初めの1週間
第1話 目覚め
ん…ここは…どこだ…?
気がつけば花畑が広がる真ん中でただ呆然と突っ立っていた。
俺は居酒屋で先輩と…あれ?
ノンアルを飲んでいたつもりだったが…さては酔って寝こけちまったか?
…にしても、なんか花とか空とか妙に鮮明でそして白っぽい。
霧がかった目の前をなんとなく眺めていたらふいにぽぉっと空中に紫色の光が湧いて出てきた。その光の塊は大きさを増していってある一点でぴたっと静止する
光の玉はぽわぽわと発光し続けている
「…お目覚めになられましたか。桐生海樹様。」
何かの声が脳内に直接響く。なんか気持ち悪いな。
「…気分を害されてしまったようなので音声発生方法を変換します…」
心を読んだのか…?ま、夢だしいいか。
「桐生様、ここは夢ではございません。あなたは亡くなられました。」
紫の光から透き通るような綺麗な女性の声が聞こえてくる。…ん?死んだ?まさか
呆れたように首を横に振ると…
「…私は西部第27地区を担当する女神です。」
あ。こいつ無視してきやがった
…そーいやこんなに鮮明な夢は見たことがない
となると自称女神の言ってることは本当なのか?いや、ただの明晰夢か
「あなたにはこれより27地区1番星にい…転生して頂きます。転生につきましては我々より能力を付与します。」
「ありがとうございます」
「それとは別に1番星の難易度ゆえにこのカードより選んでいただきます。」
…あれ?体が言うことを聞かない。やっぱり夢か…あ、タロットカード…
体が勝手に2枚のカードを取る
「…ふむ…そのカードですね?ありがとうございます。」
結局カードの内容を知ることはできずにいた。
「それでは!2人の男性が転生します!果たして彼らはどう生きていくのか?私女神がお送りいたします!」
うわっ急に叫んだ…というかこれはどうゆう状況だ?なにか…かんが…え…
…っ!!意識が…!とんで…くっ!
うっ…ここは…どこだ?…そういえば俺事故って…体はどうなってるんだ?
うおっ髪!邪魔!
ばっと自分の手を、そして身体を見た。
小っちゃ、え?
思わず後頭部を掻くと自分のボサボサでガッチガチの髪の毛でなくふわふわでサラサラな何かに触れた
何かおかしいぞ…?
焦って首うらにも広がるそれを眼前に手繰り寄せる。
…金…髪…?
…え?
そっそうだ!カツラだ!カツラだよ!なんだよ焦らせやがって…
そう思い髪をぐいっぐいっと引っ張ったが
いてっ
自分の毛根が悲鳴を上げるばかりであった。
痛みに顔をあげると…
どこ?ここ。式場?
何かを祝っている雰囲気だけは感じ取れたが意味もわからずなんだろうと思い周りを見渡していると看板が目に映った。
『誕生日会』
やはり俺の読みは正かったようだが一体誰の祝いなのか、それだけが謎に包まれている…それだけじゃないけど。
「リュウカ、誕生日おめでとう」
「疲れているのは分かるのだけどほら、主役なのだから立ちなさい。…リュウカ、あなたに言ってるのよ。ほーら、お兄ちゃんも。」
「「うわっ!えっ!?」」
あぁ、祝われてるの俺ね。あと、この感じ多分隣の少年は兄と見て間違いはないだろう。
「ッ…何寝ぼけたこと言ってるの!ほらはやく!」
「「え、あ…はい。」」
急な怒声に思わず立ち上がってしまった
その後目の前のあまりにも奇妙な光景に目を奪われてしまう
眼前には色とりどりのどれをとっても美味しそうな料理
なんてものは存在せずに串刺し魚内臓入りが乱雑に置いてあり、ものは試しと食べてみると…
これは…ひどい…
見た目だけでなく味も最悪。というかしょっぱいと苦いのダブルパンチでKO
実は料理には肉もあり、こっちはブロックに切り出された肉がてきと〜うに置いてある。魚のお口直しに食べてみると…味はそこまで良くないが、肉がありえないほど硬い
…が、ワイルドっぽくて正直悪くはない
食事への関心が薄れた頃、ようやく自分の置かれている状況に疑問が湧いてきた
…女…になったのか…股間がなんともいえない感覚に陥っている
…というか……なにこれ。どーゆう状況だ?
居酒屋の、あのときの車と衝突した痛みの鮮明さは夢ではないことだけは分かる。
となると…転生とか?はは…まさかな…はは…あー…
これマジなやつ?マジなやつじゃないこれ?え?マジか!え!?うっそマジで!?せめて来週のアニメの最終回見てからが良かったわ!でもいいや!めっちゃ興奮してきたんだけど…!
