計画の崩れる音がする。
♢
快晴と言える雲一つない晴れの日、そのメールは突然来た。差し出人と要件を見るに、既に碌でもないことであることが早くも確定する。
『私ショウMA、とうとうレヴァラグ始めました。首洗って待っとけやください』
「…は?」
思わず声が出る。あのコミュ症こじらせゲーマーが基本的にリア充だらけのレヴァラグを?
(おいおい、エイプリルフールは半月前に終わりましたよ奥さん。)
今のこの天気が嵐の前の静かさにしか思えない。だがまぁ、そうとなったらやる事は1つに決まってる。
「‥とりあえず皆にも言っとかないとな」
爽やかかつ、奥に闇ドス黒いを秘めた笑顔で男はそう言った。
♢
目を覚ますと俺は、何故か横たわっていた。
「あれ?さっきまでキャラメイクしてて‥でそうだ。ゲームスタートしたんだったな」
とにかく状況を噛み砕いて飲み込んでいく。そして大体理解し終わった後、晴れて一つの疑問が残る。
「何故にわしゃ森におるんじゃ???」
思わず言語が60年ほど歳をとってしまったが、どうしても理解できない。ゲーム開始時には最初の街である『スターティア』にいるはずなんだ。
しかし、あたりをいくら見回しても街らしきものは見当たらず、それどころか大小様々な木に俺は囲まれている。
‥持ち物は先ほど心の中で小馬鹿にしていた、初期装備である
しかし今はそんなことより、ここがどこかわからないことの方が問題だ。地図も何もないため、自分の現在地を知る術は何一つない。
「これ、もしかしなくても詰んだ?」
(いや待て待て待て待て。お前は神ゲーなんだろレヴァラグ。そんな新規ユーザーをいきなり遭難させるなんてあり得ないし、流石に難易度調整ミスってるだろ‥ん?難易度??)
俺はふと、今まで忘れていたとある記憶を思い出し、メニュー画面を開いて設定を見る。そこには、この世の終わりのようなフォントをした難易度:デストロイの五文字。先ほど意気揚々と、俺自身が設定したものだ。
「これ絶対俺のせいじゃねぇかぁッ……‥」
数分前の自分をクロスチョークしてやろうかとも思ったが、仮にそんな事をしたとしてももはや後の祭りである。
「…まぁとりあえず街へ行かないと話にならねーな。地図もないけどまぁ、歩いてればその内着くだろ。」
というかそれ以外選択肢がない。そして無計画にも歩き出そうとした、その時。
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゅ、と何やら粘着質な音を立てながら、眼前の草むらから"何か"が這いずり出てくる。それはまるで海などでよく見る、そう。例えるならば『ナマコ』のような物体だ。
「うぉぉぉぉ‥これって‥もしかしてスライム?」
青く艶やかなボディに丸みを帯びたその姿には、何やら既視感があった。
しかし!俺が知っているスライムは顔があるし、たまに喋る個体がいるし、こんなR-18作品に出てきそうな形はしていない。
しかし目の前にいる"それ"には顔という顔はなく、喋るだけの知性があるとは到底思えない。しかも表面をよく見ると触手か体毛かわからない、小さくうねうねしたものがびっしり張り付いている。仮に小さい子供が見たら、まぁ軽ーく漏らすだろう。現実世界のの俺が
「‥とりあえず、殺すか。覚悟しろ」
俺が下した結論は、『生理的に無理』。
しかし次の瞬間、俺の言葉を理解したのか眼前のスライムの口らしき部分から、これまた何かもわからない液体が、俺の胴体目掛けて勢いよく飛び出した。
「うぉあ!!ッぶねぇなこの野郎!!」
間一髪、俺に命中するよりも早く液体を避けつつ、スライムの頭部らしき部分に腰からひき抜いたナイフを素早く突き刺す。
グニュ、とした感触がなんとも気持ち悪い。これには流石のスライムさんも痛みを感じるのか、数秒激しくのたうち回った後煙を発して蒸発し、刺さっていた俺のナイフのみを残して跡形もなく消えてしまった。
ふぅ…悪は滅びた。初戦闘を終え、一息つくと華やかな効果音とともに、レベルアップの表示が映し出される。
「お、レベル上がった。成程。一通り戦闘が終わると、それに準じた経験値が得られる感じか。小さい頃やってたTVゲームのRPGを思い出すねぇ‥」
今ので戦闘が終わったと判定されたのか、俺のレベルは晴れて二へと上がった。
それと同時にスキルポイント?なるものをいくつかもらったが、まぁそんなものは後で確認するとしよう。きっとステータスを割り振ったり、専用スキルを解放するためのものだろう。長年のRPGで培った経験が役に立つな。
いやぁ‥こうやって強くなっていくの、まさにゲームって感じでたまらんですよね。オラわくわくすっぞ。
そしてどうやらこのゲームではモンスターの死体は残らないらしい。まぁ残ったら残ったで怖いから残らなくていいか。
「グロにも配慮があるとは流石神ゲーだな。しっかし、一撃って結構強いのか?このナイ‥フ‥?」
思わず感心の声を漏らしたが、ふと思考が止まる。その理由は明白だ。拾い上げ、高々と掲げたナイフは日光に反射し、俺自身の姿をおぼろげながらに写した。
赤黒く短いながらに綺麗な髪、元の俺からは考えられないほどパッチリとした温厚な目、華奢な体にそして‥程々に豊満な胸元。
まさかとは思いつつ、たまたま近くにあった池に近寄り、水面で自身の姿を再確認する。
そこには、どうみても『ショウMA』の名にはとても似つかわしくない、美しい女アバターの姿。そして同時に思い出す、自身で選択した『オートメイク』の存在。
「……高性能AIのバカヤロォォォォォォ!!!」
自身の今までの選択。その全てを理解した翔子‥
いや、ショウMAはその姿から出たとは思えない男声で、驚きと怒りが入り混じった感情を露わにした。
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