わたし、デビューします ⑥
足音がする方向、この場所に入る唯一の道を注視するわたしの前にそれは現れた。
「うわぁっ!?」
10を越えるゴブリンの群れにそれを従える4匹の上位種、ハイゴブリン。
そして、ハイゴブリンが担ぐ神輿のようなものに座っている一際大きな支配種…キングゴブリンが。
「ご、ゴブリンがいっぱい!?」
”うっそだろおい…”
”キングゴブリン!!B級でも手こずる相手だぞ!”
”逃げるんだぁ…!勝てるわけないよぉ…!!
”ハイゴブリンにキングってもうこれ詰みじゃん!!”
”救助はまだかよ!?”
コメントが騒がしくなる。それだけわたしたちが置かれてる状況は絶望的なのだ。
「やっぱり…」
ここまでの大所帯なのは予想外だけど、足音が魔物だという推測は当たっていた。
担がれたキングゴブリンは池の真ん中に立つわたしたちを指差して不快な声を上げる。
多分嘲笑ってるんだろう。
つられて周りのゴブリンが笑い、キングが手を振るとゴブリンたちが岸に近づいてわたしたちに粗末な弓を向ける。
「ひいぃっ!!」
盾を構えて縮こまるコウシロウ君。下手に動かれた方が大変だからむしろ好都合だ。
「…」
わたしたちは池の真ん中にいる。それを狙って弓を構えるゴブリン、岸に上がればハイゴブリンとキングが待ち構えている。
…正面突破でもいいけど、それじゃあ時間と手間がかかるしコウシロウ君に危険が及ぶ可能性もある。
でも、この状況なら…勝てる!!
「ほっ!!」
水面を蹴って大きく跳躍する。恰好の的だと言わんばかりにゴブリンの弓がわたしに向く。
わたしは空中で姿勢を180°反転。頭が真下に来るよう調整し、
「入れ替われ!!」
さっき拾った置換の杖をキングに向けて放つ。
置換の杖は魔法が当たった相手と自分の位置を入れ替えるもの。魔法が当たったわたしの体は一瞬消失し、すぐに現れる。
キングがさっきまでいた神輿の上に。
「ゴオオオオオッ!?!?」
当のキングはさっきのわたしと全く同じ体勢で空中に出現し、3m近い高さから真っ逆さまに落下。
頭から落ちて首があらぬ方向に曲がり、ピクリとも動かなくなった。
”はっ?”
”えっ?”
”何が起こったん?”
”見てわからんものは聞いてもわからん”
”キング死んだ?なんで?”
「置換の杖は入れ替わった相手と同じ場所、同じ体勢で入れ替わる性質があります。これを利用すれば武器を使わなくても魔物を倒せますよ」
”なるほどわからん”
”倒せます(超高度まで跳躍必須)”
”逸般人向け解説助かる”
”なるほどぉー、完璧なアドバイスっすねぇ。不可能なことに目を瞑ればよぉーーーッッ!!!”
「がっ?がぎっ!?」
キングが死に、神輿が急に軽くなったことで神輿を担いでいたハイゴブリンたちの体勢が揺らぐ。
その隙に魔力でナイフを覆い、無防備に背中を晒す一匹の脳天に突き刺す。
「そこぉっ!」
そして左足を軸に半回転。その勢いのまま剣を抜いて後ろの一匹の首を刎ねた。
刎ねた首を掴み、天高く放り投げる。
「ガアアアアアアアアッッ!!!!」
異常事態から復帰したハイゴブリンが骨を削って作った大剣のようなものをわたし目がけて薙ぐ。
「っっ!!」
それが到達するよりも早く、置換の杖で真上に放り投げた首と位置を変更。
わたしは空中に移動し、
「ゴギャアーーーーッッ!!!?」
目標を失った大剣はもう一匹のハイゴブリンを腰から真っ二つに叩き斬った。
「せいっ!!」
落下の勢いを利用し、仲間を殺して固まっているハイゴブリンの脳天を剣で貫く。
そして頭を蹴る反動で剣を引き抜き、近くにいたゴブリンを着地がてら両断。
寂しくないようすぐ横にいた数匹もお供させてあげる。
"な、何が起こってるんだってばよ…?"
"俺の知ってる回収屋じゃない"
"ハイゴブリンって下手な剣じゃ折れるくらい堅かったはずだぞ"
"置換の杖の使い方うめぇ…!!"
「ギャ…ギャギャアーーーッッ!!!」
王と将を失い、ただの雑兵に成り下がったゴブリンたちは武器を持ったまま逃げようとする。
「逃げる際は武器を捨てるか納めることをおすすめします。でないと…」
「ガギャアッ!?」
わたしが視線を向けた先で断末魔が響く。
武器を持ったまま逃げていたゴブリンが転倒し、その弾みで落とした剣が首を刺し貫いたのだ。
「あぁなります」
"えぐっ"
"グロっ!?"
"ゴブリン「参考になるなぁ」"
"これは痛かったなぁ。今度は気をつけるよ"
"ゴブニキ成仏して"
全てのゴブリンが逃亡し、エリアが静けさを取り戻した。
「もういいよ」
池の真ん中に戻り、コウシロウ君を抱いて岸に戻る。
「これ、全部姉ちゃんが倒したのか!?」
「まぁ、そうなるかな?」
一部同士討ちしたのもいるけど、わたしが誘導したから間違ってはいない。
「すっげぇ!!キングゴブリンってめちゃくちゃつえーやつだろ!?姉ちゃんAきゅーだったのか!?」
「Eだよ」
「…はっ?」
"はっ?"
"はっ?"
"ちょっと何言ってるか分かんない"
"この惨劇でEは無理がある"
"E級の定義壊れる"
コウシロウ君も視聴者も困惑している。
回収屋に等級なんて関係ないから、昇級試験はダンジョンに入れる最低条件であるEに上がる時しか受けてない。
自分の身を守れてお金を稼げればそれでいいのだ。
「さっき聞いたよね?わたしの夢はなにかって」
「おうっ」
「わたしの夢はね…わたしの大切な人たちと末永く幸せに暮らすこと」
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