第3話 私と共同作業しない?
放課後。
今日は何かと厄介な出来事ばかりである。
「ねえ、それで証拠は?」
「証拠はないけど……俺、クラスメイトの渋谷さんと付き合ってて」
恵吾は、目の前にいる
授業終わりの放課後に、二人は空き教室にいたのだ。
「渋谷さん? 転校してきて全員の顔を覚えてないけど、あの金髪の子?」
「そうだよ」
「へえ、そうなの? でも、本当かしらね? なんか、嘘っぽい。あなたの勝手な妄想じゃないの?」
茉莉は、恵吾の作り話なんじゃないのと言わんばかりの顔で、呆れた感じに肩を落としていた。
「そんなわけないから。本当に付き合ってるから」
「えー、本当かしらね?」
目の前にいる茉莉は、ジト目で恵吾の事を見つめながら、信じてくれそうな素振りもなかった。
じゃあ、なんて説明すればいいんだよ。
恵吾は、まだ遥香に、茉莉との関係を伝えていないのだ。
ゆえに、恵吾が遥香と付き合っている証拠を提示できるわけもないのである。
そもそも、付き合い始めたばかりであり、証拠らしい証拠なんて見せられるわけもなかった。
「証拠もないなら、嘘くさいかも」
「でも、本当なんだって」
「本当かなぁ? あなたみたいな人が、あんな美少女と付き合えるなんて怪しいのよ」
「信じてよ。本当に付き合ってるんだよ」
「へえ、そう」
彼女は再びジト目を恵吾に向けていたのである。
「というか、俺。今から用事があるから」
「用事って?」
「俺にも色々とやることがあるんだよ」
恵吾は背を向け、その空き教室から立ち去ろうとする。
「待って。私と付き合う約束をしてくれるならいいよ。それなら帰らせるけど」
「それは、無理かも」
恵吾はキッパリと言い切る。
しかし、彼女は通せん坊したままだった。
「なんでよ! じゃあ、私も返さないけど」
茉莉はどうしても自身の意見を受け入れてほしいようだ。
仮に、遥香と付き合っている状態で茉莉と付き合い始めたら、それは浮気みたいな間柄になってしまう。
そうなったら、後々面倒な事態に発展するのは目に見えているのだ。
「あの時は私も、どうにかしていたんだと思うわ。だからね、また昔のように仲良くしてよ」
「それは無理だから……というか、茉莉ってどうして転校してきたんだ?」
「それは、まあ、別にいいでしょ」
彼女は不満そうな顔つきになり、口ごもっていたのだ。
「そんなに言えない事でもあるの?」
「それは……別にいいでしょ!」
茉莉は目を背けていた。
強気な口調になっていたのだ。
何かがあったのは明白である。
もしかしたら、前の高校でトラブルを起こしたとか、そんな事情があるのかもしれない。
「やっぱ、そういうプライベートな事は聞かない事にするよ。まあ、色々あったんだろ」
「違うし! そんなんじゃないから」
茉莉はムッとした顔で、恵吾の事を睨んでいたのだ。
「そんなのどうだっていいし。私は寄りを戻したいだけ!」
「だから、さっきから言ってるように無理なんだって」
恵吾は彼女から強引に離れるように、空き教室の扉まで向かう。
「待って。話は終わってない!」
「終わったんだよ」
そう言って、恵吾が廊下に出た時、廊下を歩いていた遥香と視線が合った。
丁度いいと思い、恵吾は彼女を呼び寄せたのである。
「何かあったの?」
「一応ね」
恵吾は空き教室内にいる茉莉に対し、現在進行形で付き合っている遥香の事を紹介したのだ。
「渋谷さんとは付き合ってるんだ。だから、君とは付き合えないから」
恵吾は、茉莉の方を見て、ハッキリと言い切った。
「う、嘘でしょ……そんなの嘘に決まってるし!」
茉莉は目を丸くして、体を震わせていたのだ。
「あ、ありえないし!」
茉莉はどうしても認めたくないらしい。
「もういいわ。でも、後で後悔しても遅いから」
「え、後悔? そんな事はないと思うけど」
茉莉はぶっきら棒な発言をした後、顔を背け、つまらなそうな態度で空き教室から立ち去って行く。
「あの子はなんだったの?」
「色々とね」
「色々?」
遥香は首を傾げていた。
彼女は状況を知らない。
それはしょうがないと思う。
