切り裂き道化の暇つぶし④




「しっかし、予想通りお前もクロから俺のレヴァラグデビューを知ったのか‥。あいつマジで拡声器スピーカーじゃねーか」


「彼、馬鹿にしたような言いようだったけど、本心では君のレヴァラグデビューをとても喜んでいたよ。良い友達を持ったね」


「うっせ」


「アァ…ヘヴンちゃんそこマジヤバイっテ……///」


 ヘヴンは俺と話すと同時に、キョウイチロウに完璧なフォームのコブラツイストを決めていた。ギチギチとした締まる音やキョウイチロウの様子から、多分本気だ。


 しかしキョウイチロウの表情を見るに、苦痛というよりどことなーく気持ちよさそうなのはどうしてなのだろうか。やっぱこいつは現実でも犯罪者扱いされるべきなんじゃ?


 そして気になるフォルモイドだが、ヘヴンが持っていた鎖によってしっかりと拘束されていた。さっきまでの飄々とした態度とは一変、一言も喋らずにただ俯いている。

 そういえば、鎖で繋がれてる時にヘヴンに何か言われてたな。聞こえなかったけど、それが原因だろうか。よく見るとちょっと小刻みに震えてるし。


「しっかし、面倒なことになったね。予定ではショウMAくんをスターティアまで運んでもらった後、協力してほしいことお願いがいくつかあったんだが‥」


 ヘヴンは決して体勢を緩めることはしなかったが、それでも何か困ったような表情を見せる。


切り裂き道化キョウイチロウくんと知り合いって大多数にバレちゃったからね。『悪鬼惨殺』はもちろん、彼に恨みを持ったプレイヤーにまた狙われないとは限らないし、しばらくはログイン控えたほうがいいかも」


「は?やだよクラスメイトの話題についていけないじゃん」


「ショウMAクンって陰キャの癖に変なとこ図太いよネ♫まぁそこも可愛いんだけドッッ///」


 キョウイチロウが喋ると同時に、ヘヴンがより一層関節に力を込め、キョウイチロウのセリフが止まる。

いい気味だ。もっとやってくれ。


 そして俺の考えに対し、何かを決断したのかヘヴンの表情に迷いがなくなった。


「そしたら、ショウMAくん自身が強くなるしかないね。もともとその予定だったし、丁度いいや」


「それには賛成だネ♫早くボクと殺し合いできるレベルにまであげてヨ〜♡」


「君は静かに」


「アァァァ‥///」


 もはや漫才と化している目の前の状況に内心少し笑いつつ、俺は真面目な顔でヘヴンの話に耳を傾ける。


「幸い君のPS自体は文句なしだからね。後はレベルや装備をある程度整えれば、レヴァラグ内でも敵は少ないと思うよ」


 そうでした。忘れてたがこのゲームはファンタジー要素満載の神ゲーなのだった。間違ってもPKプレイヤーとエンドレスで戦うなどと言った鬼畜ゲーではない。

 

「おー。じゃあしばらくは一人でレベリングしてみるとするわ。あ、間違ってもついてくんなよキョウイチロウ」


「ンーなんでわかったのカナ?」


 こいつのことだ。先にこうでも言っとかないと、俺の楽しい楽しいゲームライフを邪魔しかねない。


 億が一、レヴァラグをプレイしてるであろうクラスメイト達にまで、こんなやつと知り合いだとバレた暁には友達になるどころか即腫れ物扱いだろう。


「ショウMAくんのことだ。どうせ自分の力で攻略するっていうだろうから、私たちはよ」


「おーさんきゅー。それじゃあ今日はここら辺でログアウトするわ‥って!」


 いろんなことが起こりすぎてて忘れてた!ゲーム開始時が確か午後三時くらいで、それからここまで歩いてきたりしたから‥?


「今って現実だと何時だ!?」


「え?えーっと‥九時の二分前と言ったところかな」


「やっば!お、俺9時前にはゲームやめないと何日かゲーム禁止になるんだ!それじゃあな!」


「え!?ちょっと‥!」


 そう言い放ち、俺は即座にメニュー画面を開きながらログアウトボタンを押した。すぐに視界が真っ暗になり、徐々にゲーム内の感覚が薄れて行くと同時に、現実の感覚が戻ってくる。



 完全にログアウトした瞬間、すぐにヘッドギアを外したが時すでに遅し。

 目の前には、ストップウォッチを持って堂々と俺の部屋に仁王立ちしている妹の姿が。


「約束の九時を十一秒オーバー。お母さんに報告だね、兄さん」


「畜生ぉぉおおおおおおおお!!!!」












「…彼、リアルだと高校生って聞いてるんだけど?」


「カワイイじゃン♫将来大人になったら、好きなだけゲームさせてあげたいネ〜♡」



 ショウMAがログアウトして数分。残された二人は依然として武器屋の周辺をたむろしていた。



「てかそれよりヘヴンちゃんサ。、どうする気?」


「んー‥スライムの餌にでもするかな」


 キョウイチロウが指差した先には、もはや原型を留めていないほどにまでぐちゃぐちゃにされたフォルモイドの姿があった。

 まだ仮面とプレイヤー名があったおかげで判別できるが、今の姿だけでは誰一人として見分けることはできないだろう。

 プレイヤーネームや実体が消えないことから、これでもまだ生きていることがわかる。


 そしてなんと言っても不気味なのが、どうみても人間の正しいパーツの付き方をしていないこの物体が、がかのようにくっついていることだ。

 血痕はあるが、フォルモイドに傷そのものは一つも見当たらない。


「回復薬漬けにしてHPを常に1に保ちながら少しずつ切り刻んでいくとカ‥ボクでも思いつかないヨ?」


「こうでもしたら『悪鬼惨殺あっきざんさつ』も分かるでしょ?を敵に回したらどうなるか」


「エー‥僕がしたことにするノ?コレ」


「さっき大量にPKしたんだから、この際一人くらい変わらないでしょ。全く、私に任せればを無駄に貯めることなかったのに」


「PKが保身に走ったら終わりだヨ」


 キョウイチロウはそう言いつつ、元『フォルモイドだったもの』を何枚か適当に撮影した。

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