第08話 とあるハプニング
琉奈とのアニメ観賞から数日が経過し、とうとう最終回の視聴が終わった。
「最後まですごい面白かったなあ……。でも、これで終わりなんだよね? 続きが気になるんだけど……」
「アニメとしては今のところはここまでだな。ただ、続きに関してなら原作を読むという方法がある」
「……げんさく?」
琉奈は首を傾げている。その様子を見て気付いたが、普段アニメとかをほとんど見ない人にとっては、原作という言葉は聞き慣れないものなのだろう。この場合は漫画と言うべきだったが、つい原作と言ってしまった。クセになってんだ、アニメの話をしているときに漫画やラノベのこと、原作って言うの。
「原作っていうのはこのアニメを作る際に元となった作品のことだな。アニメはすでにある漫画とかを元にして作られるパターンが多い。このアニメの場合はこれだな」
琉奈に原作の漫画の一巻を渡してやると、それをパラパラとめくっていった。
「あ、アニメの最初のほうで見たシーンがのってるね。そっか、アニメってそういうふうに作られてるんだ。わたし全然知らなかったよ」
「まあ、最初はみんなそんなもんだろう」
そんな話をしていると、ふと昔のことを思い出した。子供のころに某漫画の単行本を読んでいたのだが、それがとある週刊少年漫画雑誌で掲載されているということを当時のおれは知らなかった。
より正確に言うなら、そもそもその週刊少年漫画雑誌の存在自体を知らなかった。だから、琉奈がアニメの作られ方を全く知らないというのも全然おかしなことではない。
「ねえ、日希くん、この漫画読んでみてもいいかな?」
「ああ、いいぞ。アニメが続きが気になるのなら、続きが始まるところから読むという手もあるんだが、どうせなら一巻から読んだほうがいいな」
「うん、わかった。ありがと」
そう言って、さっそく琉奈は漫画を読み始めた。さて、おれのほうはどうしようかな。アニメのときは一緒に見れたけど漫画のほうはなあ。一緒に読むというのはできなくはないけれど、琉奈の邪魔になるだろうし、そこまでして一緒に読む理由もない。なにか適当にほかの漫画でも読んでおくか。
おれが漫画を読むかたわら、たまに琉奈の様子をうかがうとアニメのときと同様に笑ったり、目に涙を浮かべたり、手に汗握ったりと素直な反応を見せていた。おれも昔はああいうふうに純粋な反応をしながら漫画を読んでいたと思うのだが、今はそうではないなあと思う。
たとえば、主人公が絶体絶命のピンチのときでもどうにかして助かるんだよなあ、とか思っちゃうからそんなにハラハラしないもんな。ねぇ……琉奈。おとなになるってかなしいことなの……。
それから少し時間が経過し、琉奈から声をかけられた。
「ねえ、日希くん。これって次の巻はどこにあるの?」
「ああ、読み終わったのか。次の巻はあの本棚にあるな。取ってやるからちょっと待ってろ」
「え? いいよ、悪いからわたしが取りにいくよ」
おれが立ち上がって漫画を取りにいこうとしたら、それに続いて琉奈も立ち上がった。
「きゃっ!」
「危なっ!」
琉奈はおれに悪いと思いあわてて漫画を取りにいこうとしたのか、テーブルの脚に自分の足をひっかけ倒れそうになる。幸いおれがすぐ近くにいたので、そのまま倒れることはなく無事に助けることができた。ただ、結果として琉奈がおれに抱きついてきて、それをおれが抱きとめるような形になってしまった。
「大丈夫か、琉奈!」
「う、うん、ありがと。大丈夫だよ…………………………」
自分が無事であることに気付いたあと、おれ達が今どんな状況になっているのかに気付き、琉奈はしばし硬直する。その間に顔がどんどん真っ赤に染まっていった。たぶん、おれのほうも同じように赤くなっていると思う。
「ご、ご、ごめんね。日希くん!」
琉奈はそう言って勢いよくおれから離れた。
「い、いや、おれは大丈夫だ。そ、それより足とかどうだ? 痛かったりしないか?」
「え? あ、うん、大丈夫。痛くないよ」
「そうか、ならよかった」
「うん、ありがと……」
さきほどの出来事がよほど恥ずかしかったのか、琉奈はしばらく下を向いていた。まあ、そのほうが助かるな。おれのほうも赤くなっているであろうこの顔を琉奈に見られたくはないから。
「とりあえず、ここに続きをまとめて置いておくから好きに読んでくれ」
また同様の事故が起きないように漫画を出してテーブルに置く。もし、琉奈が怪我でもしたら大変だし、おれの心臓にも悪いしな。
「ありがと……」
琉奈は礼を言うと、イスに座り漫画の続きを読み始めた。だが、いっこうにページをめくる様子がない。まだ恥ずかしくて漫画を読む気になれないのだろう。だって、おれも漫画を読んでいるふりをしているだけで、内容が頭に入ってこないし。
こうしてしばらくの間、お互いに形だけ漫画を読む時間が続いた。
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