第12話 琉奈との外食
妹裁判によって、おれが理不尽に死刑になりかけた翌日。いつもなら、琉奈を家まで送るのですが、本日は予定を変更して夕飯を食べに行くことになりました。
「さて、なにか食べたいものとか行きたい店とかあるか?」
「わたしは日希くんの行きたいお店でいいよ」
「おれとしては琉奈の行きたい店でいいんだが、どうするかな?」
「そうだね、どうしよっか」
ふむ、このままだとお互い譲り合いをして決まらなそうだし、おれのほうで良さそうな店を選んでしまったほうがいいだろう。
かといって、徒歩で行くわけだから、あまり遠いところに行くわけにもいかず、必然的に近場で探すことになる。そう考えると、あまり選択肢は多くない。そう思いながら歩いているとちょうど個人経営の飲食店が目に入った。
「なら、あの店とかどうだ。確か、父さん達が以前食べに行って美味かったと言ってた店だ」
「そうなんだ。じゃあ、あのお店にしよっか」
無事、店が決定したので入店する。夕飯時ではあるが、今日は平日ということもあり満席ということはなく、すぐに席に着くことができた。
ちなみに、仮に友達2人と入店したら満席で名前と人数を書いて待つ必要がある場合でも、わざとふざけたことを書き店員さんに「三名様でお待ちの フ、フリーサ様?」と呼ばせ、「さぁ! 行きますよ! サーホンさん、トトリアさん!!」と言って立ち上がるとかいう悪ふざけをしてはいけない。
「あ、雨が降ってきたね」
「ホントだ、店に入ったあとでよかったな」
「うん、けど帰るまでにやむかなあ?」
「まあ、それは今気にしてもしょうがないな」
とういわけで雨のことはおいておき、まずはメニューを確認しようと思って見てみると、紙のメニュー表に加えメニューの注文と確認ができるタブレット端末もあった。いつからなのかは分からないが、ここ数年でこのようにタッチパネルで注文できるお店が増えた気がする。
このパターンだと、他人と話すのが苦手なぼっちでも簡単に注文できるので、ひとりちゃんにも優しい世界になったと思った。だが、そもそもぼっちちゃんは外食なんて一度も一人でしたことなかったり、コンビニだってそれなりに気合いいれないと入れなかったりするので、やっぱりあまり関係ないかなと思い直した。
さすがに、タブレット端末くらいなら機械が苦手な琉奈でも大丈夫だと思うのだが、一応琉奈には紙のメニュー表のほうを渡す。琉奈はそれを「ありがと」と言って受取り、メニューを確認しだした。
「うーん、どれにしようかなあ。日希くんはもう決まった?」
「そうだな、おれはマチュヒチュ遺跡のミシシッヒ川クラントキャニオンサンティエコ盛り合わせで」
「そ、そんなのあるんだ……。どういうのなんだろう……。あ、あった。へー、こういうやつなんだ」
えっ、あるの!? ふざけて言っただけなんだけど。
「あっ、ふわふわぴゅあぴゅあみらくるきゅんオムライスちゃんっ美味しくなれ、っていうのもある。なんか変わった名前のオムライスだね。わたしはこれにしようかなあ」
「ちょっとそのオムライスの名前、アニメキャラになりきって感情込めて言ってくれないか?」
「え? いいけど。えーっと、ふわふわ~ぴゅあぴゅあ~みらくる~きゅんっオムライスちゃんっ美味しく~なぁ~れっ。……な、なんかいざやってみると恥ずかしいね……」
「……なんかもう満足したから帰ろうかな」
「えっ!? まだなにも食べてないのに?」
いや、だってすごい可愛かったからある意味お腹いっぱいで。ところで、ここの店長さんは、『ぼっち・ざ・ひーろー!』のファンなのかな?
そんなやりとりのあと、おれ達は注文を終え料理が運ばれてくるのをしばし待つ。この間に気になっていたことを訊いておくべきか。だが、訊きたいような訊きたくないような、そんな気持ちだ。……やはりここは思い切って訊いてみるべきか。
「……そういえば、この前の恋愛相談ってそのあとどんな感じだ? なんか進展とかあったか?」
「!? ………えっと、一応進展はしてるかな、うん……」
やはり、この手の話は恥ずかしいのか、琉奈は頬を赤く染めながらそう返してきた。
「…………そっか、良かったな」
「……うん、ありがと」
本来、進展があったことを喜ぶべきなのだが、素直に喜べない自分がいるなと思う。やはり、完全に気持ちを切り替えるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
*****
おれ達はサンティエコ盛り合わせとオムライスを互いに食べ終え、今は食後のデザートであるアイスに舌鼓を打っていた。ちなみに、おれがバニラ味で琉奈はチョコ味だ。
「このアイス、すごい美味しいね~」
「琉奈は甘いものに目がないからな」
琉奈は幸せそうな顔をしながらアイスを食べていた。例えるならば、普段は合成食糧ばかり食べている人が、本物の卵と牛乳を使って作られたシフォンケーキを食べているときの顔だろうか。ちなみに、合成食糧はプラスチック爆薬みたいな味と言われるほど不味いものもあるらしい。
しかし、こうも嬉しそうな顔をしているのを見ていると餌付け、もといもっと食べさせてやりたくなるな。
「良かったら、おれのも食べるか?」
「いいの? じゃあ、一口だけ」
そう言って、琉奈は口を開けた。……え、もしかして食べさせろってこと? さすがそれはちょっと……、と思って固まっていると、琉奈が「どうかした?」とでも言いたげに首を傾げる。どうやら、琉奈は気にしていないようだし、それならおれが動揺してるのに気付かれないほうがいいかと思い、アイスを口に運んだ。
「ん~、こっちも美味しいね~」
「……そりゃ良かった」
「そうだ、お礼にわたしのも一口あげるよ」
琉奈は自分のアイスをスプーンで取り、おれの目の前に差し出してきた。……え、もしかして食べろってこと? さすがそれはちょっと……、と先ほどと似たようなことを思って固まってしまう。まあ、このあとも先ほどと同様の展開になりそうなので、思い切って食べることにした。
「……美味いな」
「ね、美味しいよね」
いや、本当は恥ずかしさとかがすごくて、味はあんまりよく分からなかったんだけどね。と、そのとき、近くの席に座ってきたカップルだと思われる男女の会話が聞こえてきた。
「はい、あーん」
「いやいや、恥ずかしいよ」
「えー、いいじゃん。私ら付き合ってるんだし」
「でもほら、人の目とかあるし……」
そのような会話を耳にしてから琉奈のほうをみると、顔が真っ赤に染まっていた。
「……あの、……これはその……違くて。……お姉ちゃんとたまに、こういうことしてたからで。……だから、そういう意味はなくて……」
「……ああ、分かったから。大丈夫だから」
「……うん」
琉奈が消え入りそうな声で弁明したあと、お互いに無言のままアイスを食べるのを再開する。はたして、琉奈は残りのアイスを美味しく食べられたのだろうか。少なくともおれのほうは、味がまったく分からなかった。
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第12話を読んで頂きありがとうございました。
また、★評価やフォロー、応援などをしてくれた方もありがとうございました。とても嬉しいです!
それでは、これからも本作をよろしくお願いします。
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