初交流は殺し合い
「‥‥‥……みーつけタ♡」
黒と赤を基調としたスーツ、筋骨隆々ながらも細身な体を締め付けるハーネスベルト、そして艶やかな黒髪。さらに極め付けは、控えめながらも目立つその頬のピエロメイク。
とても隠密には向かないであろう派手な格好の男ではあったが、なんたってここは『
おまけに相手はまだ初心者。揶揄うにはもってこいの相手だろう。かけていたサングラスを取り、楽しげな表情を浮かべる。
「さぁーてト♫‥たまには先輩らしいことしちゃおっかナ♡」
枝の上に立ち上がると同時に、頭上に表示されるプレイヤーネーム『キョウイチロウ』。
千差万別、善良なプレイヤーも悪質なプレイヤーも数多く存在するこのレヴァクロにおいても、屈指の
「‥‥よし、とりあえずデータリセットするか」
飢えたカラスが人間の食べ物を颯爽と奪い去るが如く。部屋の電気をつけた瞬間電光が広がるが如く。俺は凄まじい速度でその結論に至った。
だってしょうがないだろ!?クソAIにアバターは女にされるわ、クソ難易度のせいで地図も無しにいきなり森林に飛ばされるわ!かれこれ3時間はこの森彷徨ってんのに、一向に街に向かってる気配ないんだもん!
「かと言って何故か野生のモンスターにも全然出会わないし、このままじゃただの散歩ゲームだよ!足疲れたよー!!お家帰りたいよー!!誰か助けてー!!」
人どころか、モンスターの一匹すらいない森に向かって盛大に愚痴を吐き出しつつ、全くと言っていいほど変わり映えしない状況に、そろそろプレイを続行する気力も無くなってきた。『難易度デストロイ』想像以上になめてたぜこんちきしょう。
ひとまず今日はもうやめよう。少し色々と疲れた。そう決断し、メニュー画面を開いて『ログアウト』の項目を押そうとした、その時だった。
「うぉっ!!なんだァ!?」
突如、丁度顔面を狙ったのか"何か"が凄まじい速度で飛んで来た。すんでのところで避けたそれは、後方にそびえ立つ大木に深く突き刺さる。
見たところ簡単には抜けそうにないことから、どれだけの威力かは容易に想像できる。しかしよく見てみると、飛来してきたそれは現実世界でも見たことのある、とても馴染み深いものであった。
「ト、トランプ‥?」
「ナイス
目の前に現れたのは、サングラスの下に見えるピエロメイクがなんとも怪しい姿のプレイヤー。
なんだこいつ‥リアルなら即通報案件だろ。
しかし、頭上に表示されたプレイヤー名を確認した瞬間、どことなく感じていた嫌悪は明確な怒りに変わる。
この喋り方に、この悪趣味なアバター、そして名前の『キョウイチロウ』。非常に残念なことに、知り合いだ。
「てめェ!!久々の再会早々何してくれてんだこのサイコ野郎!こっちは始めたてほやほやのビギナーだぞ!」
「いんやー久々だネショウMAキュン♫会いたかったヨ♡」
「やめろ気色悪い!!」
サングラスを外し、目をキラキラさせながら俺に抱きついてくるこいつはキョウイチロウ。とても紹介したくないが、一応知り合いだ。
昔たまたまプレイした、とある『イカれゲーム』で知り合って以来、何かと俺に付き纏ってくる。
てか、ピエロだからトランプ使いって安直すぎだろ!
「つーかお前!なんで俺がレヴァラグ始めたこと知ってんだこの野郎!ストーカーか!?」
「ンーまぁ
最悪だ。今日はとことん間違った選択をしてしまう日である。まだ
「君のことだシ、どうせ難易度デストロイの森林スタートだと思ってネ♫ちょびっと探してみたらビンゴ♡ 君がスライムと戦ってるとこから見てたよ、ホラ♫」
「うぉっ‥これ全部盗撮?引くわ‥」
キョウイチロウが嬉々として見せてきたスクショフォルダ。そこにはおよそ数百枚はある、森を彷徨う俺の姿。
いつ撮ったんだ!とかそんな新鮮なリアクションはこいつと出会って数日で使い果たした。
しかし、こいついつかリアルでやらかしてそうだな。つーか俺の行動心理全部読まれてんの、なんかムカつく。
あ、ちなみにこのゲームは任意のタイミングで簡単にスクショが撮れる。
だからこういう変態に出くわしたときも、まずは証拠写真を撮っとくのも重要だ。後でスターティアにばら撒いてやる。
「面白いくらいに迷っちゃっててめっちゃウケたヨ♡あ、君に
晴れ晴れとした笑顔とは裏腹に、言ってることはえげつないな。こいつの都合で殺されたこの森のモンスターたちには深く同情する。お供物は…こいつの生首だな。
「今までモンスターに合わなかったのもお前のせいって訳か…それで?早速俺をPKしに来たってわけ?全く、しつこい男は嫌われるぞ早く帰れ」
似たような別ゲーでは一般プレイヤーをPKしすぎて、運営から強制BANされるようなやつだ。こいつは口で言って素直に帰るやつじゃあ断じてない。一度変態スイッチが入ったこいつを黙らせるには『実力行使』以外に俺は知らん。
気を引き締めつつ、先ほどインベントリに収納しておいたナイフをバレないように取り出し、いつでも使えるよう腰のホルダーに装着。
「ンー!大正解♡ってことでそろそろ覚悟はいいかナ?もうお兄サン我慢できないヨ♫」
「はっはっは‥ちなみに今レベルおいくつ?」
「やだナァー♫100レベ花マルMAXに決まってんジャン♡」
言い終わると共に勢いよく投げてきたのは、先ほども見たあの高速のトランプ。
レベル差もさることながら今の装備であれを食らえば、まず即死は免れないだろう。俺はバク宙の要領でそれを避けながら、後方に下がり距離をとる。
しかし安心したのも束の間。間髪入れず、キョウイチロウは次のトランプを俺目掛けて繰り出してきた。 てかすごく今更だけど、なんでトランプであんな威力出せるんだよ。
「これ見かけによらず意外と高いんだからサ。あんまり避けないでよネー♫」
「だったら!投げなきゃ!いんじゃ!ないですか!ねぇッ!」
次々と飛んでくるカードを、紙一重で避け続ける。
右、右、上、下、右、左、右。おいおいリズムゲーやってんじゃねーんだぞこっちは。折角勇気出して神ゲー始めたってのに、なんで最初に戦うプレイヤーがこいつなんだよ。
(‥しかも心なしか、段々速くなってきていないか?)
