第5話 衣料品倉庫

 到着したドラゴンの集落は人間種の街のようだった。それもそこそこ大きいやつ。大きなドラゴンたちがひしめき合っている様を思い浮かべていたので、正直に言って意外な光景だった。


「その昔はドラゴンの姿のままでいたそうですが、なにぶん場所を取りますので。個体数が増えてきたこともあって、小柄なチビッ子パピー以外は人化して暮らすのが一般的になっていますね」


 説明してくれたレッドドラゴンさんもいつの間にか人化している。ヒューマン換算だと二十代半ばくらいかな。かなりの美人さんですよ。燃え上がる炎のような赤い髪が似合っているね。

 ちなみに、ボクの髪は金に近い琥珀色で背中の中ほどまである。瞳の色とかは不明。そろそろ姿見で全身を確認したい今日この頃です。


 とりあえず裸足で毛皮の貫頭衣という野生児ファッションはドラゴンたちにも奇抜に映っているようで、チラチラと視線を感じる。特にお胸周辺に。

 どうやら脇が見えないようにしっかりと帯を結んたことで、胸部が強調されてしまっていたみたいだ。ドラゴンたちは揃いも揃って体の線が隠れるだぼっとしたローブばかりを着ていたから、これでもかなり色っぽい恰好であるらしい。生足だし。


「申し訳ありません。人化していると感覚や感性といったものまでが外見の作用を受けてしまうようでして……」

「気にしていないから大丈夫だよ」


 エッ君の時も見られるのは日常茶飯事だった。なにせあの頃は歩く卵だったからねえ。

 さすがに異性からの粘ついた視線は鬱陶しいけれど、すぐに逸らしてくれる紳士じぇんとるな人たちばかりだったから許してあげるとしましょう。


 というか、それ以外のリアクションがないことの方が気になる。

 いくら姿が似通っているとはいえ、見ず知らずの存在が突然閉鎖的な集落にやって来たのだ。もっと警戒するなり興味を抱くなりといった反応を見せえてもおかしくはないと思う。

 まあ、それだけレッドドラゴンさんが信用されている証拠なのかもしれないけれど。


「それですぐに、えーと……、両親?のいる所に行くのかな?」


 できれば先に着替えたいなあ、という素振りチラッチラッで尋ねてみれば。


「こ、これは失礼を!確かにその御姿のまま動き回るのは避けるべきですね!先に服のある所にお連れします!」


 と慌てるレッドドラゴンのお姉さん。外見に引っ張られるとはいえ、こうした機微に疎いのはやはり根本はドラゴンだからなのだろう。そして「こちらです」と案内されたのは街外れにある倉庫の一つだった。


「気に入った物があるかどうかは分かりませんが、同胞が大陸各地より持ち帰ってきたものなので種類だけは豊富ですよ」


 中に入ってみればずらりと並んだ棚に様々な衣服がこれでもかと置かれていた。いやはや、よくもまあこれだけの数を集めたものだ。

 色落ち具合や生地の傷み具合から相当な年代物もありそうだし、大陸服飾文化の博物館が開けるのでは?


 それにしてもこんな場所がありながら誰も彼もローブばかり着ているというのは、ドラゴンは皆着飾るという感覚が薄いのかもしれない。

 かくいうボクも服装にこだわりがある方じゃないけれどさ。前世はほら、ツルスベな卵ボディだったから。お母さんたちもそれほど詳しくはなかったようだしね。式典とかがあるたびにミル姉がドレスを着せられているのを見ても、「動き辛そう……」とか「コルセット苦しそう……」といった感想が一番に出てきていたくらいだ。


「クレナ?珍しい顔がやってきたわね」


 奥から現れたのは鬱蒼うっそうと茂る樹海を思わせるような青い髪をお団子にした、これまた妙齢の女性だった。おや、ここでは珍しく長袖ロングスカートのワンピースを着用している。露出や生地の多さ等は他の人たちとほとんど変わらないのだけれど、腰付近が絞られているだけで印象は大きく違ってくるね。

 ただ、両肩のトゲトゲな鋲が付いた肩パッドが全てを台無しにしていたけれど……。


「アオイですか。あなたはまたそんな恰好でこんな所に入り浸って……」

「別に誰に迷惑をかけている訳でもないのだから構わないでしょう。それに、ここの整理をする者も必要よ」


 レッドドラゴンのお姉クレナさんのお説教をどこ吹く風と流すアオイさん。衣服を整理するのに、肩パッドが邪魔になりそうだと思うのはボクだけなのかな?


