エピローグ 弍
「‥んんぅ‥あれ‥夢?」
目が覚めると俺はベットの上だった。見慣れた家の天井。枕元には某有名ゲームのぬいぐるみ達。そして横でうるさく響くアラーム。状況整理をした後、出た結論。ここは確かに俺の部屋だ。
ということはさっきのは夢か?夢にしては妙に音も感覚もリアルだったが、まぁいいだろう。『偶にみる超リアリティのある夢』だったと思うことにする。そして俺は依然として鳴り続けるアラームを止めるため、スマホを開いた。ホーム画面には大きな文字で書かれている『8:20』の文字。
ははっ、俺にしては随分早起きだな。三文の徳でも期待しちゃうか?
・・・・・・・。
「あ今日学校じゃねぇか!!!!」
そうである。今日は待ちに待った高校の入学式。春休み気分で毎日を過ごしていた俺は、すっかり生活リズムが30代子供部屋おじさん並に崩れていたことを思い出した。
入学式は『8:40』から始まる。奇跡的に得られた20分の猶予に特大の感謝をしつつ、俺はベットから飛び降りすぐさま高校の制服に着替えた。
この制服に袖を通すのは今日が初めてだ。しかし、今はこんな状況なのでセンチメンタルな気分になっている暇はぶっちゃけない。同じく初めて使う学校指定のカバンを持ち、家を出ようと玄関へと向かう。
途中リビングを通るが、そこには誰もいない。ちなみに俺の家族構成は母親と妹が1人。もう母さんは働きにでた頃だろう。妹も真面目だから今頃学校か?
せめて誰か一言声をかけてほしかったが、そんな願いは今となっては無駄以外の何者でもない。
「これでよし、っと。いってきまーす。」
俺以外誰もいない家から返事が返ってくるわけはないが、なんとなくいつも言ってしまう。みんなも経験したことはないだろうか。俺は急いで家から5分の高校へと向かった。
「この学校に入学したからには、皆さんには勉学とスポーツの文武両道を意識してもらいたく思い‥」
入学式にはなんとか間に合った。校長先生のよくわからない将来のお話を聞き流しつつ、俺は周りを見渡していると当然いろんな人がいる。真剣に校長の話を聞くやつ、聞き流すどころか爆睡してるやつ、こっそりみんなにガムを配っているやつ。
‥こん中で1人でいいから、友達になってくれないかなぁ…。
何を隠そうこの俺、真渕翔子16歳。生まれてからリアルで友達ができたことがない。え?てかなんでそんな女の子みたいな名前なのかって?
‥親が間違えて妹と逆の名前で命名申請しちまったからだよ。
笑えよ!今の笑うところだぞ!!ちなみにそのせいで妹の名前は俺につくはずだった『恵』となっている。意外と違和感なくて羨ましい限りだ。
残念なことに俺はこの名前のせいで、幼少期は友達作りどころかちょっといじめられていた。生まれつき目つきが悪くて隈もすごかったし、周りからは目を付けられやすかったのだろう。『目』だけに。
はいすみませんでした。上靴を隠されたり、お弁当を勝手に食べられたり、やってもない悪戯の犯人に仕立て上げられたり‥ぶっちゃけ小学生のいじめって思ったより残酷なんだぜ。一瞬不登校になりかけたこともあった。
そーんな可哀想な幼少期の俺だったが一応当時ある男の子が助けてくれたおかげで、いじめはそれ以上エスカレートすることなかった。
そんな俺にとっての救世主の名前はというと‥
「はい。では次に新入生代表挨拶です。
そう、こいつである。黒道直人。家が近く、一般的には"幼馴染"といわれるべきなのであろう間柄だが、
実際一緒に遊んだことはない。
背は170cm前後と言ったところだろうか。端正な顔立ちで目つきは俺とは違く柔らかい。髪は黒髪ベースに短髪ながら、白のグラデーションカラーのパーマヘアーといった感じ。イカしてんな畜生。
スポーツ万能、成績優秀、おまけに性格良し。ぶっちゃけ非の打ちどころがない完璧超人だ。勝ってるところ今んところ身長しかねーぞおい。そしておまけに名前が超かっこいい。少し俺にもその恩恵分けてくれ。そんな完璧超人がモテないわけもなく、友達に溢れたこいつは俺とは違う圧倒的光の人生を歩いていた。神様さぁ‥ちょっと不平等だよ。
正直、なぜ幼少期に俺を助けてくれたのかわからない。小中学も同じだが、何せ俺はこいつと話したことがないしな。もし、『困ってる人がいたからつい』的な理由だったら俺はこいつに国民栄誉賞をあげたい。僻みを込めた精一杯の中指と共にな。
「黒道くん、ありがとうございました。それでは、これを持って入学式を終了とさせていただきます。」
昔のことを振り返っているうちに、あっという間に入学式は終わりを告げた。クラスごとにまとまり、椅子から立ち上がって体育館のドアから退場していく生徒たち。
さて、ここからの時間は俺にとって『戦』である。クラスメイトとの初交流をいかに違和感なく乗り切り、かつ好印象を与えられるかのな。
今の所俺の戦績は幼稚園、小学校、中学校の3戦3敗。中学校に至っては、、初日学校で一言も声出さなかったな。
だが!今年こそは!俺は硬い決意と共に、自分のクラスへと向かった。
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