第11話 甘いですよ、琉奈さん!

 話を聞かれてしまった以上は琉奈になにがあったかを説明しないわけにもいかないため、おれは事情を説明する。


 ありがたいことに、琉奈はこちらの話に聞く耳を持たず怒り出すというようなこともなく、ちゃんと話を聞いてくれた。ただ、当然のことながら、具体的になにがあったかを説明すると顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。


「……そっか。そんなことがあったんだね」


「ああ、そのうえでまずおれが言いたいことは……、今回は本当に悪いことをした。ごめん」


 事情はどうあれ、琉奈に嫌な思いをさせてしまったのは事実だ。であるならば、当然謝るべきだと思い、おれは頭を下げて謝罪をした。


「えっ!? そんな頭を下げたりなんてしなくていいよ」


「いや、でも……」


「本当にいいから、まずは頭を上げて」


 ここは琉奈に言うとおりにすべきだと思い、おれは頭を上げた。


「そもそも、日希くんはわたしのことを助けようとしてくれたたけで、そのあとのことは……、その、事故みたいなものだし。だから、謝らなくていいよ」


「いや、でもな……」


「むしろ、わたしのほうが感謝すべきことだから。助けてくれてありがと、日希くん」


 琉奈なら事情は理解してもらえると思っていたが、まさかお礼まで言われるとは思わなかった。琉奈の反応を見る限りでは、嫌な思いをしたというよりは、恥ずかしいという思いのほうが強そうに見える。ただ、どちらにしてもなにかしらお詫びはすべきだろう。


「いや、でもやっぱりなにかお詫びをしたいし、なにかして欲しいこととかないか? おれにできることならなんでもするぞ」


「え? いや、別にそういうのはいいから気にしないで」


「そう言われてもなあ……」


 やはり、琉奈に申し訳ないという気持ちがあるし、なにかしてあげたいんだよなあ。


「分かった。じゃあ一つだけお願いしていいかな?」


「ああ、いいぞ。なんだ?」


「今回のことはもう忘れてもらっていい?」


「……どういうことだ?」


「そのままの意味だよ。わたしが気にしないでって言ってるのに、日希くんは気にしすぎだと思う」


 改めて考えてみると、琉奈がこうやって気にするなと言っているのに、おれのほうが気にしていては逆に迷惑だろう。琉奈がこう言ってくれているのだから、おれがすべきことはその思いを汲むことだ。


「分かった。琉奈の言うとおり、今回の件は忘れることにする」


「うん、そうしてね。わたしも忘れるから」


「甘い! 甘いですよ、琉奈さん!」


 話がまとまりそうなところで唐突に海希が口を開いた。そういえば、いたね君。ずっと黙ってたからすっかり忘れてたわ。


「せっかくお兄ちゃんがなにかしてくれるって言うんです。ここは貰えるものは貰っておきましょう」


「え? いや、そういうのは本当にいいんだけど……」


「では、ここはあたしが琉奈さんの代わりに提案しましょう。そうですねえ……。折衷案として、可愛い妹にお小遣いを十万ほどプレゼントするように命令するというのはどうでしょう?」


「いや、それお前が得するだけじゃねえか!?」


 というか、折衷案ってなんだよ。こいつ意味を分かってないだろ。


「仕方ないなあ。じゃあ、妥協して二十万でいいよ」


「おい、妥協どころか増えてるじゃねえか!」


 なんなの、うちの妹は日本語が苦手なの?


「さあ、琉奈さん。思い切って命令を」


「待て、琉奈。海希の言うことは無視していいからな」


「うーん、どうしようかな……、さすがにそんな大金を日希くんに出させるわけにはいかないし……」


 こんなどう考えてもふざけて言ってるとしか思えない海希の意見を、琉奈は真面目に考えているようだ。というか海希はふざけて言ってるんだよな? さすがに本気で言ってないよな?


「あ、そうだ。じゃあ、明日わたしにご飯をおごってくれるとかどうかな? 明日は自分の夕飯だけなにか用意しないといけなくて。だから、自分で作ろうと思ってたんだけど、ちょうどいいしどうかな?」


「ああ、それくらいなら全然いいぞ」


 なにせこのままだと、二十万も取られる可能性があるからな。ご飯だったらせいぜい数千円ですむだろうし雲泥の差だ。


「ありがと。じゃあ、これでこの話はおしまいね」


「ああ、そんな……、せっかくお兄ちゃんから四十万もらえるチャンスが……」


 だから、なんで増えてんだよ。しかも、十万ずつ増えるのかと思ったらまさかの倍プッシュ形式だった。


 まあ、それはおいといて、琉奈に話を聞かれてしまったときはどうなるかと思ったが、最終的に丸く収まってよかった。


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