第9話
今回の混乱の中で、食料の確保がセレーヌにとって最優先事項だった。
それが不十分である状態のなかで、市民の関心のほとんどはそこに集中していたが、月で人類が暮らすために不可欠なもので、にも関わらず不足しているものがもう一つあった。
それは月に飛来する隕石を打ち落とすイージスシステムの弾と、設備維持の為の部品だった。
ガード・ドームがある程度の大きさまでの隕石は受け止めてくれる。(その際、ドームの中では、震度二の地震に相当するゆれが発生する)
しかし、数ヶ月に一度の割合で、許容を超える大きさの隕石がやってくる。
事前の観測で、いつどこに落ちるか算出して、その上で、ミサイルで粉砕するのだ。
月には大気が無い。地球ならば空気との摩擦により流れ星となって燃え尽きてしまう隕石が、月では致命的な災害を引き起こすことになる。
過去に、打ち落とし損なった隕石を被弾して大惨事になってしまったことが二度ある。
居住区域は細かいブロックに区切られていて、被害を最小限に防げるようになっているから、ガード・ドームが破れても風船が割れるように、国中の空気がそこから抜けていったりはしないが、その地区は壊滅的な打撃を受け、多くの犠牲者が出た。
隕石被弾を防ぐ為の備えは月の国にとって何よりも大事なのだが、減りつつあるミサイルのストックよりも、目先の食料の方を優先せざるをえない状況が続いていた。
元々このイージスシステムは、国家の隔たり無く三国が共同で管理していたのだが、現在では、各国が独自にシステムを所有して、それぞれの領地はそれぞれの責任で守っていた。
月での戦闘の可能性について、研究自体はだいぶ以前からなされていた。
地球から攻撃を加えることはまず無理だった。攻撃能力をもつ人工衛星が地球上での戦争においては実用化されていたが、目標が月となると技術的な難易度が格段に上がる。
ロケットに兵器を積み込んで月に持っていこうとしても、積載量も、飛ばすロケットの本数も限度があり、中途半端な火力では、月のイージスシステムに阻まれる。
イージスミサイルが弾切れを起こすところまで持っていければ地球の勝ちだが、その為には膨大な費用が掛かり、それだけのメリットがあるかは疑問だった。
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