第04話 ただし妹に限る

 琉奈がおれの家に来るという約束をした日の夜、とりあえずおれは自分の部屋の掃除をしていた。


 とはいっても、実際に始めてみるとそれほど掃除する必要性もなかった。元々、そんなに部屋を散らかすような性格でもないうえに、少し前に新入生テストがあったからだ。なんでテスト前ってあんなに部屋の掃除がしたくなるんだろうね。あの現象に名前ってあるんだろうか?


 あ、ちなみに猫がときどきなにもないところを睨むのはフェレンゲルシュターデン現象って言うんだよ。本当だよ、嘘じゃないよ。


「そういうわけで、掃除はこんなもんでいいか。次は……、琉奈に見せるアニメをなににするかだな」


 アニメをあまり見たことがない人にはなにがいいのだろうか? とりあえず、近年の人気作を見せるのがいいか。だとすると、ここ数年での人気作と言えば、やはり悪滅の刃だな。


 悪滅の刃といえば、主人公の少年が悪魔にされた妹を人間に戻すためにほかの悪魔たちと戦い、最終的に諸悪の根源である悪駄禍無惨あたまがむざんを倒そうとするダーク・ファンタジーだ。その人気は圧倒的であり、劇場版では興行収入で日本一位を記録した。


 個人的なお気に入りシーンといえば、人柱先輩がその命を賭して主人公を助けたシーンだろう。人柱先輩があそこで時間を稼いでくれなければ、他の仲間から絶大な人気を誇る冨柱先輩の助けは間に合わなかった。


 よって、人柱先輩は大活躍をしたと言えるし、自らの命を捨ててでも仲間の命を守るその姿はとても感動的であり、多くのファンが涙したことは言うまでもない。


 ……うーん、でもこの作品は前述の人柱先輩の敗北シーンなどグロいシーンがたまにあるんだよなあ。そういうのに耐性のなさそうな琉奈にそれらを見せるのはよくないと思うし、他の作品にしたほうがいいか。


 それを踏まえて考えると、妥当そうなのはSPY×SISTERあたりかな。


 SPY×SISTERといえば、主人公である凄腕スパイの女がとある任務のために、エスパー少女や掃除屋の女性と仮初めの姉妹となり、姉妹としての平穏な日常を過ごすために日々のいざこざと奮闘するホームコメディだ。その人気は非常に高く、アニメ化前の時点で発行部数が1500万部を超えていた。


 個人的なお気に入りシーンといえば、主人公がとある同僚と恋仲であると勘違いした掃除屋の女性が、嫉妬と思える感情をのぞかせたシーンだろう。あのシーンにより、そのうち百合展開が始まるのではないかとファン達の間で話題になっていた。いや、あれは百合だ。おれがそう判断した。


 うむ、この作品であればグロいシーンも特にないはずだし、女性人気も高いらしいから問題ないだろう。


 しかし、放送が終わったアニメでも簡単に見返せるあたり、今は便利な時代だと思う。インターネットが発達した社会に生まれたありがたみを実感した。


 だが、インターネットには危険もあるのでネットリテラシーを高めなければいけない。なお、ネットリテラシーを高めてもあっさり本名をばらされたブラッドシェハードくんのような例があるため厄介ではある。


 そんなことを考えてたら、ノックの音がしてドアが開いた。


「お兄ちゃん、ちょっといい?」


「あのな、海希みさき。それじゃノックの意味がないって何度も言ってるだろ?」


「えー、だって一秒でも速くお兄ちゃんの顔が見たいんだもん」


「なるほど、それなら仕方がないな。許そう」


「適当に言っただけなのに今ので許しちゃうとか、お兄ちゃんってやっぱりシスコンだよね」


「いや待て違う、おれはシスコンではない。家族愛が強い、ただし妹に限る。なだけだ」


「それをシスコンって言うんだよ。お兄ちゃん」


 可愛い顔をあきれ顔へと変えた海希が、そのツインテビンタができそうなほど長いツインテールを揺らしながら部屋に入ってきた。


「それで、本題なんだけどちょっと勉強を教えてもらってもいい?」


「ああ、もちろんいいぞ。そういえば、今年は受験生だから大変だよな」


 おれは中学時代はけっこう成績がよかったこともあり、海希に質問された内容について問題なく教えてやることができた。


「ありがとう、助かったよ。さすがはお兄ちゃん」


 どうせならそこは「さすがはお兄様です」と言ってもらいたかったところではある。だが、おれと某お兄様とでは天と地ほどの差があるな。ちなみにおれの苗字は天方だが、残念ながらおれが地に堕ちているほうである。


 ここでうっかり、おれが天のほうだと言ってしまうと、お兄様の妹になにをされるか分かったものではない。なんか怖くなってきたのでお兄様のことを褒めておこう。さすおに! さすおに! よし、これで大丈夫だろう。しかし、どうせなら一回くらいおれが天だとか、私が天に立つとか言ってみたいものである。


「じゃ、あたしは部屋に戻るから」


「ああ、またなにかあったら遠慮なく訊きにきていいからな」


「分かった。ありがとね、お兄ちゃん」


 そうして、海希は部屋を出ていった。さて、このあとどうするか。……少し考えてみたが、他にすべきことも特に思いつかないし、これで明日の準備はヨシ!


 というわけで、明日に備えて今日は早めに寝ておこう。

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