第4話 対面
佐久間は時計を見た。時刻は18時を過ぎたところだった。そろそろ良いだろう。佐久間はパチンコ店から出た。人を殺害した後は、どうも落ち着かなかった。騒がしいところで時間を潰すのが良いと、パチンコ店で過ごしていたのだ。
街は、クリスマスだけあって、賑やかだった。雨でなく雪が降っていたなら、どれだけロマンティックだっただろう。しかし、今の自分の状況と比べると、とてもかけ離れた言葉だった。
そんな事を考えながら、佐久間はポケットから煙草を一本取り出した。口にくわえ、そしてそれに火をつけた。煙草を吸いながら会社に戻ると、パトカーが数台停まっていた。
「もう気付かれたか。思ったよりも早いな」
佐久間は、想像していたよりも早く警察に死体を発見されたことに、戸惑った。このまま会社を立ち去るか、外に干した黒いコートを回収するか。今、警察のいる現場に近付くのは、危険すぎる。かといって、外に干された黒いコートをそのままにしておけば、警察が不思議がって持ち主を調べる可能性がある・・・・・・。
佐久間が考え込んでいると、後ろから不意に声をかけられた。
「すみません。ちょっとお話を聞かせてもらえませんか」
「うわっ」
佐久間は、思わず驚いた。
「ちょっと、あなた! 急に声をかけないでください。びっくりするじゃないですか」
「あ、いや、すみません。何度も話しかけていたんですけれども・・・・・・。考え事をしていらした様子で、気付かれていなかったのですね。すみません」
「えっ・・・・・・。べ、別に、考え事をしたって良いじゃないですか」
「そうですね。考え事をしても、悪くはないと思います。しかしあなた、こんなに寒いのに、薄着ですね。寒くはないですか」
「放っておいてください。さっきから何なんですか、あなた。急に声をかけてきておいて、失礼ですよ。一体、誰なんですか」
「あ、失礼しました。申し遅れました、私、野近と申します。こう見えて、刑事をしております」
「刑事・・・・・・」
佐久間は、目の前の野近という男を凝視した。
灰色のダウンジャケットに身を包み、中にはベージュのカッターシャツに焦げ茶色のチェックのベスト、これまた焦げ茶色の長ズボンと、全身茶色の出で立ちだった。年齢は50歳ぐらいであろうか、白髪の頭に丸眼鏡が特徴的だった。
「どうかされましたか」
「いや、別に何も。刑事さんが、こんな所で何をしているんですか」
「いえ、それがですね。この前に見える建物のすぐ横で、人が倒れていたんですよ」
野近という刑事は、声をひそめて話した。佐久間は、どんな反応をすれば良いか、瞬時に考えた。この場合、どんな表情をするのが自然なのか。
「えぇ、そうなんですか。何かあったんですか」
佐久間は、驚いた様子で、そう応えた。
「はい・・・・・・。そのことで、ちょっと近くにいる方に話を聞いているんです」
「そうだったんですか。私で良ければ、何でもお応えしますよ」
「そう言っていただけると、ありがたいです。ちなみに、あなたはどこへ向かう途中だったのですか」
「そ、それは・・・・・・」
佐久間は、応えに窮した。事件現場に自身のコートを取りに来ましたとは、当然言えない。かといって、コートを回収しないでこの場を去るのは、やはり気になってしまう。佐久間は吸っていた煙草を地面に落とし、足で消した。そして、意を決して応えた。
「実は、この前にある建物は、私の職場なんです。ちょっと忘れ物を取りに戻ったら、警察の車が止まっていたので、驚きました」
佐久間は、思っていることを正直に話した。
「そうだったんですか。それでは、倒れていた方のことをご存知かもしれませんね」
「そうかも知れません。死んでいたのは、誰なんです」
野近は佐久間の顔を見て、少し間を置いてから話した。
「そのことについては、よろしければ建物の中でお話させていただきます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます