わたし、デビューします ⑦ 終
ゴブリンたちを解体しながら、多分院長先生にすら話したことがない自分の夢を語る。
「わたしの大好きな人たちが、いつまでも幸せに生きていてほしい。そのための方法も、お金も、全部ここにあると思ってる。だから、わたしはダンジョンに潜ってるの」
”ええ話や…!”
”深い…”
”すっごく純朴でありきたりだけど、それが一番難しいのかも”
”夢ってなにかに勝ちたいとかなりたいとかじゃなくてもいいんだな…”
”おじさんになるとこういうのに弱くなる…!”
それがわたしがダンジョンに潜る理由。英雄になりたいコウシロウくんにとっては取るに足らないつまらないものだろう。
「ごめんね。かっこいい理由じゃなくて…」
わたしがそう言うと、コウシロウくんは真剣な眼差しをわたしに向けた。
「なに言ってんだ!?姉ちゃんはかっこいいじゃねぇか!!」
「っ!?」
”コウシロウよく言った”
”コウシロウ株ここにきて急上昇”
”クソガキとか言ってごめん”
”お前もかっこいいぞ!!”
そんなこと言われるなんて思ってなかった…。
思わぬ言葉に面食らっていると、新たな足音がこっちに向かってきた。この音は…人間だ。
「とも子ちゃん!」
「とも子!…無事でよかった」
「きゃあああっ!?き、キングゴブリンとハイゴブリン!?これとも子ちゃんがやったんですか!?」
先陣を切って入ってきたのはよう華さんとなつ希さん。迷宮組合の救助隊らしき人たちも続々と入ってきた。
「みなさんのおかげで無事救助されました。応援してくださり、本当にありがとうございます」
”いいってことよ”
”楽しかったよとも子ちゃん!”
”ゲストとは言わずレギュラーになってくれ!”
”うちのギルドに入ってくれ!君なら即採用だ!!”
”いやうちだ!!”
”また配信するなら教えて!絶対見に行くよー!”
最後の最後まで賑やかな視聴者のコメントをじっくり眺めながら、わたしは配信終了ボタンを押した。
その後、救助されたわたしとコウシロウくんは無事にダンジョンを出ることができた。
入り口には既にコウシロウくんの家族とミキちゃんらしき女の子がいて、ダンジョンから出てきたコウシロウくんに抱きついてみんなでわんわん泣いていた。
わたしは迷宮組合の人たちの聴取を受けた後、よう華さんたちとリンクトーカーに戻り…
「では、今回の配信成功を祝して…かんばーーい!!」
「かんぱーい!」
「かんぱい…」
「えっと、かんぱい」
何故か祝杯を挙げている。
「ほぅら。謝礼のボアカレーだ。たんとお食べ」
「現物支給…!?」
「おばあちゃんのカレーは絶品なんですよ!」
「そ、そうなんですか。…?おばあちゃん?」
「そっ。よう華は社長の孫」
「えぇっ!?」
衝撃の事実に危うくカレーを落としそうになる。顔も似てないし苗字も違うから全然気付かなかった。
「どうだい?」
一口食べて全身に衝撃が走る。
「…っ!?おいしいです!ボアの肉ってこんなに柔らかくなるんですね!」
ピリリとくる辛さの後に、よく煮込まれたボアの肉と野菜の旨味が深い余韻を与えてくれる。
何より、口に入れた途端ホロリととろけるボアの肉が絶品だ!
「だろう?コツさえ掴めばトロットロになるのさ」
ボアとはダンジョン内に生息しているイノシシのような魔物。その肉を何度か食べたことがあるけど、焼いただけだと少し固くて獣臭かった。
けど、パートのおばさんたちには大人気だった。もしかしたらこのカレーみたいにおいしく調理する方法を知ってるのかも。
「でも、本当にいいんでしょうか?」
「何がだい?」
「配信は失敗したじゃないですか。なのにお祝いなんて申し訳ないです…」
「失敗ぃ?あっはっは!!!むしろ大成功さ!!」
豪快に笑ったマキ江さんがスマホを見せる。そこには今日配信した動画のアーカイブが映っていた。
「えっと、コメント数5000…!?」
「また大バズりさ」
コメント欄には数え切れないほどのコメントが寄せられ、今なお視聴数が増え続けている。
「お前さんがあの子を助けたおかげでうちは人道的でクリーンな会社だってアピールできた。おかげでフォロワーもうなぎ登りさ」
「お役に立てたなら、嬉しいです…」
「どうだい?うちに入る気になったかい?」
今日一日付き合って、配信も思ったより悪いものじゃないことがわかった。
でも、今後も配信をメインにやっていけるかと言われれば自信はない。
「分かりません。…でも、今日はご一緒できてとても楽しかったです。もし良ければ、また誘ってくれませんか?」
「ほほうっ」
「一歩前進だね」
マキ江さんとなつ希さんが顔を見合わせる。
よう華さんはよほど嬉しかったのか、感極まったような表情でわたしの手を両手で取った。
「もちろんよ!また配信しましょう!とも子ちゃん!!」
「はいっ…。よろしく、お願いします」
「さぁっ!じゃんじゃん食べな!まだまだおかわりはたくさんあるよ!」
「はいっ!!」
こうしてわたしの人生で多分一番長かったんじゃないかと思う1日が過ぎていった。
翌日
配信でバズったってわたしのやることは変わらない。
会社で作業着に着替えてダンジョンに潜り、アイテムを回収する。
それだけ。
「っ…?」
通い慣れた会社の正門に差し掛かった時、違和感に気づく。
社員じゃない人がたくさん待ち構えている。
誰かがレアアイテムでも見つけたのかな?
怪訝に思いながらも従業員用の入り口に向かおうとしたわたしと、門の前で待っていた人の視線が合う。
次の瞬間、その人が大声を上げた。
「辻󠄀吹さん!!」
「っっ!?」
その声に他の人たちも一斉にわたしの方を向き、全員がほぼ同時にわたしに駆け寄ってきた。
「えっ?えぇっ!?」
「辻󠄀吹さんですよね?昨日の配信見ました!」
「おぉっ!本物もすっごいかわいい!」
「サイン下さい!」
「私、白鯨というギルドの者です!あなたをスカウトしに来ました!」
「うちは契約金としてこの額を出します!!」
代わる代わる押し寄せる人波にもみくちゃにされながら、二日ほど前にマキ江さんに言われたことを思い出す。
どちらにせよ、元の生活には戻れないよ
あれは、こういう意味だったのか。
「か、考えさせて下さーーい!!」
【あとがき】
最近流行りの「ダンジョン配信もの」をやりたいと思い、読み切りという形でまとめてみました!
アイデアが浮かんだら設定等を変えて長編化することも検討中です!
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また、和風な世界観の異世界にある女学園で繰り広げられる女の子同士のラブコメ小説も連載中!
良ければこちらもご一読よろしくお願いします
少女流離譚-タカマ物語- 追放少女は彼方の学園で約束の乙女と逢う
https://kakuyomu.jp/works/16818093087091573734
【完結】ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる- 読切版 こしこん @kosikon
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