第2話 揺れる仮面
――都内某所、閑静な住宅街の中にひっそりと建つ高級マンション。その最上階にある一室が、玲奈の拠点だった。窓からは東京の夜景が一望でき、ネオンの海が闇を切り裂いている。
部屋の中はシンプルながら洗練されていた。白を基調とした内装に、彼女の趣味を反映したアートが壁に飾られている。テーブルの上には、先ほどまで操作していたノートパソコンが開かれ、画面には複数のファイルが映し出されていた。玲奈はその一つをクリックし、深い溜め息をつく。
「今回の相手は厄介ね……。」
画面に映し出されたのは、ある政財界の大物――大友正一郎の顔写真だった。彼は複数の不正な取引に関与しているとの噂があり、玲奈がターゲットに定めた人物の一人だ。しかし、その影響力の大きさと、彼を取り巻く人々の層の厚さが玲奈の作戦を難しくしていた。
玲奈が考えを巡らせていると、スマートフォンが短く振動した。画面を見ると、匿名の協力者から新たなメッセージが届いている。
「今夜、大友が六本木のクラブで密会を行うとの情報あり。詳細は送付した資料を確認せよ。」
玲奈は素早く資料をダウンロードし、内容に目を通す。そこには、密会が行われる場所や時間、そして参加者の情報が記されていた。
(今夜は動く必要があるわね……でも、あのクラブに潜入するにはもう少し準備が必要。)
玲奈はすぐさま行動に移った。
その夜、六本木の煌びやかな街並みが玲奈を迎えた。高級クラブ「ラ・ルーチェ」の入り口は、夜の闇に浮かび上がるようにライトアップされ、黒服の男性たちが出入りする客を厳重にチェックしていた。
玲奈は、シルバーのタイトなドレスを身にまとい、髪をゆるく巻き上げたスタイルで現れた。その姿は洗練されていながらも、どこか手の届かない気品を漂わせていた。
彼女は受付の男性に軽く微笑みかけ、事前に用意していた偽名で予約を確認する。
「こちらへどうぞ。」
案内された先は、VIP専用のエリアだった。そこは一般客のフロアと完全に隔離されており、豪奢なインテリアとプライバシーが徹底的に守られた空間だった。玲奈はその一角のソファに腰を下ろし、周囲を観察し始めた。
しばらくして、目当ての人物――大友正一郎が現れた。彼は高価そうなスーツに身を包み、取り巻きたちとともにVIPルームの奥へと消えていった。その部屋に入るにはさらなる信頼を得る必要があると玲奈は判断した。
(ここからが本番ね。)
玲奈はグラスを手に立ち上がり、何気ない様子で近くに座っていた別の男性に話しかけた。彼はどうやら大友の取り巻きの一人であり、その場の空気を観察しても重要な役割を果たしていそうだった。
「こんばんは。一人でいらっしゃるんですか?」
玲奈の柔らかな声に、男性は驚いたように顔を上げた。
「あ、いや、仲間が向こうにいるんだが……君は?」
「ここは初めて来たんです。少し退屈だったので、誰かとお話ししたいなと思って。」
玲奈の言葉と微笑みに、男性はすぐに気を許したようだった。
会話を続ける中で、玲奈はさりげなく彼から情報を引き出すことに成功した。大友が何を目的にここへ来たのか、そして彼が今夜会う予定の相手についての手がかりが少しずつ見えてきた。
(このまま彼に接近するのはリスクが高い。だが、情報を記録するだけならいけるはず。)
玲奈は持ち前の冷静さで状況を見極め、必要最低限の行動にとどめることを決意した。彼女は隙を見て盗聴器を仕掛け、さらに小型カメラで部屋の様子を撮影した。
任務を終えた玲奈は、自然な動きでクラブを後にした。外に出ると、雨が再び降り始めていた。冷たい雨粒が肌に触れるたび、彼女の緊張がわずかに和らぐように感じた。
しかし、安堵したのもつかの間、背後から誰かが近づいてくる気配を感じた。
(つけられている……!)
玲奈は冷静に周囲を確認し、近くの路地へと足を向けた。そこは人目につかず、逃走経路としても有効な場所だった。彼女は細いヒールであるにもかかわらず、軽やかな足取りでその場を抜け出した。
追手の足音が聞こえなくなった頃、彼女は近くの建物の陰に身を潜めた。
(どうやら撒けたみたいね。でも、油断は禁物。)
玲奈はスマートフォンを取り出し、情報を確認するとともに、協力者へのメッセージを送信した。
帰宅した玲奈は、疲労を感じつつも達成感を胸に秘めていた。再びノートパソコンを開き、得られた情報を整理する。大友とその仲間たちの会話は、予想以上に不正を裏付けるものだった。
「これで次の一手が打てる……。」
玲奈は静かに微笑む。彼女の戦いはまだ始まったばかりだが、その歩みは確実に進んでいる。
窓の外に広がる東京の夜景が、彼女の決意を祝福するように輝いていた。
女子大生の世直し〜その美貌を武器に今日も日本の闇を暴く〜 麒麟 @bisumaruku
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