背負っている。
「また出たな、新型兵器……!」
汐崎がバットを握りしめる。四脚ロボは一瞬こちらを認識すると、素早く銃塔を旋回させ、ガトリングの回転音が鳴り始める。
「伏せろ……!」
佐伯が叫ぶ前に、ロボのガトリングから高速弾が噴出し、通路の壁や床をハチの巣のように削る。火花と破片が舞い、喧噪(けんそう)が一気に激化する。
ダダダダダ……!
耳をつんざく連射音。なんとか物陰に隠れたものの、また正面突破は難しい状況だ。
「くそ、どうする? これじゃ近づけない……!」
春口が叫び、藤浪は壁の後ろで歯ぎしりする。
「また囮戦術をやるか? それともアイツの弾が切れるのを待つ?」
「ガトリングにはかなりの弾数があるだろうから、待つのは無理だろうな。ならば一瞬の隙を作って、動力部かカメラアイを破壊するしかない……。」
峯岸が苦悶の表情を浮かべながらも戦略を練る。脇腹の血が止まらないが、ここでやらねば弟子たちが死ぬ。
「先生、もう休んでてください。俺たちが何とかします……!」
佐伯が言い放ち、目を鋭く光らせる。「藤浪、春口、汐崎さん、俺に続いてください。カメラを狙う……!」
四脚ロボはガトリングを撃ち続け、弾痕の嵐が通路を埋め尽くす。床には水たまりができており、そこに火花が落ちるたびに煙が立ち上る。
ドゴゴゴ……!
一瞬のインターバルを感じ取った佐伯は、壁際を蹴ってロボの横へ猛ダッシュ。機体が旋回して銃口を向けてくるが、藤浪がすかさず正面から飛び込み、低い姿勢でタックルしようとする。
「弾幕をずらせ……!」
藤浪は危うく銃撃を受けそうになるが、ほんのわずかに早い動きでロボの脚にしがみつき、ガトリングの角度を狂わせる。火線は天井を削り取り、火花が降り注ぐ。
その隙に春口が横から跳びかかり、カメラアイ部を狙う。しかしロボはもう一方の脚で振り払い、春口は弾かれるように床に転がる。
「うあっ……!」
痛みに呻(うめ)きながら起き上がるが、今度はガトリングが完全にこちらへ向く。
「しまった……!」
ここで汐崎がバットを頭上から全力投げつける。**シュン……!**という風切り音と共に、バットがロボの頭部付近をかすめるが、致命打にはならない。
しかし、そのおかげでロボのカメラアイが一瞬そちらに注意を向けた。
「いまだ……っ!!」
佐伯がロボの背後を取り、力を込めた拳をエンジン部に叩きこむ。**ガギン!**と嫌な音がして、装甲がわずかに裂ける。スパークが起こり、ロボの動きが鈍る。
「決めるぞ……!」
峯岸が最後の力を振り絞り、脇腹を押さえながらカメラアイ部分へ掌底を突き出す。**バキィン……!**という衝撃音が響き、ロボが大きくのけぞる。
刹那、藤浪が脚を引っかけてバランスを崩し、ロボは床に転倒。そのまま内部から火花が散り、「ジジジ……」という電子ノイズを発して沈黙する。
「……はぁ、はぁ。何とか勝った……。」
春口が肩で息をしながら立ち上がる。汐崎もバットを回収して「クソ……いちいち苦労させやがる」と言い捨てる。佐伯は峯岸を支え、「先生……本当にもう、無茶しないで……!」と声を詰まらせる。
峯岸は立っているのがやっとの状態だが、意思の力で踏みとどまる。
「まだだ……制御ブロックを……破壊するまでは……倒れん……。」
<制御ブロックの扉、突入>
四脚ロボを破壊した先にある分厚い扉には「MAINTENANCE CONTROL」の文字が書かれ、中央にはカードリーダーらしき装置が設置されている。
「ここが制御ブロックの入口か……!」
春口がタブレットを見ながら確認すると、ほぼ間違いないらしい。
「カードリーダーって……どうする? カードなんて持ってないぞ。」
汐崎が苛立ち混じりに言う。レジスタンスで入手した偽カードもあるが、こんな状況で使えるのか不明だ。
「じゃあ力ずくで破壊するしかないか……。金属バットと俺たちの拳で……。」
佐伯が唾(つば)を飲みこむ。すると藤浪が「でも分厚い扉だぞ? 時間がかかりすぎたらまた敵が来る……」と不安そうだ。
そこで春口が閃いたようにタブレットを操作してみる。
「一応、通信で宮木さんたちに助けを求めよう。遠隔で扉を開ける方法があるかもしれない……。」
タブレット画面にノイズ混じりのレジスタンス通信が表示され、宮木が「どうした、そっちは!?」と声を上げる。
「今、制御ブロックの扉の前なんです。カードリーダーでロックされてて……リモート解除とかできませんか?」
春口が早口で要点を伝える。
宮木の声はノイズ交じりだが、一瞬黙った後、「試してみる。あまり期待はするな……」とだけ返ってくる。
