友達作りのラグナロク

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どうしてこうなった?

プロローグ 壱

 時は20XX年。政治問題、社会問題等の度重なる不景気の中、人々は娯楽を求めて彷徨った。そのために娯楽の代表とも言えるゲームの需要が高まりに高まった結果、さまざまな企業によるゲーム会社への『多額の投資』が行われる。


 それから数年経ち、とうとう自分自身がゲーム世界に入り遊べてしまう『フルダイブ型VRゲーム』が発明され、瞬く間に世界中に広がった。

 そして間も無く数多くのゲーム会社がVRゲームのイカれた需要にいち早く反応し、我先にと様々なゲームソフトを作りまくった。

 良ゲー、クソゲー、カスゲー、鬼畜ゲーetc‥有象無象のゲームソフトが市場を蔓延る、世はまさにVRゲーム戦国時代。そんな暗黒期を終わらせたのが、今や世界一との呼び声も高いVRMMOゲーム、『レヴァナント・ラグナロク』略してレヴァラグ。


 忠実に作り込まれた世界観、もはや人間となんら遜色ないレベルまで作り上げられたAIによるNPC、

感覚までも鮮明に伝えるリアリティ、世界23ヶ国語対応etc‥

 ちょっとアンチしたやつが信者たちによってその身元を晒され半分人生終了した、なんてこともざらにあるほぼ宗教みたいなレベルである。

 VRゲームをする人ならば誰もがやっているそんな神ゲーだが、不思議なことに世界でただの1人、このゲームをクリアした人がいない。


 そもそもVRMMOというゲーム自体は、何を持ってクリアとするのかはっきりと定義付けされているわけではない。今までもそこにプレイヤーがいる限り、MMOに真のクリアは存在しないとされてきた。しかしこの『レヴァラグ』は違う。


 全プレイヤーは自身のプロフィール画面から『攻略度ゲージ』なるものを確認することができる。基本的に何をするのも人それぞれなレヴァラグだが、唯一このゲージをMAXにするというゴールは同じだ。そうなればゲージを貯め、100%にしたものはこのゲームを事実上クリアしたことになる。


 しかし、何をすればこのゲージが貯まるのか詳しいことはまだあまりわかっていない。現時点実装されているミッションを全て攻略しても、ゲージは半分にも満たないのだ。

 発売して数年経ってクリア者がいないゲームともなると、流石にプレイヤー達にも『不安』の2文字が頭に浮かぶ。実際ニュースなんかにも取り上げられていたし、本当にテストプレイしたのか?などと運営会社にネット民が疑いの目をかけることもしばしばあった。まぁ信者達ができる限りそういう意見は潰してたから被害が少なかったのもある。


 そんな状況を神ゲーの創作者でもある運営が放っとく訳がないだろうと誰もが思っていたし、実際すぐに対応された。

 しかし、実際に行われたのは調整でもなんでもなくむしろ全プレイヤーに対する『挑戦』である。公式SNSから一斉発信されたメッセージには、要約するとこう書かれていた。



『レヴァナント・ラグナロクを世界で最初にクリアした方には、クリア報酬としてリアルマネー100億円を当社から支払わせていただきます』



 娯楽のゲームとしては前代未聞の対応にアンチ達による非難の声も一瞬上がりそうになったが、信者たちによってすぐにその首根っこを掴まれた。言論の自由、消滅の瞬間である。


 発表から数ヶ月後、当然賞金目当てにさらにユーザー数は爆増し、とうとう全世界での総ダウンロード数は1億人オーバーと、レヴァラグはまさに社会現象に。世界一売れたVRゲームとしてギネス世界記録にも認定されるほどである。文字通り世界中の人々が参加するレヴァラグは、単なる娯楽品ではなくもはや世界規模のエンターテイメントといったところだろうか。


 そんな神ゲーを単純に楽しみたいだの、賞金貰って一生遊んで暮らしたいだの、リアルの自分を忘れてキャッキャうふふしたいだのではなく。『友達づくり』として取り組む者がいた。


それが今作の主人公であり筋金入りのコミュ障高校生、真渕翔子である。





















 …俺は今、自分でも理解できない不可思議な状況下に置かれている。それはもう、うん。


 前提として俺、真淵翔子はごく普通の高校生だ。半年ほど前までは、友達がいないから一人寂しくゲームを遊んでいた、どこにでもいるような人。


 しかし今の状況は『普通』とはかけ離れているのだ。今俺にできることは限りなく少なく、精々目を瞑って状況を頑張って把握することくらいだった。


 え、何故そんなことになっているのかって?知ってたらさっきみたいな現実逃避してねーよ馬鹿野郎。はっ倒すぞ。


 まぁこうして瞑想している内に、少しは状況理解が進んできた。しかし、理解すればするほど理解できない状況というのもあるのだ。今がそれね。


 俺はいい加減、目を背けていた現実と向き合うことを決めた。そして、先ほどから開くものかと固く閉ざした目を開くと、そこにはおびただしい数のカメラ、照明、そして人。


 今一度しっかり見てみると、自前のメモ帳に大量の文字を殴り書きしたり、録音機を激しくこちらへ突き出してきたり、ドデカいカメラをただひたすら構えてたりする。


 まるでテレビでよく見る会見、もしくはインタビューみたいな感じだ。だがそれを受けているのは有名人でも議員でも何か不祥事を起こした有名会社の社長でもなく、ごく普通の男子高校生である俺。


 何故か目の前のそれらは全て俺に向かっているようだ。いやまぁ正確には、俺たちに。横には見慣れた変人(ゲーム友達)の皆さんが。何台ものカメラの激しいシャッター音、人々の熱のこもった声、隣で自慢げに笑ってる変人の方々。もはやこの状況は混沌カオスに軽く片足突っ込んでいると言えるだろう。


 眼前の大衆が絶え間なく俺たちへと質問を投げかけるが、何せいろいろな音が重なっておりほとんど聞きとることができない。先ほどの瞑想タイムで心の内をできる限り整理したつもりだったが、もう俺の脳内ファイルはパンク寸前だ。


 そんな中、たまたまいくつか聞き取れた質問があった。まぁなにも聞き取らないほうが良かったのかもしれないが。


 「真渕翔子さん!『レヴァナント・ラグナロク』の世界初である完全クリア、大変おめでとうございます!是非後日、攻略本の発売を!」


「SNSではあなた方の話題で一面トレンド入りですよ!何か一言お願いします!」


「賞金の100億円は、一体何に使われる御予定ですか!?」


 はっはっは。はい!脳内ファイルは無事パンクしましたー拍手!

 


 ‥とりあえず二日くらい寝させてくれ。

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