「それより、そっちの子はどうしたの?見たところ私たちのお仲間のようだけど?」


 判断材料はおでこの鱗と尻尾かな。疑われてはいないけれど、本物だよーとピコピコ動かしておこう。


「まあ、あなたなら面白おかしく吹聴するようなことはしないでしょう」


 うわー。一見するとただの前置きだけど、「余計なことは言うな」っていう実質命令みたいなものだよ。これにはアオイさんも怪訝そうな顔になっている。


「この方は御子様、エルネ様です」

「御子!?え?ええ?どういうこと?ハハムート様の卵は生誕の地に置かれているはずでしょう?」

「その卵からかえられたのが、エルネ様ということです」

「なんですって!?人化しているようでもないから『ドラゴニュート』でしょう?『パピー』どころか『ドラゴン』すらも飛び越えているじゃない!?」


 これは後から聞いた話なのだけれど、まず『パピー』として生れたドラゴンは成龍である『ドラゴン』へと進化するというのが一般的なのだそうだ。そこからようやく『ドラゴニュート』や『レッドドラゴン』、『グリーンドラゴン』といった個別の進化が始まるのだとか。

 つまりボクは、卵からかえった時点で第二段階の進化まで終わっている、ということになるらしい。なるほど、それはアオイさんも驚くし、グリーンドラゴンもパニックになって攻撃を仕掛けてくる訳だわ。


「そういえばヘキのやつはどうしたの?生誕の地の守りについていたはずよね?」

「あのバカは御子様であることに気が付かず、あろうことか攻撃を仕掛けるという暴挙に出た挙句にエルネ様に返り討ちにされました」


 また新しい名前が飛び出してきたと思ったら、グリーンドラゴンのことだったみたい。


「はあ?なにやってるのよあのバカ」

「あのバカはドラゴン至上主義に被れかけていましたからね。エルネ様のお姿を見て人間種と勘違いしたのでしょう」

「本っ当バカね、あのバカは」


 うわー……。二人の間で彼の呼称がバカに統一されていってるー。

 まあ、いきなり襲われた側のボクからすれば庇ってあげる必要性も感じないので、ご愁傷さまといったところだ。


 それよりも、そろそろ服を見させてもらっていいかな?



  ~   ~   ~   ~   ~   ~   ~   ~   ~


〇エルネの外見(通常のドラゴニュート状態)


 身長は170センチ弱で体重は秘密。スリーサイズは極秘事項。

 メリハリの効いた体形でお胸は大きい。整った顔立ちの美少女。


 背中には皮膜状の小さな羽がある。ドラゴンは物理的にではなく魔法的な力でもって飛行するため、これでも十分に空中を飛び回ることが可能。


 尻尾は尾骶骨あたりから生えていて濃緑色の鱗に覆われている。太さは腕くらい、長さは一メートルほど。本人的には第三の足のような感覚で、短時間なら尻尾だけで身体を支えることもできる。

 額と胸元にもそれぞれ一枚ずつ鱗があるが、こちらは白っぽく光の反射具合では虹色に見えることもある。


 髪は薄い琥珀色で、背中の中間ほどまでの長さ。羽も隠せます。

 瞳も同じく琥珀色だが、こちらは濃いのでパッと見は茶色。


 シャキーン!と鋭くて硬い爪を任意で伸ばすことができる。手だけでなく足の爪も可。


 お胸が大きい。お母さんことリュカリュカが見れば「ぐぬぬ……!」と呻ってしまうくらいにはお胸が大きい。大事なことなので二回言った。




〇ドラゴンの基本進化

 パピー → (レッサードラゴン) → ドラゴン → 個別の進化A → ……つづく


 作中では省かれていますが、一気には進化できずにレッサードラゴンを経てからドラゴンに進化する個体も多い、というかほとんどがこの進化パターンとなります。


 進化するorできる総回数は個体によって様々です。また、進化回数が多いから強いという訳でもありません。

 例えば、現長のパパムートは八回で、ママンのハハムートは六回ですが、強さはほぼ互角です。

 なお、家では圧倒的にハハムートが強かったりウワナニヲスルヤメロ……。

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