第8話 魔法使いの適性は…ある
学校から去ってしばらくした頃、俺たちは行先を失いただただ散歩をしている時間となった
「暇だね。」
「暇…ですね」
「「……」」
「帰ります?」
「帰ってもやることないよね。」
「そう…っすね」
なんか先輩と共有しときたい事とか他にあるかな…あっ!
「先輩…この世界魔法がつかえるっぽくないですか?」
「うんまぁ、MPもあるわけだしね。」
「図書館にもしかしたらそういう系の本があるかも知れないので行きません?」
先輩の目がきらりと光る
「!図書館があるのかい!?ぜひ行きたいものだね。」
そういえばそうだった。先輩は大の読書家ということを忘れていたよ。
「よし!決まりですね。ついてきてください」
俺たちは急ぎ足で図書館へと向かった。…先輩に急かされて半強制的に
だが、今後悔をしている。なぜなら俺は全く文字が読めない!自分のあまりの計画の無さにむしろ惚れ惚れするね
さて、まだ先輩は字が読めないということを知らないようだし、もう図書館に着いてしまったけど伝え——
今、俺の目の前で不思議なことが起こった
何が起きたか分からねぇと思うから、今起こっていることをありのまま話すぜ
なんと先輩はひょいと手に取った本を意味が分かっているかのように読んでいるのだ
意味がわからねーぜ。意味が分からない文字なのになんで読めるんだ…
「先輩、文字読めるんですね。」
「…え!…あっうん…そうだ…よ」
「どこで知ったんすか」
知りたいがあまり言葉を若干被せてしまった。しかも変な反応だし…
「…うーんと、あの、…その…そうそう転生特典だよ。」
「なるほど!そうだったんですね!」
そうだったのか。くそ〜めっちゃ実用的じゃんいいな〜羨ましいぜ
「ところでさ、この本魔法の使用方法が乗ってるみたいだ。」
「まじっすか!早速やりましょう!」
その一言で全ての考え事がぶっ飛んだ
あるのはただ、魔法が使いたい。それだけだ
どうやらこの本は、というかここらの本は全てレンタル料を支払わなければならないらしい
早速、俺たちは受付らしきところで座っている人に話しかけてみることにした
「おやおやぁ?お嬢さん方本を借りにきたんですねぇ。ギザ冊ギザラカマネよ。うふふ」
お、今ちょっとわかったことがあるぞ?恐らくギザというものは1ということを表してるのだな?
あと円じゃなくてカマネという通貨だな。たまに耳にしてたけど多分そうだな
受付のお姉さんはゆったりとした服を着ていて、ゆっくりと話すのが特徴の人だ。髪は長く黒に近い紫色をしており、大人の艶めかさがある
…胸も生活の邪魔にならなそうなぐらいにはあり、そのちょうど良いサイズ感もまた色気を漂わす一員として担ってんのかね
「おやぁ?あなたたち魔法がつかえるんですねぇ」
「いえ、これから試そうかと思いましてね。」
先輩は軽く俯いてから頭の後ろをポリポリと少しかき、ポケットからコインを1つ取り出して机にポンと置いた。
今じゃないと思うが、先輩は金髪のサラサラな髪を目が完全に隠れるぐらいにまで伸びている。本人は邪魔と言っており、髪をセンター分けしていた。先輩の転生先は容姿端麗な少年のようだ
羨まs…おっと今じゃないね、話を戻そう
「あらぁ。そうなんですね。頑張ってくださいね。応援してますよぉ。その本は今からギ月先までに返してくれたら大丈夫ですよぉ。こちらお釣りですね。私は少し眠いので寝ますねぇ。おやすみぃ。……あら?間違えた。…おやすみぃ〜」
彼女は腕を枕にして睡眠を始めた
…有り難うございましたって言いたかったのかな?
