第15話 きっと熱のせい

 おれが妙なことを考えてからしばらくして、おかゆを作り終えた琉奈が部屋に戻ってきた。


「お待たせ、日希くん」


「ありがとな」


 琉奈は、おれが食べやすいようにと、土鍋からおかゆを茶碗によそって渡してくれた。早速、ありがたくいただくことにする。


「……美味い」


「そっか、よかった……」


 そう言って、琉奈は笑みを浮かべた。おれのほうは体調のせいか食べるペースこそ遅かったが、食欲は意外とあったようでおかゆをすべて食べきってしまった。もしかすると、琉奈の手作りだから食欲がわいたのかもしれない。


「ありがとな、美味かった」


「ううん、全然。それじゃあ、薬を飲んで」


 琉奈は、薬と水をおれに手渡してくれた。おれは言われたとおり、素直に薬を飲む。


「眠気はある? 薬を飲んだらあとは寝るのが一番いいと思うけど……」


「……そうだな、少し眠くなってきたから寝ることにする。風邪がうつると悪いからもう帰ってくれていいぞ」


「ううん、心配だし日希くんの家族が誰か帰ってくるまではいるよ」


「でも……」


「それに、風邪は人にうつすと治るって言うし」


「いや、琉奈にうつしたくないんだけど……。それに、確かそれは迷信じゃ……」


「いいから。こういうときくらい、わたしのことは気にしないで自分のことだけ考えてよ」


「……分かった」


 どうやら、琉奈に譲る気はなさそうなので、こちらが折れるしかなさそうだ。あとは、琉奈に風邪がうつらないのを願って寝るしかない。


「じゃあ、わたしは後片付けとかしてくるからゆっくり休んでね」


 そう言って、琉奈は土鍋や茶碗などをトレーに載せてそれを持ち部屋を出ていった。お腹が満たされたのと薬の影響か、次第に眠気が強くなってくる。それにともないおれの意識はどんどん沈んでいった。


 *****


 それから、数時間たちおれは目を覚ました。薬のおかげか、それとも琉奈のナース服効果かはわからないが、ある程度体調は回復したようだ。とはいっても、さすがにまだ熱はあるな。


 そういえば、琉奈はどうしたんだろうと思い、体を起こそうとすると右手に違和感があった。なので、右手に視線をやると誰かと手を繋いでいる。そのまま、視線をさらに先にのばすとそこには琉奈がいた。


 琉奈はもう片方の手を枕にしてすやすやと眠っている。どうやら、おれの様子を見守ってくれているうちに本人も眠ってしまったらしい。


 まあ、それはいいとして、なんでおれと琉奈は手を繋いでいるんだろう? まさか、おれが眠っているときに、無意識で近くにいた琉奈の手を取り繋いでしまったんだろうか?


 と、そのようなことを考えていたら、琉奈も目を覚ました。


「……ん、あれ、わたし寝ちゃってた……」


「……えーと、おはよう……」


「あ、おはよ、日希くん。……あ、そうだ、体調はどう?」


「おかげさまで、だいぶ良くなったかな。さすがにまだ完治はしてないけど……」


「そっか。それならよかった」


 そう言って、琉奈は微笑みを浮かべた。そのあと、おれは右手のほうに視線を移す。


「……ところで、これはどうしてこうなったんだ?」


「………………あ、これはその、……こうしてたらわたしに風邪がうつって、日希くんが早く良くなるかなと思って……」


「……お、おう。そうか」


 琉奈は手を離しつつ、照れ笑いを浮かべながらそう答えた。それは迷信のはずなんだけどなあ。まあ、そうやって気遣ったもらえたのはありがたい。それに、看病もしてもらったしだいぶ世話になってしまったなあ。とりあえず、礼を言っておかないと。


「今回は色々とありがとな」


 そう言いながら、おれは手を伸ばして琉奈の頭をなでた。そうすると、琉奈の頬がどんどん赤く染まっていった。


「あっ、悪い。なんかつい……」


「……ううん、別に平気だけど」


 おれはいったいなにをやっているんだろう。熱のせいだろうか?


「ホントごめんな。これは…………そう、こうやったら風邪がうつるかと思ってつい」


 ………………いや、なにを言ってるんだおれは。ごまかそうとしてつい、さきほど聞いた台詞を口走ってしまった。琉奈に風邪をうつすつもりだったとかひどすぎるし、急いで訂正しないと。


「いや、今のは違うんだ……。これはだな……」


「……そういうことなら、もう少ししてもいいけど……」


 琉奈は、頭を前に出してきた。えっ、いいの!? 心なしか、頭をなでてもらうのを期待してるように見えるが、熱のせいでおれの判断力が鈍っていてそう見えるのかもしれない。


「まあ、琉奈がそう言うなら――」


 いいかと思い、再び琉奈の頭をなでる。そうすると、琉奈の頬の赤みがだんだんと顔に広がっていった。まあ、嫌がっているようには見えないし大丈夫かな。そう思い少しの間、琉奈の頭をなで続けた。


 しかし、おれとしたことが妙なことをしてしまった。体、特に手の熱が強くなってきた気がするし、風邪がぶり返してしまったのだろうか? とりあえず、おれがこうやって、琉奈の頭をなでてしまったのはきっと熱のせいだろう。ただ、その熱の原因が風邪のせいだけとは限らないけど……。

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