第4話 魔樹海

今、俺の手には鑑定書が4枚ある


しかしどれの紙にも鑑定不能の文字が記されている


「………その紙、絶対誰にも見せないでくださいぃ〜じゃないと名物が〜!!!」


腰が引けたのか腰をプルプルとさせている彼女は半泣きになりながら俺に抱きついてせがんできた


なんだか申し訳なくなってしまったので、了承しギルドから立ち去った


もらった鑑定書は着服しているワンピースにポケットがついていたので折り畳んでポケットにしまおう


「……それにしても俺の転生特典、どんな能力だろ」


まず生き返るというのがひとつだろ?多分まだあるはずだ。ワクワクが止まらないなこれ


することも無くなったので、取り敢えず空を見た時に見えたあの高い塔を目指すことにした。


さて、俺は今ワンピースを着ているわけだがロングなため普通に歩きづらい


世の中の女性ってこんなに大変なものを着てるんだな

段差を上がるときに邪魔だし、太ももあたりに風が吹き込んで少し寒い


靴は厚底で身長を少し誤魔化せてるかな?誤差だけど…

厚底のお陰で助かっているところもある。靴の技術が良いのか底の素材は柔らかく、昨日全力で走っていても足に負担はかからなかった


そうそう、道についてなんだが街の中心部は石造りなのに、街の中心から離れていくにつれ土の道に変わってくるのだ


幸い、自宅の前の地面は石造りだったので安心だ


高い塔は街の中心部にあったようで,住宅街から一転、大きな開けた道に出た


街の中心部の広場には大きな窪みがあり、窪みの下までは階段で行くことができるようで、階段を下ると階段に隣接してより大きい段差があり、恐らくそこは座席だろう


窪みの中心では単独ライブが行われていたが,座席は閑散としていた


…いや、正確にはおっちゃんたちの昼寝スポット…か。最初から最後までポエム的な歌詞ばかり歌っていて聞いていたこっちまで恥ずかしくなってきたぞ…!

ちょっとここにはいれんわ。帰ります。まぁ彼には頑張って欲しいつもりです


どてっ


「あいたっ…」


…べ…別に階段登る時にスカート盛大に踏んで転んでなんかねーし?


あっ、てか「あっ」とか言って歌止めてるんじゃないよお兄さん!プロ意識持ってよ!


うわぁそのせいで昼寝してたおっちゃんたちこっち見てくんじゃん!


その場から逃走を図ろうとしたが、


またもやスカートに足を引っ掛けて転んだ


…もう何も言わずに全力で早歩きをしながらツカツカとその場から逃げるように去った


そのまま俯きながら体の動くがままに進んでいたところ、いきなり話しかけられた


「…おい、こっから先は魔樹海だ。嬢ちゃんのようなやつが入っていい場所なんかじゃねーよ。帰んな」


「…あなた誰です」


いつになくテンションが低かったため、ドスの効いた声を発してしまう


「別に誰だって良いだろ。俺は名乗るほどでもねぇしがねぇ冒険者よ。俺んことはどーでもいんだよ。ほら、帰んな」


魔樹海…ねぇ…


少し、いや、とてつもなく興味をそそる言葉が出てきた俺はもう気分が天元突破しそうなほど良くなっていた


「すみません」と一瞥し、その場から去った…ように見せかけて曲がり角の物陰でその冒険者が消えるまで隠れた


魔物には効かなかったが人間には効くだろう


冒険者のおっさんがいなくなるのを見届け、そしてそのまま魔樹海とやらに足を踏み入れ、その先へと奥へと入っていった


鬱蒼とした森はみるみる暗くなってゆき、足を踏み入れたことに少し後悔して引き下がろうかと迷ったが、もはや選択肢は奥へと行く道一択しか俺の心の中にはなく森の魅力に引き込まれていった


子供は探索が好きだと言うが,俺の人格はこの体に引っ張られているのだろうか。いや、今はそんなのどうでも良い,また後で考えても良い話だろう


どれぐらい歩いただろうか、疲れが見えてきたため少しの休憩をとそこら辺のずっしりしていそうな木に腰をかけた


「ん?なんだこれ」


なにか、透明感のある海にような深い青のような、またもや明るい青のような、表現が難しいけどつい魅入ってしまう石が転がっているのを見つけた


試しに拾ってみると先端が鋭く、子供の手のひらサイズでポケットに入りそうだったので取り敢えずポケットに突っ込んでおいた


グルルル…


歩みを再開して、しばらく歩いていると、凶暴な動物が出すような音が背後から聞こえてきた


おそーるおそる背後を振り向くと…いた


遠くにこちらを見ながら牙を立てている熊が


全力で走った。


グアァァァ!!!


それに合わせるようにドッサドッサと大地を揺らすような音を立てながらこちらに向かってきた。


ひぇ〜

これまた死ぬとまじで思った

音がどんどん迫って来てもう真近まで迫ったときーー


ピタッ…っとその走る音は止まった。


音が止まったため思わず振り向くと熊はまるで舌打ちをするかのような態度でノッシノッシと帰っていった


???


顔に滴る汗を拭いつつなぜ帰ったか辺りを見渡すと、1つの方向にチラチラと明かりが見える


もう帰りたい。もしかしたらこの森から出られるかもしれない


そう思って疲れた体に鞭打って明かりに方向に向かった


そしてその明かりへ抜け出し、開けた場所に出るとーー


そこに待ち受けていたのは…!!!




