第02話 失恋マスター
琉奈から恋愛相談を受けた翌日の朝の自室。
昨日はだいぶしんどかったが、今日のおれはだいぶ気持ちを持ち直していた。それは、とある重大な事実に気付いたからだ。
まず、琉奈の気になる相手は金髪で、公園に着く前に話題に出ていたゆりかちゃんも金髪。つまり、琉奈の気になる相手はゆりかちゃんだったのだ。そう、あの時すでに琉奈は無意識のうちに相談を始めていたのだ。おそろしく早いヒント、おれでなきゃ見逃しちゃうね。
琉奈の気になる相手が男であれば絶対に許さないが女の子であれば構わない。むしろ推奨。女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの。
まあ、そんな冗談はおいといて、琉奈に好きな相手が出来たのならおれは応援する事に決めた。大切なのはおれが幸せになることじゃない。琉奈が幸せになることだ。もう辛くないといえば嘘になる。でも、琉奈が幸せならOKですというスタンスでいこう。
そんなことを考えながら登校の準備をしているとスマホが鳴った。琉奈からのライソメッセージだ。
『おはよう。体調は良くなった?』
『本当は昨日のうちに連絡しようと思ったんだけど、もしかしたら寝てるかと思って』
『もしそうなら、起こしちゃったら悪いし……』
わざわざ気遣ってくれたのか、ありがたい。
『おはよう。体調は大丈夫』
『心配してくれてありがとな』
『そっか。良かった、安心したよ』
『わたし、今日は用があって少し遅れるから先に学校行ってて』
『分かった』
『うん、じゃあまた学校で』
そんなやりとりの後、おれは一人学校へ向かった。放課後になったら今度こそ琉奈の相談を聞いてやらないとな。
*****
学校に到着し、おれは自分の席で琉奈の相談をどうするか考えていた。
「よう、おはよう、日希」
「………………」
「おい、聞こえてないのか、日希!」
「! ああ、
「どうした友よ、もしかして恋の悩みか?」
「お前はいつも通り通常運転だなあ……」
つい呆れてしまう。なにせこいつは自称……。
「恋の悩みなら過去に46人の女性と関係を持ったこの恋愛マスター、
そんなことを言いながらサムズアップしてきた。しかし、こいつの名前って字面が無駄にかっこいいよなあ。
「関係を持ったっていうけど、それ全部付き合うことなく振られたんだろ。失恋マスターに改名したらどうだ?」
というか、46人ってマジなの? おぼろげながら浮かんできた数字だったりしない?
「フッ、分かってないな日希は。失恋だって立派な恋愛なんだぜ。で、なにがあったんだ?」
おれ一人で考えるよりも、ある意味では経験豊富な龍心に話を聞けば助かる部分はあるだろう。そう思い、おれは龍心に事情を説明する。
「本当に恋の悩みだったのか……。ならば、やはりこの恋愛マスターの出番のようだな」
今度はサムズアップに加えウインクまでしてきた。
「そうだな、すまんが頼む。ただ、もう授業も始まるから続きは後でな」
*****
午前の授業を終え、昼休み。
おれと龍心は昼食を食べ終え、例の相談について話し合いを始めることにした。
「あ、最初に一ついいか?」
「なんだ?」
「お前に話しちゃった事、琉奈には秘密にしてもらっていいか? つい話してしまったが、勝手に他人に言っていい内容じゃなかったと思ってさ」
「確かにそうだな。分かった、内緒にしておくぜ」
そう言った後、龍心は今しがた思いついたであろう疑問を口にした。
「そういやお前、姫宮さんから相談内容をちゃんと聞いてないんじゃないか?」
「そうだけど、話の流れからしてその気になる人と付き合いたいって事だろ?」
「それもそうか……。では、この恋愛マスターが完璧な作戦を授けてやろう!」
完璧などという大層な言葉が出てきたが、そんな作戦があったらもうこいつには彼女の一人や二人くらい出来ていると思うのだが。
「オレが考えた作戦、それはズバリ告白だ」
「えっ? いきなり告白か?」
「まあ聞け。なんたって姫宮さんはこのオレ並みにモテるし、その相手と両思いの可能性は充分あるだろ。もし、違うとしても……」
「告白すれば相手は確実に琉奈のことを意識するし、そのうち好きになってもらえるってところか」
「そんなとこだな」
確かに琉奈はモテる。あんなに可愛い子がモテないはずがないので定期的に男子から告白されている。にもかかわらず、まだ誰とも付き合っていないということはその意中の相手はまだ告白してきていないということか。
とはいえ、告白なんて誰もが簡単にできる物でもないし別におかしな話でもないか。ところで、この失恋マスター、さっき自分の事をモテるって言わなかった? 戯れ言だと思って聞き流しておこう。
それより、おれには今の作戦で気になることがあるからそれについて話すべきだ。
「確かにそれでもいけそうな気がするが、やはり不安があるな」
「どういうことだ?」
「琉奈はおとなしい性格だからな。いきなり告白というのはハードルが高いと思う」
「なるほど、そういうことか。ならどうするんだ?」
「そうだな……。共通の趣味でも持って相手との距離感を近づけるのがいいんじゃないか。相手と仲良くなれば告白の心理的ハードルは下がると思う。それに、さっきの話に近いが、琉奈との距離感が近づくだけでも相手は琉奈のことを意識する可能性は高い。そしてその場合、相手から告白してくるパターンも充分ありうる」
恋愛は告白したほうが負けであり気高く生きようというのなら決して敗者になってはならない。これは言わば、琉奈様は告らせたい作戦だな。
「まあ、その方法でもいいんじゃないか」
「じゃあ、琉奈にはその二つの方法を話してみて、本人が良いと思ったほうを採用してもらうか。ありがとな龍心、お礼にあとでジュースでも奢るよ」
「おっ、サンキュ。しかし、さすがはオレだな。恋に迷える子羊を救済してしまった」
見ると龍心はどや顔をしていた。
「いや、まだ始まったばかりだから救済といえる状況じゃないと思うんだが。それは無事に付き合えたらの話じゃないか?」
「バカを言うな、この恋愛マスターのお墨付きだぞ。絶対に上手くいくに決まっているだろう」
こいつの自信はいったいどこから来ているんだろう?
「逆に不安になってきたわ。相談相手間違えたかなあ……」
「なんだとぉ!」
そんなくだらないやりとりで残りの昼休みは過ぎていった。
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