第7話 頬をぶつ
食後、少しの休憩を挟んでからフユナ先生に「またね」と一瞥し、ギルドから出た
「先輩鑑定で何か…転生特典とかありましたか?」
「…秘密かな。桐生だって自分のこと僕に教えないでしょ?」
「え?教えますよ。」
「…」
「俺、先輩のこと信じてますから。なんなら今教えましょうか?」
「…ありがとう。でも大丈夫だよ」
「分かりました。わざわざ伝える必要もないですしね。」
と、いろいろ話していたところどう見ても学校と思わしき建物の前まで着いた
そこの門のところに目が開いているのかわからない70歳ぐらいの男性が座っていた
「んー。こっから先は制服のものしか入ってはならんぞ。主ら学徒か?」
へー…この学校制服あるんだ。
…俺の部屋クローゼットとかあったっけ。…あったか
「ぬぉ!すまんすまん。学生でないと伝わらんかの。」
「あ、いえ、そういう訳ではないのですが。これから学校に通うこととなるので下見をと思いまして。」
「ほぉ…見学に来たということじゃな。それなら話は別じゃ、案内しちゃる。」
俺たちは学校の立派な門をくぐり、中へと入っていった。
「この学校はヨド年制での。ギザ年生とサカ年生は文筆を覚えることから始まる…まぁお主らにはちと退屈かもしれんな。んで、そこからいろんな分野に分かれるのじゃ。」
ヨド?ギザ?サカ?
校舎は複数に別れており、中庭には庭園や池など憩いの場所が広がっており、学校全体の敷地面積はとてつもなく大きかった
おそらくギルドにあった地図は見切れてるのだろうというぐらいには広かった
10分ぐらいかけて校舎の内側を一周したが、まだ行ってない校舎の外側にもいったら一体いくら時間がかかるのだろう?
興奮が収まらないままであった
一周し終え校門付近まで戻ってくると——
「うっるさいわねぇ!いきなり変な口出ししないでくれる!?」
と甲高い声がここまで響いてきた。どうやら校門で揉め合いが起こったらしい
「やれやれ、儂がちぃっとばかり目を離すとすぐこれじゃ。まぁったく…」
とやや呆れ顔で門番の爺さんがその声の方へと歩いていく
俺たちもその声の方へと近づくと、おしゃれな鞄を持った少女と普通の少女がキャンキャン騒いでいた
その近くには2人のそれぞれの付き添いみたいな子がお互いの手をがっちり掴んでオロオロとしていた
あの子ら仲良さそうだなぁ
すると爺さんが
「これこれやめんか。何があったかわしに言うてみぃ」
と切り出した。
「うっ、トロ爺。ごめんなさい。でもね、カナちゃんとこの鞄のこと話してたらこいつがいきなり馬鹿にしたこと言ってきて…ついかっとなっちゃって…」
おしゃれな少女はトロ爺と呼ばれる爺さんの元へと駆け寄り、泣きそうなのを堪えてそう語る
「あら、本当のことを言って何が悪いっていうの?またすぐ被害者ぶりやがって。あーあーいいわねぇ金持ちって。能天気なバカでいられて」
「…!ばかじゃないもんっ!」
「なんでそんなバカみたいな返答しか出来ないの?これだから温室育ちは…」
「あなただって大事に育てられたでしょ?」
「はぁ?私だって…!…はぁ」
とんでもない性格の悪さをこれでもかと溢れ出している少女は次の瞬間、俺の逆鱗に容赦なく触れる
「私もあんたみたいなのを生んだ親から産まれたかったわ。あんななにもくれないクソみたいな親じゃなくて。あいつらなんか親の形をした何かよ。反吐が出るわ」
バチンッ!!!
何かが叩かれたその音と嫌な静寂が静かに鳴り響いた
手がジンジンと痛む。パーはグーより痛いんだな
「いたっ!何すんのよ!」
「——れ」
「は?」
「親に謝れつってんだよ!このド腐れ野郎!!」
あーあーみんな黙ってこっちを見ている。なんでこんなにも脳みそだけは冷静なんだろう
「はぁ?私は子として当然のことを言ったまででしょう?というかいきなりなんなの?あんた関係ないでしょ!」
「ーっ!子として当然…だと?ふざけんのも大概にしろ!てめーの親御さんはてめーを作るために生まれてきてねーよ!思い上がんな!!」
「ふえっ何よっ…ひっく…この…うえぇぇーん!うっ…ひっく…う…う…」
怒鳴られたことがないのか知らないが相当こたえたのであろうか。そのキチガイ少女はわんわんと泣き出した
あの言葉を聞いて感情を、そして体を制御することができなかった
…俺は早くにして親父を亡くしている
だから親を貶した彼女をどうしても許すことができなかった
ビンタをしただけマシなものだ。昔だったら容赦なくぶん殴っていただろう
大泣きをしているキチガイ少女。
年上の女の子を泣かせた精神的には大人の俺。
俺に対して「ほぉ」と関心を向けるトロ爺と呼ばれている爺さん。
その隣で「暴力を振るったのは後で反省会に持ち込むとして、よくやった」と親指を立ててジェスチャーを送る先輩。
トロ爺の陰でビクビクして今にも泣き出しそうなおしゃれな少女。
ありゃ俺のこと怖がってんな
そして、今の一件に意を介さず、運命を感じたのか「お名前は何?」「えーあたしは…」とキャッキャキャッキャと2人だけの世界に没入している乙女たち。
何この集団…もう最悪だよ
おしゃれな少女が「トロ爺ぃ…」と震えた声で一言発してくれたおかげで皆んなはっとして動き始めたが、それまでの女の子のくぐもった鳴き声がただ鳴り響いているあの状況は酷い有様であっただろう
その後、キチガイ少女を慰めているトロ爺の「帰って良いぞ」という声に従い、俺と先輩は学校からそそくさと去っていった
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