恵吾は、面倒な事に巻き込ませたくないと思い、遥香には何も伝える事はしなかった。
やはり、無関係の彼女に迷惑をかけたくないのだ。
「それより、今日は一緒に帰るんだよね?」
「そうね。何もないなら帰ろ」
遥香と教室へ戻る。
すると、茉莉が数名のクラスメイトと共に教室を後にして行く後ろ姿が見えたのだ。
彼女は恵吾の方を振り向く事はなかった。
これ以上何も起こらなければいいと思いながらも、恵吾はホッと息をはきながら胸を撫で下ろす。
恵吾が自分の席で帰宅準備をしている際、遥香は陽キャ男子から話しかけられていたのだ。
「今日はごめん、ちょっと用事があって」
「そうなんか? まあいいけど。用事があるならしょうがないか。また、明日な」
「うん、じゃあね」
遥香は手を振って、教室から立ち去って行く陽キャ男子を見送っていた。
「そう言えば、さっきの人とは親しいの?」
帰宅準備を終えた恵吾は、遥香の元に近づく。
「え? そうだけど、もしかして嫉妬してる感じ?」
「そういうわけじゃないけど」
「あの人って、昔からの友達なの」
「友達?」
「そう、幼馴染的な感じの子ね」
「へえ、そうなんだ」
恵吾は少しモヤモヤしていたが、幼馴染という事なら別にいいかなと思う。
恵吾にも幼馴染みたいな子がいる。
付き合っていなければ、別に気にする必要性はないと、恵吾は心の中で考えていたのだった。
学校を後にした二人は学校を後に街中に向かって歩いていた。
「どこに行くの?」
恵吾は隣を歩いている遥香に尋ねる。
「私、寄ってみたいところがあって。そこに行きたいと思って」
「行きたいところ? どんな場所?」
「ついてくればわかると思うわ」
彼女はそう言って、街中のビル同士の間の道へと入って行くのだ。
「そんな道を通るの?」
「そうだよ、ついて来て」
恵吾は彼女の後をついて向かう。
まだ比較的明るい時間帯なのに、物凄く薄暗く感じる。
少し歩いた先には、怪しげなお店があった。
看板は汚れていて、なんて書いてあるのかもわからなかったのだ。
「恵吾、入ろ。早く入って!」
恵吾は店屋の外見を見ていると、彼女から背を押され、その店屋へと足を踏み込む事となったのだ。
店内は外見と比べ、全然違うお店かと思うほどに明るく。恵吾が辺りを見渡してみると、そこには本らしきモノがある事に気づいた。
いわゆる本屋なのだろうか。
「恵吾は、同人誌って知ってる?」
「それは知ってるよ」
「私、一度はこういう作業をしてみたいんだよね」
一緒に店内にいる遥香は、一冊の本を手にしている。
それは同人誌と呼ばれる、漫画の単行本よりも大きなサイズの本だった。
恵吾は、近くの棚に置かれている本のタイトルを見る。
一般的な書店では見かける事のないタイトル名ばかりであった。
「私、こういう本を読んだりするのが好きなんだけど。私、文章を書くのが得意じゃなくて」
「そうなの? だから、俺を誘ったのか」
「そうなのよ。漫画形式でもいいし、恵吾が普段から書いているようなライトノベル形式でもいいし。それは恵吾に合わせるよ。試しに協力してほしいの」
「んー、まあ、いいけど……」
恵吾は少し悩んだ後、試しにやってみようかとは思う。
でも、自信はない。
小説投稿サイトで一位になった実績はあるが、今のところ書籍化まで至れていないのだ。
「自信を持ってよ! 最初から本気でやらなくてもいいし。気楽にやろってこと。私も同人誌活動とかした事なんてないし。私もどこまでできるかわからないしね」
「わかった、一応、やるよ」
恵吾は彼女の目を見て言う。
「そう来なくちゃね。私が迷惑をかけちゃうかもしれないけど。その時はごめんね。今日はさ、色々な同人誌を見たいから、時間があればもう少し私と一緒にいてくれないかな?」
すると、遥香が急に、右腕に抱きついてきたのだ。
遥香のおっぱいはデカい。
制服越しでも、それを確信できるほどの大きさであったのだ。
恵吾は鼻の下を若干伸ばしながら、付き合っている彼女と共に店内を移動し始めるのだった。
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