第16話 友達付き合いも大切
おれが琉奈に妙なことを……、この言い方だと誤解を招きそうだなあ。琉奈の頭をなでてしまってから少しして海希が帰ってきた。そのため、残りの看病は海希にしてもらうことになり、琉奈は自分の家へと帰っていった。
そして、その翌日もしっかりと休み、無事に風邪は土日中に完治させることができた。しかし、風邪のせいで土日に見るはずだったアニメを見ることができなかったので、月曜日は早く帰ってアニメを見なきゃ(使命感)。
*****
そして、憂鬱な月曜日が始まった朝の登校中。
「おはよ、日希くん」
「おはよう、琉奈。土曜は本当にありがとな。おかげで助かった」
「ううん、いいよ。それより、体調はもう大丈夫なんだよね?」
「ああ、おかげさまで大丈夫だ」
「そっか、よかった」
そう言って、琉奈は安堵の微笑を浮かべた。ふむ、今日は清々しい月曜日だなあ。
「そうだ、だからあとでお礼をしないと……」
「いいよ、そんなの」
「でも……」
「じゃあ、一つお願いがあります」
琉奈は人差し指を立ててそう言う。どこかで見覚えがある姿だなあ。というか、やっぱり叱られるのか。
「次からは体調が悪いときは正直に言うこと」
「……善処させていただきます」
「……日希くん?」
琉奈には珍しい疑いの眼差しを向けられた。まあ、今の言い方だとそうなるか。
「分かりました、次からは正直に答えます」
「よろしい」
そんな感じで琉奈のお説教は終わった。相変わらず叱っている姿も可愛らしいので、あえてまた嘘を付くのもいいかもしれない。と、ついそんなことを考えてしまった。
*****
午前の授業を終えて昼休み。おれは龍心と昼食をとっており、食べ終わると龍心が口を開いた。
「そろそろ中間試験だな、我が親友よ」
いつのまにか親友に格上げされていた。そのうち
「ああ、そのあとは体育祭と期末試験かな」
「体育祭はいいとして試験はだるいな」
「そうだなあ……」
「こういうときはやはり景気付けに恋人作りだな」
「それはお前がいつもやってるやつじゃねえか」
「命短し恋せよ漢って言葉もあるし当然だろ」
そんなことを言いながらサムズアップしてきた。というか、そんな言葉あったかなあ?
「ちなみに今は何人なんだ?」
「48人だな」
2人も増えたのか……。あと、なんか48人ってアイドルグループでも作れそうな人数だな。しかし、こいつはなぜこうも振られ続けているんだろう? こいつにとって恋人作りは不可能任務なのか? とあるスパイ兼恋愛マスターに手ほどきでも受けられればいいのにな。
「……そういえば、ちょっと訊いてもいいか?」
「なんだ?」
「お前って失恋したときどんな感じなの? やっぱけっこう落ち込んだりする?」
「いや、全然」
「えっ、そうなの!?」
「まあ、最初のころは落ち込んでた気もするけどなあ。もう慣れたし、元々メンタルが強いというのもある」
「メンタルの強さか……」
「なんたって、オレの名前にはドラゴンのように強い心を持った人間に育つように、という意味が込められているからな」
なるほど、それで失恋しても2秒で切り返して落ち込まないということか。間違っても、「刹那で忘れちゃった、まぁいいかこんな失恋」とかいう理由ではないようだ。
「なんか、あんま参考にならないなあ」
「なに、お前振られる予定でもあんの?」
「嫌な予定だなそれ。……どんな感じなのかと思ってなんとなく訊いてみただけだよ。まあ、普通の人とはかなり違う意見だったけど……」
「フッ、オレはそこらのやつらとはレベルが違うから仕方ないな」
なんかキメ顔で言ってるけどスルーしておこう。
「やっぱ、一般的には時間が解決するとかかな」
「そんなところじゃねえか。あとはストレス発散とか」
「なるほど」
まあ、振られる予定はないが失恋する可能性ならけっこう高いんだよな。……あの恋愛相談以降、琉奈がアニメや漫画によく触れるようになったことで前以上におれとの距離も近づいたし、なにかの間違いで琉奈の気になる相手がおれだったりしないだろうか?
でも、あの恋愛相談のときに、友達の話と言ったあと琉奈は特に嘘をつく必要はなかったんだよなあ。と、考えている途中で龍心が会話を再開しおれの思考は打ち切られる。
「そうだ、試験前のストレス発散にカラオケでも行かないか?」
「景気付けの恋人作りはどうしたんだ?」
「なあに、たまには親友と遊ぶのもいいかと思ってな」
「……まあ、いいけど」
本当は早く帰ってアニメを見る予定があったんだが仕方ないか。友達付き合いも大切だしな。
*****
放課後、おれと龍心はカラオケ店にやってきた。受付を済ませ、指定された部屋に入る。
男同士、狭くて暗い部屋、二時間。なにも起きないはずがなく……、とかなったらどうしよう。まあ、この失恋マスター相手に限ってそんなことあるはずないな。いや、女に振られすぎて男に走る可能性があったりするのか? なにそれこわい。
「さあて、早速歌うか」
「ああ、お前から歌っていいぞ」
「サンキュ、どれにするかな」
龍心はカラオケにはよく来ているのか割と早く歌う曲を決め、恋愛マスターらしく恋愛ソングを歌い始めた。というかこいつ、歌上手いな。まあ、おれがそう思っただけなので本当に上手いかどうかは分からんが。
あと、こうやって人が歌ってるとき、おれはどうしたらいいんだろう? 陽キャになりきればいいのかな?
うぇ~~い! いっき! いっき! バイブスあげてこぉ~! おにーさんテキーラ追加ぁ! って違う! これは陽キャじゃなくて、陽キャになりきってるつもりの陰キャのなりきりだ。
とりあえず、今のうちに自分を歌う曲を決めとけばいいか。アニソンしか歌えないけど。そして、曲を選び終えるころには龍心の歌が終わった。
「ほら、次はお前の番だぞ」
「そうだな。じゃあ、おれ様の美声に酔いな」
なお、ノリで言っただけでおれの声が美声かどうかは知らない。
そんな感じで龍心とのカラオケは特に何事もなく終了した。まあ、男二人でなにか起きるわけないよな。
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