マイペースな人だなぁと思いその場を去ろうとしたら、お姉さんの後ろからズカズカと足音が近づいてきた
マイペースな彼女のすぐそばに止まるとゴチンッ!とゲンコツを喰らわせる
ゲンコツを喰らわせた女性はマイペースなお姉さんよりひと回り、いやふた回りぐらい小柄な人で、こちらは淡い銀色の髪を肩まで下ろしていた
「いったぁ〜!もーぅ何するんで…ウゲ」
「こらっアズサお前ウゲとはなんだ。ウゲとは。仕事中に寝るな!」
「ふへぇ〜だって眠いんですもん!」
「だってじゃない!」
またゲンコツが彼女に降り注ぐ。彼女の頭にぶつかって終わると思ったらそのまま拳を回転させ始めた
「いひゃい!ってイタタタ!ぐりぐりしないでぐりぐりぃ!」
「もうこいつはほんとうに〜。反省しないんだよなぁ…すみませんね、後できっちり教育しときますので。有り難うございました。また来てくださいね。」
「…あのぅ…教育って…いったい…」
俺たちが去っていく間にも言い争い(一方的な説教)は続いた
「ったく、館長なのに怠けんなよ!」
「でもぉ〜」
「でもじゃない。」
またゴチンッ!と鉄拳が落ちる音がした
平和だなぁ…って館長!?あの人が!?すげぇ人選ミスじゃないかこれ
ところでなんだが、先輩はこの図書館から出るまで終始ダンマリであった
こころなしか顔色も悪いような…
先輩の様子が変わったのは銀髪の少女が来た辺りからだ
なにかトラウマでもあったのかな
このことは…俺も大人だ、そっとしておこう
急ぎ足で向かったことが功を成し、数刻と経たずに俺たちは魔樹海の手前まで来た
え?魔力切れのトラウマ?
ないない
え?熊に追われるトラウマ?
あれぐらいでへこたれる俺じゃないって
魔樹海に少し入り、座れるぐらいの手頃の石の近くで先輩は本を広げた
適度に土肌が見える程度に雑草が生えており、時たま吹く風に煽られてサラサラとそよぐ
高いまばらに生える木々からの木漏れ日が森の涼しげな空気を引き立てる
心地よい
初めに来た時と違い、森の自然に目を向けることができる
1人と2人では違うものだと感心しているとーー
「あれ?何故かここだけ紙が新しいような…特段変わりはないか。よし、じゃあ読み上げるよ?魔法使いになる上で、まず初めに鑑定レベルを上げましょう…上げ方は周りのものをどれか1つ意識してじっくりと観察しましょう…ふむ」
先輩はそびえ立つ木を眺めたり触れたりし始めた。
一方で俺はそこに落ちていた石を手に取り、じっくり眺めた。見るじゃなくて観る…だっけ?
石〈そこそこ固め、白に近い薄茶色、ゴツゴツとした形で表面はザラザラ〉
石だ。なんと言おうとこれは石だ。石石石いしいしいしししししい
[称号 覗く者を手に入れました]
脳内を支配したこの言葉にハッとした。あれ?どうしていたんだ俺
「称号…うん。これが頭に響けば成功か。桐生、そっちはどうだい」
「こっちも問題ないです」
「うん、いい感じじゃないかな。次は自分自身に鑑定をかけてみましょう『鑑定』と。発動しないのであればそこでやめましょう。あなたに才能はありません、が成功したのならあなたの名前が見えるはずです。」
やってみよう
えーっと…自分に向けて…『鑑定』!
おっ成功したっぽいな
眼前には白い縁で型取られた黒い板が出現し…本当にただ出現しただけのようで何も書かれていない
触れてみようとすると触れることができ、横から見ようとすると見えなくなる…2次元的な板であった。更に後ろからは触れることができないようで、近づけた指が黒い板を通り抜けていった
どうやら他人のものを見ることはできないらしい
先輩も黒い板が現れたらしいが、それらしきものを発見することは叶わなかった
「うん、成功した。桐生そっちは…大丈夫だね」
先輩の呼びかけに親指を天に立てて返した。
「続き行くぞ。鑑定レベル1では何もできないはずなのでレベル2にしましょう。上げ方はそれぞれ別のものを10個、先ほどのように観察しましょう。」
よし、葉葉葉はははは土土土つちつちつちつ木木木きききき雲雲くもくも蜘蛛蜘蛛くもくも…
うわっ蜘蛛いる!
