第5話 れっつ、くっきんぐ!
「今から〜、わたくし美
三日目。
あいかわらず暇を持て余している二人は、適当に料理番組のマネごとをしていた。
自らの美少女発言が目立つが、別に先日の好み云々の一見を引きずっているわけではない。ないったらない。
そして”じきじきに”とか言って変に特別感を出してはいるが、普通にこの三日間交代制で料理はしていたので、まったく特別だとかそんなことはないのだ。しかしここはスルーするのが賢い選択らしい。
「はい拍手〜」
パチパチパチと一人分の大きな拍手が森に響く。
「準備するものはこちら、衛生面が不安でしかない巨大鍋とナイフ、そして多分綺麗な水と多分食べれる魚、そこらへんにあった食べられるであろう野菜っぽいやつと香り付けに使えそうな草とたまたま持っていた塩でございま〜す」
ここまで聞く限りでは不安しか残らないのだが。
「ではさっそく、野菜っぽいやつを食べやすいサイズに切っていきま〜す」
ザクザク、ザクザクザク、ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク…
ビッグ杉岡氏の食べる量はエグいので軽く重労働だが、今は料理番組設定なので笑顔を絶やさず迅速に終わらせる。
「っふゥ、は〜い!できたら次は鍋を軽く洗ってからお湯を沸かしま〜す。魚の食べられそうなとこも適当に茹でましょう」
橘曰く、昔腕のいいドワーフに作らせたらしいライターを取り出して、乾いた枝や藁っぽい物に着火する。
順調そうにグツグツと煮込む。が、橘は首を傾げながら鍋の中を覗き込んでいた。どうやらいつ魚が食べれるような状態になるのかわからないようだ。
「まいっか。なんとなく食べれそうだなってところで野菜を突入させましょう〜!おそらく大丈夫です!」
ま、いっか。と聞こえたのはおそらく気のせい。
「そして最後に良い香りの草と塩をお好みで入れたら完成で〜す!まぁなんて美味しそう!…には見えないけど食べられそうですね!」
テッテレ〜、と杉岡に笑顔で鍋を見せた橘は、即席で作った器に自分の取り分を注ぎ、残りを鍋ごと杉岡に渡す。
速い。流石の料理番組風進行方。
”そして完成したものがこちらになりまーす”ができないのを嘆いていたが。とくに野菜っぽいやつを切るの工程で。
じゃ、食べるかと二人は岩の上に座る。(杉岡は地面に)
「「いただきまーす」」
この挨拶をするたびに二人は少し嬉しくなっていた。今まではうっかり言ってしまうと周りの異世界人たちには何言ってんだこいつ、という目で見られてきたので。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ、ごっくん。
三十秒で完食。二人は食べるのも速い。
「…では、感想を聞こうか」
神妙な表情で器を置いた橘は、手でマイクの形を作って杉岡に向けた。
「「…………」」
杉岡も神妙な面持ちで口を開く。
「――…橘氏にはまだ丸焼き以外の料理は早かったようです」
沈黙が落ちる。
「…同感です」
同感だった。
そもそも橘自身、今までの料理(と言えなくもない作業)はノリと勢いで流れるようにやっていたものの、自分は料理ができるだなどと思ったことは一度もなかった。
元々自炊派でもなかったし、味を気にするような性格でもなかった。
才能つよつよ過多エルフと言えど、料理の才覚には恵まれなかった。
それが異世界で便利な調理器具もレトルト食品もないとなると身にしみるものだ。
結論を言うと、橘も杉岡も人外種なので強い胃を持っていて幸いだった。
橘が空を見上げて独りごちる。
「良い子はマネしないでね♡」
悪い子も真似してはダメだが。
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