いや、断じて気のせいなどではない。こうも避け続けられると流石のあいつも少しはイラつくものなのか、キョウイチロウから放たれるカードはもはや肉眼では追えないほどの速さにまでなってきている。
こうやって避け続けられるのも、もはや時間の問題だろう。というかもうそろそろやばい。
となれば俺が取るべき選択は一つ。短期決戦のみ。キョウイチロウが元々持っていたトランプを使い切り、追加のカードをインベントリから取り出す。
その一瞬の隙を見逃さずに、素早く距離を詰めた。
「アレレ?急に積極的にきちゃっテ♫ショウMAくんったらツンデレさんなのかナ?」
これには予想外だったのか、一瞬だけだがキョウイチロウの動きが鈍る。いい気味だこの野郎、その達者な口黙らせてやる。
「うっせーよ変態ピエロ、これでも‥くらっとけや!!」
現状の俺が出せる最大火力を叩き込むべく、腰から抜いたナイフを素早く構え、キョウイチロウの胸元へ飛び込む。すんでのところ、空いた左手でガードに回るキョウイチロウだったが、一瞬俺の方が速い。
(いける!これでひとまずできるだけダメージを…!)
「って‥あれ?」
「‥ン?」
絶賛戦闘中のはずの2人が間抜けな声を出すのも無理はない。確かに深く刺さったはず、頼みの綱だったショウMAのナイフは、キョウイチロウの左胸に数センチ程刺さったその時、柄だけを残し砕け散ってしまった。
キョウイチロウは胸に飛び込んできたショウMAの両手を拘束し、そのままの流れで抱き抱える。
「ンー‥。きっと設定難易度のせいだネ。デストロイにすると序盤の武器なんか、数回使っただけで簡単に壊れちゃうシ♫ なんか興醒めしたワー」
「俺の相棒がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
出会って数時間の仲ではあったが、唯一保持していた武器なだけあり愛着がわいていたメインウェポンの変わり果てた姿に、ショウMAは動揺を隠せない。2人しかいない森にショウMAの魂の叫びが響き渡る。
「しばらくはこれで戦おうと思ってたのに!」
なんとか掴まれていた両手の拘束を外し、キョウイチロウから再び距離をとる。
野郎!!許すまじ!!
「武器無しのショウMAクンなんか殺しても楽しくないシ‥。今日はのところはお預けかナ、残念♫」
「残念♫ じゃねーよ!!どうしてくれんだよ正真正銘の一文なしになっちまったじゃねーか!!」
「まぁまぁそんな怒んないノ♡お詫びにスターティアで新しいナイフ買ってあげるからサ♫お兄さん奮発しちゃうヨー♡」
「何してるんですか早く行きましょう」
「流石ナイス手のひら返し♫あと街の方角そっちじゃないヨ♫ 」
こいつ‥!この森の抜け方知ってるのか!たまには使えるじゃねーかよ!!証拠写真ばら撒き作戦、今日のところは勘弁しといてやるぜ!
ショウMAは新しい武器が手に入ることへの喜びと共に、ようやくこの忌々しい森を抜けられる事実に安堵した。
これでなんとか、データはリセットせずに済みそうだな。
「…てか本当に俺のことPKするためだけにここまで来たのか?暇にも程があるだろ…」
「ンーまぁそれが6割くらいだけド♫どうせショウMAくん、お馬鹿サンだから森から抜けられなくて泣きべそかいてるだろうし、スターティアまで案内をしてヤれ頼まれちゃってネ♡ ヘヴンちゃんかラ」
「は?ヘヴン?なーんであいつまで知ってるんだよ?」
「‥クロくん、想像以上に君のレヴァラグデビューを広めてくれてるみたいだネ♫ ネッ友とは言え、良い友達を持ったみたいで何ヨリ!」
「はっ倒すぞ」
あー‥俺のリア友作り計画がどんどん崩れていく音がする‥。
神に誓って自慢ではないが、俺のネッ友の数はとてーも少ない。
しかし、『一緒のゲームをプレイしていた知り合い』なら割といる。
キョウイチロウのように、昔やっていたMMOで出会ってしまった変人たちであるが、流石に
でもどいつもこいつも癖あって正直苦手だ。ヘヴンなんてモロ『あっち側』だし。そしてクロ、お前マジでそのうちPKしにいくから覚えとけ。
「まぁ楽しくなりそうでよかったネ!ところでさショウMAクンさ‥♫聞くか迷ってたんだけド……そのアバターどうしたノ?」
「うるさい黙りやがれください」
人には触れられたくない地雷というものが存在する。俺にとっては、今のがそれだ。
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