第3話 新しい感情の目覚め
本日はここまで。
明日からはストックが少なくなるまで朝(7時)と夕(18時)の二回投稿となります。
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『あなたの名前はね、エルネだよ!』
不意に優しい声が頭の中に響く。
「……エルネ。ボクは、エルネ」
誘われるように繰り返すと、体の中に心地良いものが染みわたるように広がっていった。やっぱりお母さんは凄いなあ。
もう、あの頃には戻ることができない。知らず知らずのうちに湧き上がっていた絶望を、名付けという素敵な贈り物で綺麗さっぱり洗い流してくれたのだから。
「ここがどこだかは分からないけれど、ボクはボクらしく面白おかしく生きていくから」
決意を言葉にすれば、心の中のお母さんはいつものイタズラっぽい笑顔のまま消えていった。
「さあ、そうと決まれば状況を把握しないとね」
寂しさを消し飛ばすように声に出し、そして気が付いた。
「ボク、裸なんですけどお!?」
カッと頬が熱くなる。どうやら人の姿になったことで羞恥心も目覚めてしまったみたいだ。などと自分の感情を考察するふりをして現実逃避をしてみたところで状況が改善されるはずもなく。
ドラゴン相手に蹴り技?ちょっと何言ってるのか分かりませんね。
「と、とにかく身にまとえる物を探さないと……」
服があればベストだけれど、ここは周囲を切り立った崖で囲まれた窪地だ。しかもごつごつとした岩がむき出しになっているという、文化文明とはほど遠い場所だった。という訳で布かそれに準ずる物でもあれば御の字といったところかしら。
「あっ!こ、これ使えるかも!」
割れて砕けた何かの破片の下に、毛皮っぽいものが敷かれているではありませんか!
引っ張り上げてみると、予想通りの毛皮だった。それもかなり大きい。ふさふさと毛が長いから、寒い土地に住む生き物のものなのかもしれないね。
地面に直接置かれていたので多少汚れてしまっているが、背に腹は代えられないか。
半分に畳んで首を通す穴を開ければ貫頭衣くらいにはなるかな。あ、帯もいるよね。
「さすがに刃物が都合よく落ちていることは……、ないよねえ」
そういえば気絶させたドラゴンの爪は鋭かったけれど……。
「いやいや、いくら何でも爪をへし折るとか可哀想だわ」
というかボクだってドラゴンなのだから爪をシャキーン!伸ばすことくらいはできるのでは?
しゃきーん!
「……本当にできちゃったし。まあ、いいや。便利だから深くは考えないことにしましょう、そうしましょう」
穴を開けて、ついでに裾側を少しだけ切り取って帯にすれば。
「じゃじゃーん!服の完成です!」
と言っても胴体がようやく隠せただけなんだけど。未だに靴すらない裸足のままだし、とてもではないけれど文化的とは言えそうにもない。
それにしても大きなお胸様って結構厄介だったのね。足元が見えないから歩くのにも不便だし、作業の最中もばるんばるん跳ね回ってくれていた。もしかすると戦闘の時にも邪魔になるかもしれない。早めに対策を考える必要がありそうだ。
「それにしても、ここって一体何なんだろう?」
再度辺りを見回し、じっくりと観察してみる。取り囲むのは十メートルは超えるだろう高い崖。そして石や岩がゴロゴロ転がる地面。……以上!
うーむ。何の成果も得られなかったとはこのことか。
「あれ?」
かすかに、ほんの
「もしかして!?」
ガバッとしゃがんで掌を地面に押し当てる。……温かい。ほかほかと心地良いくらいだからそれほど高温という訳ではなさそうだ。地熱というのだったっけ?火山の近くにはそうした場所があるのだとか。
「変わった場所だってことは分かったよ。で、どうしてボクはそんな所にいたのでせう?」
肝心な部分が不明なままとか、ダメダメだよ。
あちゃー、と頭を反らせて盛大にため息を吐く。目を開けば青空が飛び込んでくる。崖に切り取られているからなのか、これまで見たどんな空よりも青が濃ゆいね。
あれ?黒い点のようなものが見え……、何かが近付いて来ている!?
紙に落としたインクが滲むように点だったものはあっという間に大きくなっていく。そのドラゴンな外見がはっきり認識できようになるまでの時間はほんのわずかだった。
先手必勝!という考えが浮かぶが自重する。今のこの状況について色々知ることができるチャンスかもしれない。それにまだ敵対していると決まった訳ではないしね。
とはいえ、あちらも同じだとは限らない。さっき伸したドラゴン――緑色なのでグリーンドラゴン(仮)とでもしておこうか――のように問答無用で攻撃してくるかもしれないから、すぐに動けるように用心だけはしておこうか。
高速で落ちてきた新たなドラゴン、真っ赤な体躯のレッドドラゴンは、衝突する直前に翼を大きく羽ばたかせることでふわりと地面に着陸する。
すごいね。何が凄いって土埃の一つも舞っていないのだ。単にその翼で飛ぶのではなく魔法的な力も利用しているんじゃないかな。
「これは……、どういうことでしょう?」
そして、ボクとグリーンドラゴンを交互に見て困惑した声を発していた。記憶の中のブラックドラゴンのおじさんやグリーンドラゴンに比べると少し声が甲高いかな。もしかすると女性なのかもしれない。
それはともかく、多分仲間なのだろうグリーンドラゴンが地面に伸びていて、その傍らには毛皮の貫頭衣を着た美少女――鏡を見た訳じゃないけど確信がある――が立っているのだから、頭の上を
「人間?……いえ、違いますね。あなたからは私たちと同じ匂いを感じます」
ふっとレッドドラゴンの警戒が一段弱くなる。完全に気を許してくれた訳じゃないけれど、殲滅対象からは外れたようだね。性格も理知的なようだし、これなら対話も可能かな。
「こんにちは。ボクはエルネ。いきなり暗くて狭い場所に押し込められていて、ようやく外に出られたと思ったら、そこのグリーンドラゴンが襲ってきたから返り討ちにしたんだよ」
思いっきり彼を悪者扱いしているが、ボク視点だとそういうことになるのだからしょうがないのである。
「暗くて狭い?……まさか!?あなたがあの卵から産まれたというのですか!?」
「卵?産まれた?」
なんのこっちゃ?
「ああっ!よく見ればそこら中に殻の欠片が飛び散っている!?」
首をかしげるボクを放置したまま、レッドドラゴンは何かの欠片を見ては叫んでいる。
あ、それ、毛皮の上に散らばっていたやつだ。
……もしかして大事なものだった?
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
>心の中のお母さんはいつものイタズラっぽい笑顔のまま消えていった。
リュカリュカ「待って!?ボクってこんなイメージなの!?」
ミルファ&ネイト「その通りです(わ)」
小ネタが思いついてしまったものでつい書いてしまった。こういうのが嫌いな人はゴメンナサイ。
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