第4話 ふわふわの戦略、牧のうどんの秘密
「次は牧のうどん……博多バスターミナルの地下1階だね。」
優は手帳をパタンと閉じると、福岡駅から薬院駅へ電車で向かい、そこからバスに乗って、博多駅を目指した。博多バスターミナル地下1階にある牧のうどんは、地元の人々だけでなく、観光客やインバウンド需要でも大人気の店舗らしい。特に海外からの旅行者が列を作るほどだと聞いて、優の期待と緊張は一気に膨れ上がる。
「三大チェーンの最後の視察……ここで何かを掴まなきゃ。」
そんな思いを胸に、地下通路を抜けて店舗の前に到着した優は、思わず立ち止まった。
行列に圧倒される
「え……これ、全部行列?」
店舗の前には、まるでテーマパークのアトラクションを待つかのような長蛇の列ができていた。時計を見ると、ちょうどお昼時。だが、それだけでは説明がつかないほどの人の多さだ。
列をよく見ると、家族連れや学生だけでなく、スーツケースを持った観光客、さらには複数人の外国人グループが混じっている。
「観光客……海外からの人も多いんだ。」
優は驚きながら列の最後尾に並んだ。その間、隣でスーツケースを転がしている外国人の女性二人組が話している声が聞こえた。
「Is this the famous udon place?」
「Yes! I saw it on YouTube. It’s supposed to have really soft noodles and good broth.」
「YouTube……!」
思わず優はその言葉に反応してしまったが、外国人女性たちは気づかずに楽しそうに話し続けている。
「海外の人にまで知られてるなんて……」
優はその状況を目の当たりにし、インバウンド需要を見事に掴んでいる牧のうどんの力を肌で感じた。
ようやく自分の順番が来て、店内に入ると、目の前に広がるのは温かみのあるアットホームな雰囲気。それでいて、店員たちは忙しそうに動きながらもテキパキと注文をこなしている。
「いらっしゃいませ!お一人様ですか?こちらの席どうぞ!」
店員の明るい声に促され、優はカウンター席に座る。目の前には木目調のカウンターと厨房が広がり、揚げ物の香ばしい匂いが漂ってきた。
「何にしようかな……」
メニューを眺めていると、やはり目に留まったのは「ごぼ天うどん」。これが地元で愛される代表的なメニューだと聞いていた。
「ごぼ天うどんをお願いします!」
「はい!すぐお作りしますね!」
店員が笑顔で注文を受け、厨房に声を飛ばす。隣の席では、観光客らしき男性がスープの入ったやかんを片手に、ごぼ天うどんに出汁を継ぎ足している。
「これが、牧のうどんの“スープ継ぎ足し”文化……」
優は感心しながらその様子を観察し、出汁の香りに食欲をそそられる。
「ふわふわのごぼ天うどん」とスープ継ぎ足し文化
しばらくして、目の前に湯気を立てたごぼ天うどんが運ばれてきた。
「お待たせしました、ごぼ天うどんです!」
黄金色のごぼう天が丼から少しはみ出すほど大きく、ふわふわの麺と透明感のあるスープが器にたっぷりと注がれている。
「これが……博多のごぼ天うどん……!」
まずはスープを一口。優しい昆布といりこの出汁が口の中に広がり、心の奥まで温かくなるような味わいだ。
「美味しい……本当に優しい味……」
次に箸でふわふわの麺をすくい、一口すする。その柔らかさに驚きながらも、出汁と絶妙に絡み合う麺の食感に感動する。
「これが……福岡のソウルフード……」
揚げたてのごぼう天はサクサクとして香ばしく、少しずつスープに浸していくと、また違った味わいが楽しめる。
スープが少なくなったタイミングで、優はテーブルに置かれた小さなやかんを手に取る。
「熱々の出汁を継ぎ足して……また新しい一口を楽しめるんだ。」
自分のペースで味わいを変えながら食べられるこのスタイルに、優は感心を隠せなかった。
食事を終えた優は、隣に座っていた観光客の男性に話しかけてみた。
「あの、ここによく来られるんですか?」
「いや、初めてだよ。東京から出張で来てて、同僚が『福岡に来たら牧のうどんを食べなきゃダメだ』って言うから寄ってみたんだ。」
「どうですか?福岡のうどんは。」
「最高だよ!ふわふわの麺にスープ継ぎ足しなんて、東京にはないから新鮮だ。それに、この価格でこの満足感……さすが地元民に愛される理由があるなって思ったよ。」
その言葉に、優は改めて牧のうどんが地元だけでなく観光客にも広く受け入れられていることを実感した。
やりうどん本店に戻った優は、嶋村に視察の結果を報告した。
「牧のうどん博多バスターミナル店は、本当にすごかったです。地元のお客様だけじゃなく、観光客や海外からの旅行者まで長い列を作っていました。やっぱり“スープ継ぎ足し”という文化や、ふわふわの麺、優しい出汁がみんなに愛されているんだと思います。」
「なるほど。それで?」
「それに、YouTubeで紹介されていたり、観光案内にも載っているようで、インバウンド需要をしっかり掴んでいる印象でした。博多という立地を活かして、地元と観光客のどちらにも響く戦略があるんだと思います。」
嶋村は少し考え込みながら言った。
「つまり、牧のうどんは“地元の良さ”を観光客にも伝える形で成長してるってことだな。じゃあ、やりうどんはどうする?」
「……それを見つけるのが、私たちの仕事ですね。」
優は力強く答えた。三大チェーンを視察して、彼女の中で見えてきたのは「やりうどんにしかできない価値」を探す重要性だった。
「次は、この視察で得たものをどう活かすか……やりうどんの強みを考えないと!」
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