第14話 ナースさんの看病
風邪を引いてしまったおれはベットに横になり、ナース服を着た女性に看病されていた。
「ご気分はいかがですか、天方さん」
「……頭痛が痛い」
「あっ、お熱を計り終えたみたいですね。どれどれ、38度2分ですか」
「……そういえば熱いな」
「こちらにお薬置いときますね。食後に飲んでおいてください」
「……どうも」
「んー、やっぱ見た感じかなり辛そうだね。お兄ちゃん」
そんなわけで、おれは自分の部屋でナースのコスプレをした海希に看病されていた。おれのほうは辛いが、妹は元気そうでなによりだ。それに、今日が土曜日なのは不幸中の幸いと言えるだろう。
いや、本当にそうか? 平日だったら堂々と学校を休んで、一日中アニメとか見れたのではないだろうか? いや、もちろんそんなことはしないで、ちゃんと寝るけどな。だって、こんな状態でアニメを見ても楽しめないし。いや、そういう問題じゃないな。
「残念ながら、お母さん達は仕事でいないんだよね。それに、あたしも用事があって、もう少ししたら出かけないといけなくて」
「子どもじゃないし別に一人で大丈夫だぞ。むしろ、ずっといたら風邪がうつるかもしれないし、出かけてくれたほうがいいかもしれん」
「でも、安心してお兄ちゃん。この有能な妹である海希ちゃんが、ちゃんと助っ人を呼んでおいたから」
「助っ人?」
「あっ、噂をすれば来たみたい。ちょっと待っててね」
玄関のチャイムの音を聞いて、海希が部屋から出ていった。どうやら助っ人が来たみたいだが、いったい何者なんだ……。まあ、それはおいといてやはりかなりしんどいな。ここは、しばらく目をつむっておこう。そのほうが楽になる気がする。
それから少しして部屋の前から二人の話し声が聞こえてきた。片方は当然海希で、もう一人もよく馴染みがある声だった。
朝、ライソで連絡があったので、心配をかけないように『体調は問題ない』みたいな内容で返しておいたのだが、海希が連絡してしまったか。嘘をついたことを叱られるかもしれないが、琉奈のことだからそれは風邪が治ってからにしてくれるだろう。
「では、すいませんがあとはお願いします」
「うん、大丈夫。あとは任せて」
「ありがとうございます。では、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
そんな会話が終わったあと、おれの部屋のドアがノックされる。
「日希くん、入って大丈夫?」
「……ああ、大丈夫」
そう答えたあと、部屋に琉奈が入ってきたが、なぜかナース服を着ているように見えた。………………あれかな、もしかしておれは今、夢でも見ているのだろうか。
「日希くん、気分はどう?」
「……悪いんだが、ちょっとおれの頬をつねってみてくれないか?」
「えっ、なんで!?」
「いいから頼む」
「う、うん。じゃあ、いくよ」
「ああ」
おれがそう答えた後もやや戸惑っていた琉奈だったが、意を決したようでおれの頬を指でつまんだ。
「えいっ」
「いだだだだだだだ」
「ご、ごめん! 痛いよね」
「いや、大丈夫だ」
痛いということは夢ではないということか。つまり、今おれの目の前にいるナース宮さん、なんか言いづらいな。ナス宮さん、これだと野菜みたいだな。とりあえず、姫宮琉奈(ナースのすがた)としておこう。
では改めて、おれの目の前にいる姫宮琉奈(ナースのすがた)は夢ではなく現実ということか。
「……なんで、そんな格好してるんだ?」
「あ、これは海希ちゃんに言われて着てみたの。日希くんはこういう格好が好きだから、これを着て看病すればすぐに良くなるって言ってたから」
おい、ふざけんな! なにしてんだ、あの妹! おれが変な趣味を持ってるとか琉奈に誤解されたらどうすんだ! そんなことを考えていたら、やはりそういう格好が恥ずかしいのか琉奈が訊いてきた。
「……あの、やっぱりわたしには似合わないかな、こういうの?」
「……いや、似合ってて可愛いと思うぞ」
「…………そっか、ありがと」
琉奈は頬を赤く染めながらそう答える。おれとしたことが、頭痛と熱のせいで余裕がなく、つい恥ずかしげもなく本音を言ってしまった。
「あ、そうだ。改めて、気分はどう? もう薬は飲んだ?」
「あー、そういえば食後に飲めって言われたな。だから、まずはなにか食べないと……」
「そっか。じゃあ、わたしがおかゆ作ってくるよ。海希ちゃんには台所は自由に使っていいって聞いてるし」
「いやでも、悪いし……」
「困ったときはお互い様だし、遠慮しなくていいよ」
「……そうだな。すまんが、お言葉に甘えさせてもらう」
「うん、じゃあ、ちょっと待っててね」
会話が終わり琉奈が部屋を出ていったので、少し考えてみて気付いた。そういえば、琉奈と海希は背格好が似ているから、海希の服は琉奈も着れるんだな。ただ、とある一部分だけは大きな差があるので、そこに関してはかなりきつそうだったが。
まあ、可愛い妹のためにその一部分が
しかし、女性のとある部分のサイズについてはよく分からないが、海希に関しては間違いなく二十六段階評価で上から一番目だろう。いや、この場合下から一番目と言うのが正しいのだろうか?
……違うな。そもそも上とか下とか言うのが間違っているので、あえて言うなら左から一番目だろう。 そもそもそこにあるのは、大小の差であり優劣の差ではない。
たとえば、甘い食べ物は好きだが辛い食べ物は苦手な人もいれば、その逆の人もいる。そこで、相手の好みを否定したりせず、お互いに尊重する心が大切であり、逆に自分の好きなもののほうが上だと主張し、優劣を付けようとするなど言語道断である。
………………ふむ、なにやら妙なことをあれこれ考えてしまった気がするが、きっと熱のせいだろう。そして、その熱の原因は風邪のせいなので、早く治さないとなあ……。
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