第05話 琉奈からのお礼
本日の学校が終わり放課後、琉奈は昨日の約束通りおれの家にやってきた。
「おじゃまします」
「いらっしゃい、でいいのかなこの場合? 一緒に来たわけなんだが」
「うーん、どうなんだろうね?」
「まあいいか別に。とりあえず、上がってくれ」
「うん。そういえば、家に誰かいるの? いるなら挨拶しておかないと」
「親は二人とも仕事で帰りが遅いし、海希も受験勉強で遅くなるみたいだからいないな」
「そうなんだ。じゃあ、いっか」
その後、二人で部屋まで行き、おれはまずパソコンの電源を入れた。
「とりあえず、この椅子に座ってくれ」
そう言って、おれはパソコンの前にあった椅子を指差した。だが、琉奈は立ったままでその場から動こうとせず、なにやらもじもじしている。
「どうかしたか?」
「あ、えっと……」
……もしかしてあれか。実際に男子の部屋に入ったことでようやく、自分の行動に問題点に気付いたのだろうか? しかも、今はこの家に他の人がいないからなおさら問題だ。
まあ、おれは変なことは絶対にしないという鉄の意志と鋼の強さを持ち合わせているので大丈夫なのだが、そんなことが琉奈に分かるわけもない。
「……日希くん、その」
「ああ、なんだ?」
実際にはなにもないのに急用を思い出したから帰るとかそういうやつかな。まあ、この状況なら仕方ないか。
「……これ、どうぞ」
琉奈はカバンからなにかを取り出し、恐る恐るおれに差し出してきた。手の上にはラッピングされた袋がのっていて中身はクッキーのようだ。
「これは?」
「……えっと、この前のお礼として作ってきたんだけど」
「……ああ、そういうことか。わざわざありがとな」
礼を言いおれはクッキーを受け取る。そういえばそんな話をしていたなあ。別にお礼をされるほどのことでもないのであまり気にしてなかったんだが。
しかし、まさかの手作りか。家族以外の異性からの手作りというだけでもドキドキするのに、相手が琉奈であればなおさらだ。なお、今の言い方だと琉奈以外から手作りの物を貰って食べた経験があるように思えるが、実際にはそんな経験はないので想像でしかない。
いや、よく考えたらやっぱりけっこうある気がするな。だってほら、飲食店とかで料理を作っている人の中にはたぶん女性もそれなりにいるだろう。というわけで、女性の手作り料理が食べたい世の男性諸君は外食をしよう。
「お口にあうといいんだけど……」
琉奈は不安そうにクッキーを見つめている。なるほど、さっきもじもじしていたのはそのためか。自分の作ったお菓子の味に自信がないのだろう。
確か、小学生のころには料理の手伝いなどを始めていたと聞いた気がするからそれなりに美味いだろうし、実際クッキーの見た目はかなりいい。まさか、人間を一口で気絶させることができる味なのに見た目は綺麗になるという錬金術を使っているということもないだろう。
「そんなに心配しなくても大丈夫だろ。せっかくだしこれは――」
後でゆっくり味わって食べたいと思ったのだが、それでは琉奈の不安がとれないな。
「今食べてもいいか? 実は、小腹がすいてたんだ」
「うん、もちろんいいよ」
そういうわけで、袋からクッキーを一枚取り出し口に運ぶ。
「おお! 美味いな」
「よかったあ……」
そういって琉奈は安堵の表情を浮かべた。安心してくれたようでなによりだ。もちろん、お世辞で美味いと言ったわけではなく本当に美味い。具体的に言うと、「うまい! うまい! うまい!」と言いながら食べたくなるくらい美味い。それくらいの美味さなので、つい勢いで食べきってしまった。
「まじで美味かったよ。ありがとな」
「ううん、こっちこそありがと」
おれが礼を言われる筋合いはないのだが、琉奈は微笑みを浮かべながら礼を返してくれた。
「じゃあ、そろそろアニメを見るか」
「あ、そうだったね」
「じゃあ、改めてこの椅子に座ってくれ」
「うん、ありがと」
琉奈を椅子に座らせ、おれは当初の予定どおりパソコンでSPY×SISTERを再生する準備をする。……あれ、そういえば琉奈がアニメを見ている間おれはどうしよう。せっかくだし、おれも一緒に見ればいいか。
「おれも隣で見ててもいいか?」
「それはもちろんいいけど、椅子が一つしかないよ。わたしは床に座るから日希くんが使ってよ」
「いや、おれのほうが床でいいよ。椅子は琉奈が使ってくれ」
「でも悪いし……」
「いや、いいから……」
お互いに椅子を譲り合ってしまい、このままでは解決しそうにない。他の部屋に行けば椅子の一つくらいはあると思うが、人の部屋に勝手に入ったうえに椅子を無断で借りるのもよくないだろう。
そうなるとあれかな。おれが椅子に座ったあと、おれが琉奈の椅子になればいいのかな。では、「あの、琉……琉奈、椅子いる? おれ椅子になろうか?」と、言えるかそんなこと、ドン引きされるわ。
「……実は、床に座るという健康法があるんだ。だから、おれは床でいい」
「あ、そうなんだ。どういう座りかたなの? わたしもやってみようかなあ」
うーん、相変わらずのピュア宮さんなのだが、そうきたか。
「いや、この健康法は男子限定らしくてな。そういうわけで琉奈は椅子を使ってくれ」
「そういうことなら仕方ないね。分かった、ありがと」
こうして、話が無事にまとまり、ようやく本来の目的であるアニメの視聴を開始した。
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