…そういえば人に鑑定したらどうなるんだろ。気になってきたからにはしょうがない
先輩には犠牲になってもらおう
『鑑定』っと
黒い板にランドウ・モスワイデ・オルトという文字が出てきたと同時に頭にガンガンと痛みが押し寄せてきた
うわっ結構激しい頭痛だ。人に鑑定したペナルティとか?
「…桐生、今僕に鑑定した?」
「なぜバレたし」
「この本には鑑定レベルを1から2に上げるうえで最も早く上げる方法は人を鑑定することだが、耐え難い頭痛が襲ってくるから推奨しないって。後相手に不快感を与えるから気づいたよ。頭痛大丈夫?」
これをしただけでレベル上がるの?やった〜
「はい、まぁ…大丈夫ですかね。」
「それは本当かい?なら僕もやってみよう。不快感はそこまでじゃ無いから安心してくれ。」
先輩は我慢強い性格であるし、多分大丈夫であろうという判断のもと、これに応じた
「鑑定」
先輩の声と同時に不快感が頭から足まで伸びてゆく
うっ…まるで暖房の風が直に当たる教室で異様に時間の経過が遅い授業の残り10分の時みたいな不快感…
こたえるな〜下手したら頭痛より嫌かも——
「っ!うっぅ~~~~~~!!あがっ」
先輩の顔色がどんどん青ざめていったかと思うと声にならない声をあげた
そしてジタバタと体をうねらせ悶えている
「ちょっ先輩!大丈夫ですか!」
しばらく悶えていたと思ったら体の力がふっと抜けたのか止まってガクッとうつ伏せに倒れてしまった
「先輩っ!」
俺はすぐさま先輩の体を仰向けにして胸、口に耳を近づけて先輩の無事を確認する——
よかった…幸いどちらも問題ない。ただ気を失っているだけだ
取り敢えず先輩が起きるまで鑑定レベル2の実力でも見よう。3に上げる方法知らんし
俺は自分に向けて再度鑑定を行なった。
すると今度は黒い板に自分の名前、HP、MPが書かれてあり、どうやらうちの鑑定は成長してくれたようだ。鑑定板にあったSPはまだ出ない子らしくここには載っていなかった。
あれ?MP減ってる…
というもののこのHP、MP表示、ざっくりとしか分からず文字の下にバーがあるのだが、このぐらい減った。しか分からない。
あ、そうだ。外部はどうなのだろう。
そこら辺にある石ころでいーや。『鑑定』っと
黒い板の文字が上から下へ消されると同時に別の文字が付け足される
…黒板みたいだな…
新たに書き換えられた板には赤蛙石(せきけいせき)のみ書かれていた。そう、その文字のみ
…まぁ情報は増えましたし?どうせ二重鑑定とか出来るんでしょうよ。そうでしょうよ。
文字の書かれている部分に触れ、再度『鑑定』と囁く
結果的に二重鑑定に成功した。ただ…
出てきたのは石の一文字のみ…
三重鑑定しても出てきたのは石。
腹立つな
そこで1つ、人1人に対して鑑定できる対象は1つだけなのだろうか。二つ同時に出来ないのだろうか
という疑問が生まれた
その疑問を解消すべく、俺は黒い板を背にもう一度鑑定を自分にかけた
鑑定板が二つ出来るのではないかという魂胆の元後ろを振り返るとそこに黒い板はなく、…まぁ失敗に終わった。
「そんな簡単なわけないよな」
嘆いてばかりでは始まらない。そう思い鑑定板をチラリと見るとMPバーが空になっていた
まずいっ!眠気が来る!!
今までの経験からそう悟った直後、強烈な眠気が容赦なく襲いかかってくる
そうだ!おばあちゃんが言ってた!眠くなったら運動しなさいって!
しかし、スクワットをするも抵抗虚しくうつ伏せに倒れ込んだ。それでも俺はおばあちゃんを信じるぞ!
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