切り裂き道化の暇つぶし①



「ナルホド。それでそんなキャワイイアバターになっちゃったってワケか♫ ウケるネー」


「‥AIのセンスを信じたおれが悪かった」


  あれからキョウイチロウの案内の元、俺は無事にあの忌々しい森林を抜けられた。ひとまずこいつに感謝しつつ、俺たちは始まりの街『スターティア』に向けて歩いている。


 しかし‥歩いてて景色が変わるって素晴らしいな。『初狩の森ビギナーフォレスト』だと常に視界に木が入り込んできたおかげで、ちょっと植物そのものにトラウマ抱きそうになったぞ。


「アー、そういえばネ。僕と一緒に街に入る時はコレ、つけた方がいいヨ」


「ん?何だよこれ‥お面?」


 渡されたのは、顔全体を覆い隠せるくらいの大きさの可愛らしい犬の面。何だこいつ、こんな趣味があったのか?結構意外じゃん。『殺戮の森』ユーザーが知ったらきっと一ヶ月はネタにするな。


「なんでこんなのをわざわざ?確かにお前と一緒にいるのは恥ずべきことだが、別にもし知り合いに見られても俺は気にしないぞ」


「マ、街につけば嫌でも分かるヨ。」


 なんだか含みのある言い方だな…まぁいいや。


「サ、見えてきたよン♫あれがこのゲームの始まりの地。スターティアだネ♡」


「うぉおおおお‥でっけぇぇ‥!!」


 想像していたよりずっと発展してる感じの街だな!綺麗な建物も多いし、The・都会って感じだ。


 それに遠目で見た感じ、城や塔のような大きな建物もみられた。流石初心者の街と謳ってるだけはある。


 まだ少し距離があるためはっきりとは見えないが、入り口の門付近を見ただけでも相当な数の人がいる。それがNPCかプレイヤーかは知らないが、随分賑やかな様子だ。…なんか全員陽キャに見える。


「何だあれ。陰キャ殺しに来てないか?」


「スターティアには毎日と言っていいほど初心者が溢れかえるシ、彼ら目当てにこの街を訪れる熟練プレイヤーもいっぱいいるヨ♫ 優秀な人材を早期に確保するために来るギルドの刺客とか、賞金獲得のライバルを今のうちに消しとこうとする悪質なPKプレイヤーとかネ」


「もしかして自己紹介か?」 


「ヤダナ♡ショウMAクン僕がお金や他人に興味ないノ、知ってるでしョ?ショウMAクンは特別だけどネ」


「それ現実で誰かに言われてみたいなぁ‥」


 そんな会話をしてるうちに、いつのまにか俺たちは街の入り口の門にまで近づいていた。プレイしてから早4時間ほど。俺はようやく最初の街に辿り着いたのである。


 こんなプレイヤー、俺以外にいるのであろうか?いや、いてもごく少数であろう。

 そんなふうにしんみりと感傷に浸っていたが、ふと周りの異変に気づく。何故か数分前まで大勢いたはずの人たちが、1人残らず門付近から綺麗さっぱりいなくなっていたのだ。いやほんと比喩とかではなく、人っ子1人いない。


 (え、リアルならまだしも、ゲームでも嫌われ体質あるの俺?泣くよ?泣いちゃうよ?)


 と思ったのも束の間。原因は俺ではないことに速攻で気づいた。何故かって?横にいるではないか、PK大好きな変質者が。


「もしかして、仮面渡してきたのって‥」


「ボク、このゲームでも結構PKしちゃってテ、そこそこ有名何だよネー♫だからボクと一緒に行動してるのが大多数にバレたら、ショウMAくんこの先結構困ると思うヨ」


「‥付けさせていただきます」


「マ、ボクはコソコソするのあんまり好きじゃないシ付けないけどネ」


「いや少しは自重しろ」


 俺は先ほど受け取った仮面をニュートリノもびっくりの速度で顔に装着し、最低限の身分を隠した。まぁ頭上には常にプレイヤーネームが表示されるから、あんまり意味はないと思う。


 案の定入り口を通っている最中にも、キョウイチロウの半径約5m以内には誰も近づかない。こいつ‥どんなことしでかしたらここまで恐れられるんだ?



♦︎


「おいあれ‥噂の『切り裂き道化』じゃねぇか?」


「うわマジじゃん!何でこんな序盤の街にいんだよ‥」


「俺のフレンドもこの前、あいつにいきなり襲われたって言ってたぞ」


「とりあえずこっそりスクショとって、『賞金稼ぎバウンティハンター』に知らせようぜ」


「しっ!声が大きいよ聞こえてたらやばいって!」


♦︎


 いやバリバリ聞こえてますけど。

 それにしても賞金稼ぎ…聞く限り、あんままともなプレイヤー達ではなさそうだ。

 まぁ隣にもっとヤバいPKがいるんだけど。


 あ、そこのちょい遠くで見てるお兄さん、こっそりスクショしないでください。ちょっと、ダメですってみなさん、事務所通してくれないと‥


 1人の写メが、みんなの写メを呼ぶ。俺とキョウイチロウはパリコレモデルかってくらい数のシャッター音を一心に浴びていた。一人一人はこっそり撮ってるようではあるが、こうも数が多いとバレまくりである。


