第07話 可愛い妹の可愛い悩み
翌日も同様にアニメの続きを見て、終わったあとで琉奈を家まで送っていくという流れになった。
二人で玄関まで移動し、外に出ようとしたところで勝手にドアが開いた。だからといって、別にうちのドアが自動で開くとかそんな機能が付いているわけではない。ちょうど誰かが帰ってきて、その誰かがドアを開けたようだ。
「ただいまー。あれ、お兄ちゃんどっか出かけるの?」
「お、おう、お帰り海希。いや、ちょっとな」
ここがおれの家である以上、家族と遭遇する可能性は当然あったのだがあまり深く考えてなかったな。
「あれ? 琉奈さん?」
「こんばんは、海希ちゃん。おじゃま……してました?」
そうだね、ちょうど帰るところで止まっちゃったから、なんて言ったらいいか微妙だよね。まだ、家にいるなら「おじゃましてます」だし、家から出るときなら「おじゃましました」でいいんだけど。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん、こっち来て!」
そう言って、海希は琉奈に会話を聞かれなさそうなところまでおれを引っ張っていく。
「琉奈さんが家にいるってどういうこと? やっぱりそういうことなの?」
その可愛い顔をぐいっと近づけて、なにやら興味津々で訊いてくる。こういう場合はまず、「どういうこと」とか「そういうこと」とかいう誤解を招く言い方はやめなさい。
そうしないと、相手が全然違う意味で言ってるのに恋愛的な意味で捉えちゃう人もいるんだぞ。いやでも、今おれが思い浮かべたのは人じゃなくて魔族だな。ただし、魔族は魔族でもまちカドに住んでいるようなまぞくではなく、万物を破壊する魔眼を持っている魔族だ。
まあ、それはおいといて、今は海希と話している場合ではないな。
「とりあえず、あとでいいか? まずは琉奈を家まで送らないと……」
「……そういうことなら仕方ないね。ただし、帰ってきたら洗いざらい吐いてもらうからね」
海希はにやりと笑いながらそう言う。なにこれ怖い、おれ取り調べでもされるのかな。いっそ帰ってこないで逃げるべきか。いや、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ。
*****
琉奈を無事に家に送ったあと、帰宅した我が家のリビングにて。
「さっ、全部吐いて楽になっちまいな、兄ちゃん」
おれは婦警の格好をした海希に本当に取り調べを受けていた。そういえば、こいつコスプレが趣味だったなあ。ところで、こいつの口調はテレビドラマの影響とかなのかな。おれはテレビドラマをほとんど見ないから知らんけど。
「いや、琉奈とはただの友達で特にやましいことはないんだが……」
「おいおい兄ちゃん、隠し立てはよくないぜ。正直に全部吐いちまいな。そのほうが楽になれるぜ」
「そう言われてもなあ……」
「まったくしょうがねえなあ。カツ丼食べるか?」
カツ丼、またの名をカツドゥーンか。でも、実際の取り調べではその手の食べ物とかは自白を誘導する行為に当たるから禁止されてて出てこないんだよな。だから、カツ丼が食べたいなあとか思って犯罪を犯しても、結局カツ丼は食べられないのでカツ丼目的で手を汚してはいけない。
おれがそんなことを考えていたら本当に海希がカツ丼を出してきたが、それはコンビニで売っているカツ丼だった。雑ぅ! せめて、どんぶりに移し替えてそれっぽく見せようよ。服のほうはコスプレまでしてちゃんとしてるのに、なんでカツ丼のほうは適当なんだよ!
「あ、ちなみに代金は650円ね。あとでちょーだいっ」
「勝手に出しといて、金取んのかよ!? く――」
そったれ! と思わず言いそうになったがやめておいた。妹の前でそのような言葉遣いはよくない。いや、琉奈の前でも、というか女性の前では駄目だな。
……いかん、これでは男女差別だな。真の男女平等主義者を目指し、女の子相手でもドロップキックを食らわせられる男にならなければ。まあ、そんな冗談はおいといて、可愛い妹のためにカツ丼の代金くらいはあとで払ってやろう。
「それで、結局どういうことなの、お兄ちゃん?」
あ、口調が戻った。そういえば、お金の話をした時点で戻ってたしもう飽きたのかな?
「だから、それはだな――」
なんか、いい感じに誤魔化して説明しておく。琉奈の気になる人がどうこうとか勝手に言うわけにもいかないしな。
「なるほど、そういうことか。なんか思ってたのと違ったなあ」
よし、無事に誤解は解けたみたいだな。
「……そういえば、久しぶりに琉奈さんを見て思ったんだけど、前より大きくなってたなあ」
と、そのようなことを海希がぼそっとつぶやいた。どこの話かなあと思ったけど露骨に胸に手を当ててますねこの子。まあ、海希の胸は某アイドルグループT〇KI〇の人達の「まな板にしようぜ」とか「かなりまな板だよコレ」とか言う台詞を思い出してしまうようなサイズだからな。
「まあ、お前はまだ中三だし、これから大きくなる可能性はあるだろ」
「なっ!? ちょっとお兄ちゃん、勘違いしないでよね! 今のは…………、そう、身長の話だから! だいたい胸が大きくても、肩は凝るし下着選びは大変だしでいいことなんかないし」
そうだね。おっきくったって戦いで役立つことなんかないし、小さいほうが鎧の板金とかも安く作れるし、動くの邪魔じゃないしな。あれ、戦いとか鎧の板金とかこれなんの話だ?
というか、そもそもおれは別に胸のことだとは言ってないんだけどなあ。胸のことだと思って話してはいたけど。
「そうか。実は胸を大きくする方法を小耳に挟んだんだが、海希は興味なさそうだな」
「ちょちょちょっとお兄ちゃん、その話詳しく!」
「いや、でもお前は小さいままのがいいんだろ?」
「……そ、それはあれだよ。…………そう、友達! 友達が知りたがってて!」
最近なんか友達のことだという話をよく聞く気がするな。もし、友達がいない人でもエア友達は簡単に作れるから使いやすい言い訳ではある。さて、本当はそんな方法を聞いたわけではないんだがどうしよう。
「……確か牛乳を飲むといいって聞いたぞ」
「牛乳は毎日飲んでるよ!」
「毎日ってやっぱそれ自分の話じゃ……」
「ちちち違うから! 今のは、…………そう、身長! 身長を伸ばしたいと思って飲んでるの!」
さっきも同じ言い訳を聞いたなあ。まあ、その甲斐あってか身長はやや高めな気がするが。というか、仮にその言い分が本当だとして身長を伸ばしてどうするの? 将来はショーモデルになって、ランウェイで笑いたいの?
「あとは、唐揚げを食べるといいって聞いたことがあるな」
「ホントに!? じゃあ、毎日食べる!」
君こそホントに胸のことじゃないって隠す気あるの? 語るに落ちすぎでしょ。あと、毎日食べたら太るからやめなさい。それに、世の中には唐揚げを食べ過ぎてドクターストップがかかった人だっているんだぞ。
そんなふうに可愛い妹の可愛い悩みを聞きながら、夜が過ぎていった。それと、何度も可愛いとか言ってしまったが、別におれはシスコンではない。
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