【連載版】好きな子に恋人が出来たはずだが諦められないと思い告白したら、なぜか恋人などおらず無事にOKが貰え付き合えた話

アズト

第01話 恋愛相談

 高校からの帰り道、おれは幼馴染の女の子といつものようにたわいもない話をしていた。


「ねえ、日希はるきくん、今日凄いびっくりしたことがあってさ」


「なにがあったんだ、琉奈るな


「わたしのクラスのゆりかちゃんが急に金髪になってたんだよ。勉強熱心で真面目な子だから驚いちゃった」


「それは確かに驚きだな」


 そのゆりかちゃんのお母さんは「うちの子が不良になっちまっただか!?」と大騒ぎしたんじゃなかろうか。


「そういえば、日希くんは昔から黒髪だけど染めたいとか思ったことはないの?」


「んー、特にそういうのはないかなあ。黒色が好きって言うのもあるし」


「あ、そうだったね」


 見ると琉奈はその長い黒髪をなにやら気恥ずかしそうに指先でいじっていた。髪の間から見えた耳はやや赤くなっているように見える。


 それにしても、いつ見ても綺麗な黒髪だと思う。ちなみに、綺麗なのは髪だけではなく顔もアイドル並みに可愛い。もし、琉奈がアイドルだったら所属グループの絶対的エース・不動のセンター・究極美少女の16歳姫宮ひめみや琉奈として、間違いなくおれの推しの女の子になっていただろう。


 そんなことを考えていたら、琉奈が神妙な面持ちで切り出した。


「あのさ、日希くん。帰りに少し公園に寄って良いかな? 話したいことがあるんだけど」


「ん? ああ、別にいいけど。なにかあったのか?」


「うん、ちょっとね」


 そこから少し歩き公園に到着する。


「そういえば、昔はよくこの公園で遊んだよね」


「そうだっけか?」


「あれ、忘れちゃったの?」


「今まで隠していたんだが実はおれ、一週間で友達との記憶を無くしてしまうという障害を持っていてな」


「ええっ!? そうだったの!? 病院は……、もう行ってるよね。お医者さんはなんて言ってた!? 治るの!?」


「いや、すまん落ち着け。ただの冗談だ」


「えっ? ……なんだ冗談かあ。びっくりしちゃったよ」


 うーん、すぐに嘘だとばれると思ったのだが信じちゃうとは相変わらずピュアっピュアだな。これではいつか悪い人に騙されそうで心配になる。


 例えば、道でぶつかった相手が倒れた際に手を怪我したと言いだし半ば強引に事務所に連れ込まれ、お嬢様学校を模したカフェで働かされたりしないだろうか? もしそんなことになった場合、そのカフェで平和な百合展開が見られそうなので常連にならなければいけないな……。


 などと、おれが明後日の方向へと思考を巡らせていると、「そろそろ話を聞いてもらっていいかな?」と問われる。ざっと見た感じ公園内に他に人はいないので遠慮なくベンチに腰掛けて話を聞くことにした。


「それで、話って?」


「あ、うん。えっとね……」


 そう言いつつ、琉奈はもじもじしていてなかなか話を切り出さない。そんなに話しづらい内容なのだろうか?


 時は夕暮れ、男女が二人きり、話しづらい内容。導き出される結論は……。


 ……!? まさか、告白か!? 告白なのか!? ちょっと待ってくれ! おれにはまだ覚悟の準備ができていない。 


「あのね。実は……」


「お、おう!? な、なんだ!?」


「わたし、日希くんに相談があって……」


「お、おう……。そうか、相談か……」


「あれ、なんかがっかりしてる?」


「いや、してない」


 言葉とは裏腹に、おれは露骨に肩を落としていた。


「それで、相談って?」


 気を取り直してそう問いかける。他ならぬ琉奈の相談だからな。出来るだけ力になってやろう。


「えっと……、あっ、相談って言ってもこれは友達の話なんだけど……」


「……ああ、それで」


 いや、それ漫画とかでよく見る友達の話って言うていで自分の事じゃん。そういえば、最近読んだ漫画だと『知り合いの従姉妹の友達の話』というパターンがあったなあ。


「その、気になる人がいるみたいなんだけど……」


「…………一応聞くけど、その気になるっていうのはやっぱり恋愛的な意味で?」


「……うん、そうみたい。ってあれ、どうしたの? やっぱりがっかりしてない?」


「いや、してない」


 言葉とは裏腹におれはベンチからずり落ちそうになりながら空を仰いでいた。そうか、琉奈は好きな人がいるのか……。


 いや待て、冷静になれ、望みを捨てるな天方あまかた日希。状況的に可能性は低いが、実は好きな人がおれだということもある。可能性が低いってのはつまり……ゼロじゃない。


「その気になる人の特徴は?」


 その特徴がおれと一致していれば!


「特徴は……、……えっと、金髪で……」


 もうだめだぁ……おしまいだぁ。ふざけんなよ、なんでおれは黒髪なんだよ! 黒なんて大っ嫌いだ! いや待て落ち着け、今から金髪に染めればワンチャンあったりしないか?


「えっ!? ちょっと、どうしたの? もしかして体調悪いとか?」


 琉奈がこんなことを言うのも無理はない。今のおれは地面の上でorzのポーズを取っていた。


「……あー、そうだな、悪いみたいだ。すまないが続きはまた明日で良いか?」


 さすがに、失恋が確定的に明らかなこの状況で話を続ける気にはなれなかった。


「うん、全然大丈夫だよ。ごめんね、体調悪いのに気付かずこんな話しちゃって」


「いや、急に悪くなったんだから気付かなくて当然だ。悪いが帰るわ」


「うん、早く帰ろう。そうだ、薬とか欲しい物ある? わたし買ってくるよ」


 勇気を出して話し始めた相談を中断させてしまったのに琉奈は優しいなあ。だが、今はその優しさが辛い。


「ありがとう。けど、そういうのは大丈夫だ。ただ一人になりたい気分だから先に帰って良いか?」


「……うん、そういうことならいいけど……。大丈夫? なにかあったら遠慮せず連絡してね」


「ああ、ありがとな」


 こうして、おれは一人寂しく帰路に着いた。

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