(こんな堂々と人のこと撮るって、ネットリテラシーどうなってんだこいつら!あ、こいつめっちゃ嫌そうじゃん、いい気味いい気味)


 この状況には、流石のキョウイチロウも少し怪訝な表情を見せる。


「目障りだナ……♫全員殺すカ」


「やめろ俺まで同類にされる」


 こいつはこの先、絶対1人で行動させてはならない気がする。俺の全直感がそう告げているのを感じた。






「ンー?ホントにそんな安いのデいいノ?」


「うん。序盤の街から武器無双はあんまりしたくないし‥あとお前に貸しは絶対作りたくない」


 なんとかさっきの状況を切り抜け、俺たちは武器屋に来ていた。約束通りキョウイチロウが新しいナイフをプレゼント‥いや弁償してくれるらしい。


「ンモー照れちゃって♡ア、ボクのお下がりでいいなら強いのいっぱい持ってるヨ♫」


「呪われてそうなんで大丈夫です」

 

 なんでも買ってくれる、とのことだったが俺が選んだのは先ほど壊れてしまった初心のナイフ。こいつにいい武器もらって貸しなんて作ってみろ。後でどんな要求をされるかわかったもんじゃない。


 それに俺はゲームでは、頑張ってお金を貯めて強い武器を買ったり、地道にレベリングをして強くなっていくのが堪らなく好きなのだ。強くてニューゲームなど正直、言語道断である。


「ンーまぁいいヤ♫店員さんこれいくラ?」


「ヒィッ!お、お代は結構です‥!!またのお越しをお待ちしております!」


「ア、そう♫ありがとネー♫」


(‥こいつもしかしてこのゲーム内だとクレジットカード代わりになるんじゃ?)


 いやいや、落ち着け俺。人としてヤバい思考に至っているぞ。しっかしキョウイチロウのやつ、プレイヤーだけじゃなくNPCにまであんな対応をされるとは‥なんかウケるな。


 ぽつぽつとそんな事を考えながら、武器屋を後にしようと店の外に出たその時。


「ん?」


 なにやら頭上に気配を感じたため上を見上げてみると、そこにはしっかりとした装備で固めた、数人のプレイヤーが多様な武器を構えて俺に飛びかかってきていた。


「!?」


 死角からの完全な不意打ち。すぐに動けるはずもなく、動揺もあり俺の動きが止まってしまう。


(何だ!?新手のPKプレイヤー!?ヤバい、避けられないーーーー)


 襲撃者の1人が、俺の首を刎ねようと手に持っていた長剣を振りかぶった。ぶっちゃけ死を覚悟したが間一髪。

 確かにまだ店内にいたはずのキョウイチロウが突如現れ、俺を抱き抱えつつ長剣の刀身を空いた右手で掴み止める。


「何ッ!?ごふぅぁあ!!!!」


 これには思わず襲撃者も声を上げるが、間髪入れずにキョウイチロウの腰の入った拳打が顔面に直撃クリーンヒットし、数軒先の建物まで吹っ飛んだ。それを見た残りの襲撃者達は驚きのあまり、少しの間フリーズしていた。


「間一髪♫君はボク以外にヤられちゃダメダヨ〜♡」


「離せこの変態クソピエロ!」


「このまま襲っちゃってもいいんだヨ」


「ヒエッ」


 襲撃者の数はおよそ、十数人と言ったところだろうか。上から襲ってきた奴らはおそらく先発隊だったのか、街の建物の裏という裏から後発隊と見られるプレイヤーたちがぞろぞろと出てくる。


 一応一通りプレイヤー名を確認したが、知り合いである線はなさそうだ。ってことは、単純に初対面のレヴァラグPKプレイヤーの皆さんで決まりだな。


 しかしそれだと一つの疑問が残る。このゲームを始めて数時間の俺は、恨みを買われるようなことは勿論してないし、今まで森にいたからできるはずもない。


 何か有益なアイテムや情報を持ってるわけでもないし、ギルドの勧誘…もなさそうだな。なんかみんな殺気マシマシだもん。


「お初にお目にかかります〜。『切り裂き道化』のキョウイチロウ様〜」


 そう言ったのは、後発隊の最後に出てきた襲撃者のリーダーらしき男。特徴的な仮面とその喋り方のせいで、どうも胡散臭い印象が拭えない。キョウイチロウと同じタイプだ。


「ワタクシ、PKKGPKキラーギルド悪鬼惨殺あっきざんさつ』のギルドマスター補佐をしてます、フォルモイドって言います〜♡」


 なんて言った?『PKKGギルド』?いかにもな名前だが、その言葉でいきなりこいつらに襲われた理由がだいたいわかった。




 (これ、全部キョウイチロウのとばっちりだわ)


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