第20話 様子がおかしい琉奈

「…………………………」


「…………………………」


 本日の学校も終わり、いつものように琉奈と帰っているのだが妙に空気が重い。いつもは琉奈のほうが話しかけてくることが多いのだが今日は無言だ。あれかな、騎馬戦の練習が大変で疲れてるのかな?


「……なあ、琉奈。もしかしてかなり疲れてるのか? なんなら、どこかで休憩するか?」


「……ううん、大丈夫……」


「……そうか。そういえば、騎馬戦のほうはどうだ? しんどいようなら、誰かに頼んで出る種目を交換してもらおう。なんなら、おれも協力するから」


「……ううん、いい」


「……そうか」


「………………出る種目といえば、日希くんはなんで二人三脚にしたの?」


「ん? ああ、それは…………」


 と、ここでおれはあることが頭に浮かんだ。それがなにかというと、二人三脚の選手を決める際に、変なことを言っていた男子の発言内容だ。


 もし、あれが琉奈にも聞こえていた場合、琉奈の中でおれは変態扱いされているのではないだろうか? もしそうだとすれば、この琉奈の態度にも説明がつく。


 ちょ、やばいって! なんとかして誤解を解かないと! どうしよう! いや、正直に話せば琉奈は分かってくれる。と、思っていたらさきに琉奈が口を開いた。


「…………もしかして、鬼咲さんとペアになりたかったの?」


 なんか思っていたのとはちょっと違うな。でもとりあえず、すぐに否定しないと。


「いや、全然違うぞ。あのままだと話がさきに進まなそうだったから立候補しただけで他意はまったくないぞ。まじで変なこととか一切考えてない」


「……ほんとに? …………実は、鬼咲さんのことが気になってるとかだったりしない?」


 あれ、いつもの琉奈ならすぐに信じてくれるのに。おれの発言が必死すぎて不自然だったからか? いや、そんなことはおいといてすぐに否定しないと。


「いやいや、全然違うから。そもそも、鬼咲さんはおれの好みのタイプじゃないし。なんなら、真逆と言ってもいいくらいだし。だから、全然そんなんじゃないし。まじで変なこととか一切考えてないし。むしろ、おれは常に真面目なことばかり考えてる人間だし」


「あ、やっぱりそうだよね」


 ここで、琉奈は安堵の表情を見せた。良かった、おれの必死の弁明が功を奏したみたいだ。助かった、これで琉奈に変態扱いされなくてすむな。


 改めて琉奈のほうを見ると、なにやら嬉しそうに自分の髪を指でいじっていた。見た感じ、だいぶ機嫌もよさそうだし本当によかった。


 *****


 次の日の体育祭の練習時間が始まった。早速、鬼咲さんがおれに声をかけたが、その内容は予想外のものだった。


「なあ、天方。悪いんだけど、アタシやっぱ別の種目にしていいか?」


「……えっ、どうして?」


「いやー、やっぱアタシ二人三脚には向いてない気がしてさ。ほかの種目にしたほうがクラスの役に立てると思うんだよな」


「なるほど、そういうことか……。まあ、いいけどその場合、代役はどうするんだ? おれのほうでなんとかできればいいんだが、困ったことに当てがないんだよなあ……」


 琉奈ならOKしてくれそうだが、学校ではなるべく関わらないようにしているのでそうもいかない。


「いや、さすがにそこはアタシのほうでなんとかするよ。幸い当てもあるしな」


「よかった、それなら助かる」


「じゃあ、ちょっと声かけてくるから少し待っててくれ」


 そう言って、鬼咲さんは女子のほうへと向かっていった。まあ、鬼咲さんは女子に慕われているし誰かしら見つかるだろう。と、思っていたら予想以上に早く戻ってきたが、代役として連れてきた女子は予想外の相手だった。


「えっ? 代役って琉……姫宮さんなのか?」


「ああ、すぐにOKしてくれたぞ。やっぱりアタシの思ったとおりだったな」


「……えっと、それってどういうこと?」


「いやー、だって姫宮は昨日アタシらのことを何度も見てただろ。それで、アタシはピンときたんだよ」


「…………な、なにに?」


「それはもちろん姫宮が」


「や、やっぱり待っ――」


「二人三脚をやりたがってるってな」


「…………え?」


「あれ、違うのか?」


「……う、ううん、合ってるよ。……じ、実はそうだったの。よく気付いたね、鬼咲さん」


「だろー。いやー、アタシ人を見る目はあるんだよなー」


 なにやら、琉奈がやけに焦っていたようだが、女子に慕われている鬼咲さんが言うならば間違いないだろう。さすがは姐さんだ。


「じゃあ、姫宮。こっちは頼むわ。あ、でも、きつかったりしたらすぐに言ってくれよ。そのときはほかを探すからさ」


「うん、分かった。でも、大丈夫だと思う」


「そうか。じゃ、よろしくな」


 そう言って、鬼咲さんは騎馬戦の練習をしている女子のほうへと向かっていった。だが、すぐにこちらに振り返って声を上げる。


「そうだ、ひとつ言い忘れてた。姫宮、あんたが出るはずだった騎馬戦は、……アタシが責任持って圧勝してきてやるよ!」


 鬼咲さんはガッツポーズをしながら、力強く圧勝宣言した。姐さん、かっけえええええ!

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