「待ってろ……監視室や管理室の端末からアクセスできるかも……。」
数十秒が経過し、一行は息を詰めて待つ。峯岸が限界を超えそうな表情で壁に寄りかかり、佐伯や春口が必死に「先生、もう少し……」と声をかける。
ピピッ……ガコン……
電子音が響き、扉のロック部分が小さくカチッと外れる音がした。
「やった……開いたか……!」
藤浪が期待を込めてプッシュすると、重厚な扉がゆっくりと開き、内部の空間が視界に入る。
「こいつは……想像以上だ……。」
扉の向こうは広い制御室で、中央には巨大なメインコンソールとサーバーラックのような装置が並んでいる。赤や青のランプが点滅し、モニターには無数のシステム情報が流れている。
「ここをぶっ壊せば、神戸県の管理システムは機能停止する……かもしれない……!」
汐崎が金属バットを構える。春口や藤浪も拳を握りしめ、佐伯は改めて峯岸を支える。
だが、誰もいない……のか。
「本当に敵はいないのか? 罠があるかもしれないぞ……。」
藤浪が警戒を強める。足元や天井にセンサーやカメラがあるが、ドローンや傀儡兵の姿は見当たらない。嵐の雷鳴が遠くで轟き、空気が重苦しい。
「……よし、一気に破壊しよう。時間がない。外壁が崩れ始めたら俺たちも巻き添えだ。」
佐伯が皆を促す。峯岸は苦しそうに「行け……俺は……ここで……!」と呟くが、弟子たちは頑なに拒否する。
「先生、せめてコンソールを壊す瞬間を見てください……! これで神戸県の凶行が止まるんですから……。」
「ふっ……馬鹿弟子どもめ……。」
峯岸は目を細め、残る力を振り絞って壁に背を預けながら立ったままでいる。汐崎が金属バットを振り上げ、春口や藤浪はサーバーラックへ向かう。
「オラァァ……ぶっ壊してやる……!」
バットがメインコンソールを叩き、モニターが砕け散る。春口と藤浪はサーバーのケーブルを引き抜き、蹴りと拳でパネルを破壊していく。
ガキィン……バリバリ……!
破壊音が室内に響き渡り、火花と煙が上がる。システム警告のアラームが高まるが、制御系が次々とダウンしていく。
「よし……もう少し……!」
佐伯が別のコンソールを殴り潰す。映し出されていた施設の管理画面が途端にブラックアウトし、光が暗くなる。
「やったか……? これで警備システムも止まる……かな?」
藤浪が息を吐く。春口も同じくインターフェイスをぶち壊して回り、室内はまるで廃墟のようになっている。
「ふう……これで道場塔の制御はオフライン……でも、AIコアってのが6階にあるんでしょ? そこから何か再起動される可能性は?」
春口が警戒を解かずに振り向く。
汐崎が血糊(ちのり)のついたバットを振り下ろしながら言う。
「なら、次は6階だ。すぐ行こう……。」
ズゴゴ……!
突然、天井がきしむ嫌な音を立てる。大きな揺れが制御室全体を襲う。崩壊が始まったかもしれない。
「クソ……急がないとマジで全壊しそうだ。これ以上ここにいられねえ……!」
汐崎が叫ぶ。藤浪と春口は峯岸を支えに行く。
「先生、もう動けないなら、俺たちが担いででも行きます!」
佐伯が強い口調で言うと、峯岸は苦笑いしながら「悪いな……借りるぞ……」と肩を預ける。
ゴゴゴ……ガラガラ……
天井の鉄骨が外れて落ちてくる直前、全員が制御室を飛び出し、扉をくぐった。その背後でドスンと凄まじい音が響き、破片が散乱する。
「行くぞ……次は6階……AIコアを止めなきゃ、まだ終わらない!」
春口が涙声で叫ぶ。心身ともに限界だが、戦いはまだ続く。火花と煙の中、彼らはさらに上を目指す階段へと駆け出した。
<主任・吉良の嘲笑、そして終局へ……>
制御ブロックが破壊され、塔内の大半のシステムはオフラインへ移行した。だが、それを監視している吉良はほくそ笑む。
「フフフ……随分と頑張っているようだが、AIコアまでは止められない。そこには私が用意した“最終防衛”がある。峯岸どもがたどり着けば結末は見ものだ……。」
モニターにはノイズが増えてきているが、AIコアの一部カメラはまだ生きているらしい。吉良はその映像を見ながら、新たな刺客の起動スイッチを入れる。
「さあ……ここからが終幕だ。俺の“完璧なるAI兵器”をもって、峯岸の拳を粉砕してやるわ……。」
激しい雷雨が塔を揺らし、大破の予感を漂わせる中、主任・吉良の目には狂気の光が宿っていた。
――第11章、幕。
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