1,蓮華、読者モデルコンペに誘われる


先月まで淡い紫色の花びらを舞い散らせていた桜の木々は、今はすっかり緑の葉を宿す。

燦々と降り注ぐ陽光を葉の隙間から漏らしては、新しい命を大量に抱え大変そうな土達に養分を与えている。


空は高く青く、雲たちは大同小異、皆楽しそうに空中散歩を満喫している。

教室の開かれた窓からは、サラサラと清涼で暖かく気持ちのいい空気が流れ込み、自然と心を軽くしてゆく。


「ねぇ蓮華、ちょっと今いい?」


始業式からちょうど一か月が過ぎた頃、そろそろ長袖のブラウスを重たく感じるようになってきた。

教室の後ろの方で結衣とお弁当を食べている私に、背後から声がかかる。


「ん?」

モシャモシャ。


振り向けば長身秀麗の岬、それからもう一人。

隣のクラスの子だろうか?

派手目のお化粧に真っ茶色に染めた髪の毛を胸のあたりでクルンとカールさせている。

随分、可愛らしい。


モシャモシャ。

「はに?」(なに)


「来週の日曜日、あんた暇?」

「ひば」(ひま)

モシャモシャ。


「OK、良かったわね、京子。これであんたらの勝ちは確定よ」

何かが勝手に決まる。


「はんのほほ?」(何のこと?)

モシャモシャ。


「あぁ、ゴメンゴメン、そうね。紹介するわ」

手の平をパタパタ。

まったく心が籠っていない。


すると隣に立っている可愛らしい子が、ぴょこんと頭を下げてくれた。

クルンとカールさせた髪の毛が、ビヨン、と上下に揺れる。

ビヨン、ビヨン。

バネみたい。


「この子、京子っていって園子の友達なんだけど、お小遣い稼ぎでギャル系雑誌の読モ(読者モデル)をやってるの」

「……」

モシャモシャ。


「それで来週の日曜日に雑誌主催のモデルコンペがあるらしくて、そこで一番になれば来月号にでっかく掲載されるんだって」


「ふぅん。べ? (で)」

モシャモシャ。


「あんた、それに出て」

お願いする態度とは思えない。


「はんべ?」(なんで)

モシャモシャ。


「勝つためよ」

上から目線。

ほぅ。


「お願いしまっすっ」

京子って子が恐縮している。

眉毛細いなぁ。

あと、睫毛なっが~。

見るからにGAL系ね。


すると彼女が深々と頭を下げてきた。

きっちり45度に折れている。

びびってんのかな? 私に。


「ふぅん」

私は相槌を打ちつつ、彼女のツムジの辺りをじろじろと見る。

目の前で頭を下げられれば、視界の全部をツムジが占める。

「……」

髪の生え際まで赤く染められているのが分かる。

しっかり時間をかけてそうだなぁ……。

感心してしまう。

モシャモシャ。


黒い地毛が少しも見えていないってことは、丁寧にお手入れしている証拠。

私は視線を少し引くと、彼女の全身を視界に入れた。


「(お、短けー)」

モシャモシャ。


スカートの丈は随分短い。

ちょっと頑張り過ぎじゃなかろうか?

裾の位置が岬とほぼ同じ高さだから、下着が見えるかどうかの境界線。

GAL一色って感じの子が、体育会系の人みたいに律儀にペコンと頭を下げている。


「ぼも。(ども)」

モシャモシャ。

とりあえず私も会釈しとく。

モシャモシャ。


「うっす」

「?」


相撲部みたいな挨拶を返された。

日焼けサロンで焼いたような浅黒い肌だ。

そんな彼女は未だに顔を上げずに下を向いたまま。

「……」


彼女の視線の先には私のお弁当が置かれている。

もう半分くらいまで減っている。

そんなに見なくてもいいのにと思うけど、私のお弁当に興味がある訳じゃないだろう。

きっと緊張して視線を合わせられないんだろうな、私と。


「(ヤバ、なんかムラムラする)」

私はこのムラムラする気持ちが子犬を前に湧き上がる感覚に似ているなと思った。

余計な肉の一切をそぎ落とし、スカートの丈が短いにも関わらず両足の付け根を裾の奥に眠らせている、可愛気のない“岬”とは正反対。


さわりてー。

モシャモシャ。

私のねちっこい視線に気付くことなく、彼女はマシンガントークを始めた。



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「蓮華のステータス」

1,命の残り時間    :キッカリ1年と1か月間

2,主人公へ向けた想い :トラウマ・レベル

3,希望        :★☆☆☆☆

4,絶望感       :★★★☆☆

5,美貌        :★★★★★


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