切り裂き道化の暇つぶし②




「んも〜しつこいネ、君たち悪鬼惨殺モ♫てか、よくココだってわかったネ♫」


「今現在、SNS上にあなたの目撃情報が多数上がっておりまして〜。お連れのお嬢さんも何かの関係者かと思って襲わせて頂きましたが、庇ったってことはやっぱそういうことですよね〜?」


(これ絶対さっきの入口スクショラッシュが原因だろ…って誰がお嬢さんだコラ!)


 色々言いたいことはあるが、ネットとはいえ初対面の相手に全力でメンチ切れるほど俺のコミュ力のレベルは高くない。しばらくは心の中で実況しようと思う。うん。


 というかキョウイチロウの口ぶりを見るに、こういうことは初めてじゃなさそうだな。PKKGの『悪鬼惨殺あっきざんさつ』ねぇ…クソカッケェなおい。

 PKをキルするギルドって、一般的に見たら正義の味方じゃねーか。


「うちのマスターは筋金入りのPKKPKキラー。『賞金稼ぎのクソ共が来る前にキョウイチロウを始末しろ』との指令まで出してきましてね〜」


(おいおい、またこう言う感じか?なんか俺、PKに好かれすぎてない?)


「全く、人使いが荒いのなんの〜。ま、と言うことで早速、二人まとめてお命頂戴しちゃいますよぉ〜♡」


 一日で二回もPKに狙われる初心者などいるのであろうか。いてたまるか馬鹿野郎。

 というか仮にもここ市街地だよな?そんなとこでプレイヤー同士が戦うなんて、現実なら即通報案件じゃないか?そしてギルド単位で狙ってくるって、こいつ一体どんなことしでかしたんだよ。


 そんな俺の不安を尻目に、キョウイチロウはどうやら既にやる気満々のようだ。顔を見るに、もうスイッチが入っている。というかいい加減離してくれ。羞恥と恐怖でどうにかなりそうだ。


 俺はいまだにキョウイチロウの左腕に抱き抱えられている。普通の女の子ならこの状況に思わずキュンとかするんだろうが、残念ながら見た目はともかく中身は男。

 ましてや相手はこの変態紳士。キュンどころか心臓がキュッてなる。


「ひとまず離せキョウイチロウ。俺も戦うから」


「ンー、ダメだネ♫」


「なんでだよ!?」


「ショウMAくんが思ってる以上に、このゲームのPVPってレベル差や武器差が顕著に響いて来るんだよネー。ショウMAクン確かまだ『レベル2』でしョ?一対一タイマンならまぁPSでカバーできなくもないけド、この人数差じゃはっきり言って足手纏イ♫」


「うぐぐ…」


 多分、この場に限ってはこいつの言ってることが正しいのだろう。森での戦闘はスライムとの一騎打ち、一回ぽっちだ。


 スターティアに来る道中にも、キョウイチロウのせいで序盤のモンスターが寄って来なかったために一回も戦闘していない。武器も、さっき改めて買い直してもらった初心の短剣一本のみだ。


「まぁ〜精々頑張ってくださいねぇ〜♡あ、もうやっちゃっていいよ、みんな」


 襲撃者たちのリーダー、フォルモイドの合図とともに、周囲のPKKPKキラーが一斉に襲いかかってきた。付けている装備を見るに、全員かなりこのゲームをやりこんでいることがわかる。

 熟練のプレイヤー複数人相手ともなると、流石のキョウイチロウにも緊張が走るのか。何やら真剣な顔でボソボソと呟いている。


 しかし、それは俺の見当違いであったがことがすぐにわかった。てかよくよく考えたら、こいつが緊張なんてするわけなかったわ。


「ンー♫多く見積もって、全員で十八秒ってとこかナ♡」


「はぁ〜?」


 そう宣言した次の瞬間。先ほどの俺との戦闘でも使ったトランプを何枚かインベントリから取り出し、敵の集団に向かって素早く投擲する。

 それらは全て、集団の最前線にいたタンクらしき男の顔と胴体に突き刺さった。


「あぇ、?」


 何をされたか自分でもわかっていないのか、なんとも間抜けな声を出したその男は、突然全身の力が抜けたかのように床に崩れ落ちた。


「ヒッ!?」


「ひ、怯むな!行け!」


 それを見てなお、キョウイチロウを仕留めるべく武器を構える襲撃者たち。味方が殺されても動揺することなく、命令を遂行する。流石の心構えだな。


 かなり高レベルな連携でキョウイチロウにさまざまな攻撃を仕掛けるも、キョウイチロウどころか俺にさえ当たることなくひらひらと避け続けていくうちに、だんだんとその数が減っていく。


 一人、また一人と避けると同時に投げてくる音速のトランプが体に突き刺さり、糸の切れた人形のようにあっけなく崩れ落ちる。

 

 そうしてとうとう最後の一人になってしまった後衛職らしき女は、恐怖のあまり半狂乱になり、腰が抜けた様子で床に座り込んでしまった。


「バ…!バケモノ!!こっちに来るな!!やめーーーー 」


 まだ話している途中であったが、そんなのはお構いなしにとキョウイチロウは持っていたトランプで女の首を真一文字に切り落とす。

 首の断面は流石にポリゴンらしきもので規制されていたが、それでもある程度の血はそのままお出しされるので俺は正直おしっこ漏れそうだ。


 現実なら多分、三回は漏らすチャンスあったと思う。


「タイム十九秒♫ンー、ちょっと久々だから鈍ったかナ」


 俺、こいつと関わるのやめようかな。本気で今迷ってるんだけど。


「素ん晴らしいですねぇ〜。流石、マスターが狙う男なだけありますよ〜」


「デ♫一人残ったキミはここからどうするのかナ?」


「はっはっは〜、だぁ〜れがこれで終わりなんていいましたぁ〜?」


 フォルモイドが指を鳴らすと、再び俺たちの周りへと続々と集まってくるプレイヤー達。


 ざっと見て、さっきの五倍は優に超えるであろう人数。流石のキョウイチロウといえど、これほどの人数から俺を守りながら戦うのは厳しいものがあるだろう。


「貴方ほどの男を始末するのに、このくらいは当然必要かと思いましてね〜。物量差でじっくりと削らせていただきますぅ〜」


「アララ、もうトランプ使い切っちゃったヨ♫さっき森で使いすぎたネ」


「このおバカーーーー!!!」


(どうする!?流石に数が多すぎるし、逃げるか!?『殺戮の森』で培った俺の逃走テクで…!)



 ‥俺は神ゲーをやっていたはずだ。なぜ1日でPKに何回も襲われなければいけないのだろうか。あまりに色々なことが起こりすぎて、逆に冷静になってきた今日この頃である。

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