女子大生の世直し〜その美貌を武器に今日も日本の闇を暴く〜
麒麟
第1話 沈黙のハニートラップ
深夜、東京の摩天楼を雨が叩きつけていた。都会のネオンが濡れたアスファルトにぼんやりと映り込み、雨粒が作る水たまりを照らしている。街路樹が風に揺れる音と、車のタイヤが水を切る音が、静寂な都会の夜に微かに響いていた。
玲奈はそんな喧騒を遠巻きに眺めながら、ホテルのロビーでゆっくりと足を組み替えた。艶やかな黒いドレスに身を包み、長い黒髪は整然とまとめられている。指先には赤いネイルが光り、グラスの縁をなぞる仕草は優雅そのものだった。
(この時間が一番緊張する。けれど、誰にも悟られてはいけない…)
彼女の視線の先には、重厚なドアを持つプライベートルームがあった。その中では日本の政治家たちが集まり、裏取引を行っているという情報がある。玲奈の目標は、彼らの腐敗の証拠を掴むことだった。
「お待たせしました、玲奈さん。」
低い声が玲奈の耳元に届く。振り返ると、ネイビーのスーツを着た中年の男が立っていた。丸顔に愛想のいい笑みを浮かべているが、その目には計り知れない油断のなさが宿っていた。
「いいえ、こちらこそお呼び立てしてすみません。」
玲奈は微笑みながら立ち上がり、男の腕にそっと手を添えた。その仕草は計算されたもので、相手の気を完全に引き込むためのものだった。
エレベーターに乗り込むと、玲奈は男と軽く会話を交わした。外見上は他愛もない会話だが、玲奈は男の口から漏れる情報の断片を逃さないよう耳を澄ませていた。
(やはりこの男も何か握っている。手元の情報と照らし合わせれば、もっと深く探れるかもしれない…)
エレベーターが高層階で止まり、二人は広々としたスイートルームに足を踏み入れた。豪華なシャンデリアが天井に輝き、厚い絨毯が足音を吸い込んでいた。
部屋の中央では、スーツ姿の男たちが数人集まり、シガーを燻らせながら談笑していた。その笑い声の中に混じる彼らの本性を玲奈は瞬時に見抜いた。
「玲奈さん、こちらで少しお話ししませんか?」
誘われるまま、玲奈はソファに腰を下ろす。その間にも、部屋の様子を観察する目は怠らなかった。
(盗聴器を仕掛けるタイミングは限られている。誰かが席を外した瞬間を狙わないと…)
玲奈は、男たちの視線を自分に引きつけるため、あえてグラスを片手に会話を続けた。声のトーンや笑顔の角度、さらには身体の角度まで全てが計算され尽くされている。
「玲奈さん、あなたのような方が政治の世界に興味を持ってくれるとはね。」
政治家の一人が言うと、玲奈は笑顔を浮かべながら軽く首を傾げた。
「興味というより、社会をもっと知りたいだけです。皆さんのような方々がどんな世界で働いているのか、とても興味深いですわ。」
男たちは玲奈の言葉を疑う様子もなく、むしろ彼女の美貌に気を取られていた。その隙を見逃さず、玲奈は巧妙に彼らの警戒心を解いていく。
やがて、男たちが別室で会話を始めると、玲奈はそっと腰を浮かせた。手早くバッグから盗聴器を取り出し、テーブルの裏に仕掛ける。
(これで十分な証拠が取れるはず…あとは時間稼ぎね。)
部屋を出た玲奈は、再びホテルのロビーに降りてきた。外は依然として雨が降り続き、窓ガラスに水滴が流れ落ちている。
玲奈は傘を差しながら夜道を歩き始めた。足元から響くヒールの音が雨音に溶け込み、彼女の心に静かな安らぎをもたらしているように感じた。
(私がやっていることは本当に意味があるのかしら…?)
ふとした瞬間、そんな疑念が頭をよぎる。しかし、すぐにそれを振り払った。
(迷っている暇なんてない。私は私のやるべきことをやるだけ。)
玲奈の視線が前方の灯りに向けられる。そこには、彼女の行動を支える目的が確かに存在していた。
家に戻った玲奈は、部屋の窓を開けて新鮮な空気を吸い込んだ。雨はすっかり上がり、東の空には淡い朝焼けが広がっていた。
玲奈は小さなノートパソコンを開き、今日の任務で得た情報を整理する。政治家たちの会話の録音データを慎重に聞き返しながら、必要な部分だけを切り取って保存する。
「これをリークすれば、奴らの不正が明るみに出るわ。」
玲奈の瞳に強い決意が宿る。その目は、次なる任務への覚悟を物語っていた。
彼女の旅路は始まったばかりだ。日本の腐敗した上流階級を浄化し、経済を立て直すため――玲奈の戦いはこれからも続いていく。
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