勇者という夢
明日はいよいよ王都という所まで近づいてきた2人。
「期限ギリギリだが、なんとか間に合うか?」
王都への道中、お人好しのアリシアが色んなクエストをこなすせいでなかなか王都にたどり着かない。
ついには時間短縮のため、やむなくコウスケがおんぶして移動することになった。当初恥ずかしがっていたアリシアもすぐに慣れ、今ではおんぶされながら平然と会話を交わしている。
「実は私は、もう20歳なんです。本当なら結婚するか修道院に入らないといけないんですけど、父に駄々をこねて大学に通ってたんです。でもそれもいよいよ厳しくなった時に勇者公認試験の話を知って……。勇者になれたら、父も私が外で自由に生きるのを止められないと思って家を飛び出してきたんです。」
(え、アリシアって20歳だったの?!童顔が過ぎるだろ……。)
アリシアの意図とまったく異なる所で驚愕したコウスケだが、そんなことはおくびにも出すわけにはいかない。
「そ、そうか。アリシアには抜き差しならない理由があるのだな。」
平静を装って返事するコウスケ。そんなコウスケの動揺に当然気づくはずもなく、アリシアは話を続ける。
「……ところで、コウさんは忍者、ですよね? きゃっ!」
コウスケは、アリシアの唐突な指摘におんぶする手をずり落としそうになる。アリシアなんかにあっさり見抜かれるとは。殺すしかないのか……?
「私達、いい組み合わせだと思います。もし私が勇者になったら魔王だって倒せますよ。」
コウスケの動揺と殺気をよそに、アリシアは屈託なく笑う。忍者であることを暴露したら殺されるかもしれないのに、そんな発想は頭の片隅にもなさそうだった。
「肩に刻まれてる模様、呪術を制限する呪印ですよね?」
「……そうかもしれないな」
「私、ロセッティ大神官の娘なんです。勝手に父の書庫に入り込んでよく本を読んでいたのですが、東方に伝わる呪術や呪印について書かれた本に同じ模様が描かれてました。」
「大神官のご令嬢か。だから小難しいことに詳しいんだな。」
「はい……。あの、火傷の治療した時、肩にあった呪印をみて確信しました。コウさんは、きっと呪術を操る忍者なんだって。」
「……」
自らのあまりの失態に、アリシアを殺す気が失せていく。それにアリシアなら、口止めを頼めばそれで事足りるだろう。
「私、その呪印、解除できると思います。今すぐは無理ですけど、父の蔵書を見ながらやればきっと出来ます。」
「……っ?!」
「だから、私とこれからも一緒に冒険して欲しいんです。」
「……それは無理だ。」
「どうしてですか?」
コウスケはふっーと大きくため息をつく。なにもかも慣れない夏休みのせいだ。勇者を目指したのも、こんな小娘とパーティを組んだのも、忍者とバレたのも、これからも一緒に冒険したいと思うのも。
「……アリシアが勇者になれたら、考えておく」
「やったぁ!約束ですよ、絶対!」
「まだ一緒に冒険すると決めたわけじゃないぞ!」
忍者を抜れば、影忍びの里のみんなに命を狙われるかもしれない。そんなリスクを犯して勇者パーティの一員になるなんて、まったく現実的ではない。だけど、アリシアが勇者に選ばれるなんてもっと現実的ではないだろう。そんな夢がもし叶うところをみたら、おれも夢に賭けてもいいと思える気がする。
おれはどうかしてる。そう思いながらも、アリシアをおんぶして歩くこの道がずっと続けばいいとコウスケは強く願った。
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