「なぁ、ちょっといいかい?」
あまりにいきなり話しかけてきたもんで肩をぴくっと踊らせてしまう
「ど…どうかしましたか?」
「今から何するか…分かる?」
「…さぁ?」
「だよねぇ〜、はぁ」
いきなりなんだこいつ
あ、てかこいつ兄弟じゃね?さっきのと顔が同じだ
なんて思いながら目の前の兄弟をただぼんやりと眺めていると、手を顎に触れさせて模索模索…と呟いている
はは、まるで先輩の仕草そっくりだ…
…先輩説濃厚?転生したのは俺だけだとは限らないじゃないか
だ、が、だ。確かめるすべはないに等しい。本人に直接聞くなんてもし違ったらどうするんだ
…どうもなんねーか。変なやつって思われるだけだしな。うし、聞こ
「先輩今日飲み行かないすか?」
俺は兄弟にしか聞き取れない声量で話しかけた。
「あぁ、いいよ。駅前のあそこでいいよね。ってあれ?」
ビンゴ
「先輩、お疲れ様です。桐生です。」
兄もとい先輩は硬直して少しの間何かを考えているようだった。
「…驚いた。まさかそんな偶然あるんだね!」
驚いた?…なんか驚いたとはまた違う反応に思えたんだけど…先輩の新しい一面垣間見ちゃったやつかな?
「先輩も子供に生まれ変わったんですね…」
「ああ、どうやらそうみたいだね」
「…やっぱり俺たちはあそこで死んで…」
「「…」」
2人の間に重い空気が漂い、互いの体にずっしりとのしかかる
無理もない。何せ自分自身が死んだのだから…まだ現状を理解しきれないし、理解する脳が途中で止まっているような気もする
そんな空気も次の瞬間に断ち切ることができた。
「えーこれより、誕生日会を終了する。お参加の皆様、協力してくださった皆様、今日はありがとうございました。」
この言葉が発せられて暫くもせずに出入り口へと足を運ぶ人が増えていき、それは俺らも例外ではなく、母親と思われるものに連れられ、この場から去った
そして暫く歩いた頃、母親はピタッと立ち止まり我が家と思われるこの家に入って行った。この間母は終始無言であり、その背姿に子供を思う気持ちを感じることはなかった
おや?いやぁな予感がプンプンするぞ?
その俺の予感は見事に的中した。…いや正確には予想よりかは幾らかマシではあったがな
「……あなたたちには前々から言ってるけど改めて年の境ということで言わせてもらうわ」
言葉を挟む隙間すらなくノンストップで話し続ける
「まず会話、基本的に必要最低限なものにして…出来るだけ接触もしないで貰うわ。
次に食費、あんたたちの部屋の手前の階段の途中に置いておくから」
「以上よ。…じゃあ私は忙しいから…あと基本一階のリビングには足を踏み入れないことね」
そう一方的に宣言された直後、母親はすぐさまリビングに入って行き、侵入を拒むオーラを扉越しからでも分かるほど滲み出している
先輩は終始ポカーンとしていて母親の言葉に声も出ない様子であった。子を持つ親でもある先輩はきっと怒りを通り越して呆れているのだろう
俺は…あいつがこの身体の母親だとしても俺にとっては他人だからむしろ気楽ぐらいに思ってるんだよなぁ
さて、あの後俺は家に向かう途中に見つけた本屋らしきところへ向かうことにした
理由は2つ
1つはこの世界の文字がどうなってるのか知りたいから。2つ目は……
…
ないな…
まあいいや
できれば日本語がいいなぁ
見たところ漢字が含まれていることは確定してるから日本語と同じ文法の可能性が一番デカい
言葉については…日本語なのか分からないよなぁ。別言語が転生者特典によって分かるようになった!とか全然ありうるしね
転生者特典という概念があるかどうかなんてものは…まぁ知る由もないが
だから言語は…考えるだけ無駄!
本屋につ…看板に図書館って書いてる…図書館に着き適当に置いてあった本をひょいと掴み適当なページを開いてみたら…
だめだ分かんね〜
日本語と同じ文法っぽいがひらがなの部分はまるで分からん
こりゃあカタカナとかもないな〜
…ま、暇だし暗号文だと思って漢字を頼りに解読してみるかぁ
俺は適そこらに空いてた椅子に座り本を持ってーー
寝た!
いやぁ…寝るつもりは毛頭なかったよ?ただねぇ…俺謎解きとか苦手だし?
というか子供の体だからなのか夏場に室外機の前に佇んでるときみたいに暑い!
汗も凄いし汗で肌に髪がペタぁとついているのが分かる。
とりあえず公共施設で寝れる程度には民度が良いことは分かった。共通の敵でもいんのかね〜
魔物とか?いやいやんなもんいるわけ無いだろ〜
異世界というものに夢を見過ぎても失望が近づくだけなんだなぁ
ん?見渡す限り誰もおらんな…もしかしてここ隠れスポット?だとしたらかなりあついな
おっしゃ帰って作戦会議でもしますか!
今何時かなぁなんて考えながら外に出たら
夜だった
いやはや、子供の睡眠量には驚かされるばかりですな
次の更新予定
ビセア クルッポー @Kuruppo8255
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ビセアの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます