第2話 魔物


「はは、本当に最悪だ」



 既にボロボロの剣士。アリスは半ば諦めたかのような顔でぼやく。今日もいつものように冒険者としてクエストを受けただけだった。



 今回の緑竜の討伐。それは難なくこなせた。そこまでは良かった。



「本当に、悪い夢でも見てるようだね」



 目の前には無骨な十字ヘルメットを腰に着け、銀色の甲冑を着た骸骨。そして手には目玉がついた槍を持っている。



 それは竜を討伐して現れた存在。S級モンスターの更に上を行く存在。特定指定災害種”銀十字”



「……」



 アリスは横目で倒れている仲間を見る。真紅のような髪色の少女が地面に横たわっている。それが起きたのは本当に一瞬だった。


 シャリアが銀十字が現れた瞬間に斬りかかった。先手必勝、それは正しい判断だ。だが、それでもアレには届かなかった。



 ほんの一瞬、アレが体の軸をずらして槍でシャリアの剣を受け止めた。すると、シャリアの体勢は面白いくらいに崩れてしまう。



 そこに槍での薙ぎ払い。シャリアは咄嗟に剣で受け止めていたものの、それでも動けなくなるには充分な一撃だった。



 僕はその動きを見て理解した。剣士だからこそ正しく理解出来た。



 今の自分たちではこれには決して届かない。



 ならば、やることはもう決まっている。



「ねぇ、ラーシャ」



「んー? どうしたの?」



 アリスが声をかけると杖を持った金色の髪を纏った少女が隣に立つ。



「僕がなるべく時間を稼ぐから。その間にシャリアを連れて逃げて欲しいんだ」



 それは撤退。己の命を賭けて仲間を逃す選択だった。誰が殿を務めるか、それを出来るだけ長く務められるのは自分だとアリスは判断した。



「僕が合図をしたら、シャリアを連れて逃げて。頼んだよ」



 そうして、アリスは一度大きく息を吸って覚悟を決める。



「悪いんだけど。私は逃げる気はないよ」



「え?」



 予想外の返答にアリスは銀色の髪を揺らし、目を丸くする。



「私は別に人を殺すのも、自分が死ぬのも躊躇いはないんだー。だから、私は残るつもりだよ」



「無理だよ! 絶対に殺される! それが分からないはずないでしょ!?」



「さぁ? なぜか私は殺せる気がするんだよね」



 ラーシャは銀十字を見つめて呟く。いつもと同じ、その顔には焦りも恐怖も見られない。



「……本当に、君は本当に馬鹿だ」



「あはは。その言葉を言われるのは2回目かな?」



 今から死ぬとは思えない顔で、ラーシャは笑う。反対にアリスの顔には陰りが見える。


「じゃあ、私が合図をしたら。シャリアを連れて行ってね?」



「……うん、分かった」



 そうしてシャリアを杖を召喚し、銀十字へと向ける。最期の別れとなることを予感する中、



「ファイア! あれ? アイス! あれ? じゃあこれでどうだ!?」



 急に現れて訳の分からないことを言い始めた男に全員が注目した。

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クールに人助けムーブしようとしたら失敗した クククランダ @kukukuranda

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