龍だった


そこに待ち構えていたのは町並みーー


ではなく龍だった。リュウダッタ


…もう一度言う。龍だった


あ、はい。そうきましたか。私に死ねと。


などと脳裏によぎる楽観的な考えとは別に無事、腰が抜けてしまった


尻もちいついたと同時に目が合った


やつは黄色く光る細い瞳孔をより細め、さっきいた熊よりも大きく——


グルルルッッ!!!!


と言う音を出した


その気迫にやられ、両手を挙げ、その汗で塗りたくられた背中をファサァッと野原に触れさせる


あ…結構野原に寝転ぶの気持ちいかも


「さあ、どうせ食べるのなら一思いにガブっとやってくれ!さあ!」


瞼をぎゅっと閉じてその恐怖から逃れようとする。


「…………あれ?まだか?」


不思議に思い、薄く瞼を開けてチラッと龍の方を見ると、さきほどの殺気溢れる表情から一転し、細かった瞳孔をまん丸に広めて何かこちらの動きを待っている


そんな気がした


そこで初めて気がついたのだがそいつは傷を負っており、いまさっき喰らったのか分からないがドクドクと血を流している


ピンと来た


この龍の傷を癒して見逃してもらおう!


俺知ってるもんね。魔物の傷に人の血を落とすと回復するって。俺が見てた異世界ものではそうだったもん!


え?そんなの通用するか分からないって?


…まぁまぁ、モノは試しモノは試し。治んなかったら俺が死ぬだけだしね!


そう思い、さっそくポケットの中から石を取り出した


いやぁ持っておいてよかったな。石


龍の表情は一変してこちらに牙を見せたが、気にせずエイッと腕の表面をゴリっと削るーー


いっっっつぅぅぅぅ〜!!!!


何躊躇いなくやってんだよバカ!!!


…いやっバカは俺だったよ!


ズキズキと来る痛みに耐えながら、傷のそばまで歩み寄り血を垂らすとーー


避けられた。あれっ?と顔を覗き込むと、見てわかるほどドン引きしていた


龍ってこんなに表情わかりやすいんだなぁ…


さぁてと腕を近づけてっと……


「ちょっ!いやいや、待って避けないで!あっ!やばい尋常じゃないぐらい血ぃ出てるって!」


物理的にも精神的にも血の気が引いたが、なんとか気持ちが伝わったらしく、血を傷に当てることができた


いやぁジェスチャーさまさまっすね


じゅわぁ——————


龍の傷はたちまち癒えてゆき完全に傷が塞がった


「よっしゃ!」


嬉しさのあまり盛大なガッツポーズを決める


………


…あれ?石どこ?


あれっ、ない…


ま、いっか。さっき茂みにでも落としたのでしょう。きっと


俺の思惑通り俺を見逃した龍と別れ、来た道を引き返したのだが魔物と遭遇することはなかった


龍が威圧でもかけたのかな?ありがたいね


街が視界に入ると、来た時と打って変わり木々が閑散としていき、街と森のちょうど中間辺りまで来た


そういえばここ、異世界だし魔法使えるんじゃね?早速やってみよう


なんか詠唱してみるか…


「火!」


…流石にこれじゃあ出ないか…うーむ…


「出ろっ!火!…ファイヤー!」


………うん!特に無し!


今度は魔法陣を作ってみよう


円を書いて、三角形書きまくってまぁそれっぽく


出来た


何が出るかなぁ。土がモコって盛り上がったらかわいいなぁ


「うしっ!なんか出ろ!」


手を魔法陣(笑)にかざし、グッと力をいれた。するとーー


カッ—————————


一瞬、当たりいっぱいに満ちるほどの光を魔法陣が発し、煙がモクモクと出てきた


魔法陣って使うと煙が出るのかー


…嫌な予感…なんだろうこの影…


あっなんかニョキニョキって生えてきた

イワシとかかな〜?あはは


「ムッ!?召喚された?契約の儀か?おっそこの小娘。お前か?お前が私を召喚したのか。では自己紹介をさせて貰おう。私の名はニーダ・サンルト・イズコルトス…悪魔族の族長を務めている。…ふむ、葉とはこのような色をしているのか…私の愛用している飲み物と同じ色をしているな。どれどれ…おぉっ!心なしか眠気が飛んでるような気がするぞ!」


目の下にもの凄いクマがある人型のそれ、悪魔は今葉っぱをむしゃむしゃと食べている


……何を言っているのか分からねーと思うが、俺も分からねぇ


「おっふぉ、ひてこむふめほ」


「…して小娘よ。お前の欲望はなんだ。なんでも言え。この私が叶えてやろう。対価は必要だがな」


「わーあくまさんだーすごーいかっこいいーすごーいほそいなたかいなーあははは帰れ」


「えっちょっまっ」


ぼふっ———


その音と共に悪魔は姿を消した


…んー…うん??


最後の方に言ったこと覚えてないけどなんか帰ったな…


あれ?てか俺はとてつもないものを召喚して、とてつもない偶然を棒に振ってしまったのではないか?


くっそー惜しいことをしたかもな


なんだか視界がぼやけてきた


あれ?目の前って土だっけ


…どうでも良くなってきた


眠…た…い——————

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