わたし、デビューします ③
翌日。
「ちぃーっす。久しぶりだなお前らー」
「八王子ダンジョン、リベンジでーす!」
4日ぶりの八王子ダンジョンに2人の賑やかな声が響く。
彼女たちは配信慣れしてるから気にせず進行できるんだろう。
けど、
「こんな格好するなんて聞いてない…!」
わたしはそれどころじゃなかった。
いつもの作業着で八王子駅に向かったわたしは駅で2人に確保され、ほぼ無理やり今の服に着替えさせられた。
丈の短いスカートとお腹が出た露出度の高い衣装に。
大勢の人の前で話すのだって緊張するのに、この格好で人前に出るなんて狂気の沙汰だ。
「なんと今日は!スペシャルゲストにお越しいただきましたー!」
"スペシャルゲスト!?"
"誰だれ〜?"
"よう華ちゃんたちみたいな美少女キボン"
"男なら◯す"
スマホの配信画面に並ぶコメントの数々。これだけの人が配信を見てるなんて不思議な気分。
スペシャルゲストの話をしたってことはそろそろ出番だろう。
服装を整え、出番を待つわたしの耳がか細い音を捉える。
「…?」
魔物かな?
音のした方に視線を向け、その光景に思わず目を見張る。
「うわああああっっ!!」
「ギャギャギャーーッッ!!!」
こん棒を片手に獲物を追う緑色の小人のような魔物、ゴブリンと
「…子供っ!?」
どう見ても探索者に見えない小さな男の子。
「では紹介します!辻󠄀吹とも…」
よう華さんがわたしを紹介する声が聞こえてきたけど、今はそれどころじゃない!
『神速の腕輪』の力でゴブリンたちへと疾く駆ける。
相手は3匹!
「ギャガっ!?」
突っ込んだ勢いそのままによう華さんから借りたナイフをゴブリンの頭に突き立て、一匹目を始末する。
会社から支給されている刃こぼれナイフと違ってすごく切れ味がいい。
「ギャ、ギャギッ!?」
仲間が突然殺されたゴブリンが困惑する。霞の腕輪を付けているわたしにはまだ気づいていない。
「はぁっ!!」
死んだゴブリンの手からこん棒を奪い、呆けた一匹の顔面に野球の要領でフルスイング。
頭が潰れたトマトのように弾け、鮮血が近くにいたゴブリンを濡らす。
「ギ…ギャアーーッッ!!!」
突然仲間が殺された恐怖に駆られ、逃げ出す最後の一匹。
「逃さない!!」
最初の一匹の頭からナイフを引き抜き、逃げるゴブリンへと投擲。
「ギャゥッ!」
ナイフはゴブリンの腰に刺さり、バランスを崩して転倒。
その隙に大きく跳躍してこん棒を上段に構え、
「せいやぁっ!!!」
渾身の力を込めてゴブリンの頭に振り下ろした。
断末魔もなく頭が砕け、絶命する。
他に仲間がいないことを確認し、ナイフを回収して血を拭う。
「ケガはない?もう大丈夫だよ」
ナイフをしまい、男の子に手を差し伸べる。
「えっ、あぅっ…!」
よほど怖い目に遭ったのか、男の子はガタガタと震えている。
もしかして、血まみれのわたしが怖いのかな?もしそうならそこは我慢してほしい。
「とも子ちゃん!」
声に振り返ると、2人がこっちに駆けてきた。
「もー、離れないでって言っ…子供っ!?」
「嘘でしょ…」
"なに?アクシデント発生?"
"ショタキターー!!"
"やべぇよやべぇよ…!警備員何やってんだよ?"
"これガチ?仕込みとかじゃなくて?"
"子供がダンジョンに入れるわけねーだろ"
"ってかゴブリン死んでんだけどなんで?後この血まみれの子誰?"
「配信は中止です。帰りましょう」
「そ、そうですね…」
迷宮基本法にはダンジョン内で探索免許を持たない民間人を発見した場合の救助義務が記載されている。
こうなってしまっては配信どころじゃない。
「これ、あんたがやったの?」
「はいっ。この子が襲われていたので」
”ゴブリン瞬殺されてる件”
”Eランクの魔物とはいえ無傷ってすごない?”
”つかこの子誰?”
”うぉっ!でっ”
”でっ”
”デ大王”
「ここは危ないよ。帰ろう」
「…」
再度手を差し伸べるも、男の子は手を取らない。子供は時々意味の分からないことで意地を張る。
わたしにも経験があるけど、今はそれに付き合ってる時間はない。
「うわぁっ!?」
男の子を肩に担ぎ、ダンジョンの出口を目指す。
”担いだ!?”
”新入りちゃん力持ちだな…”
”俺も俵持ちされてぇ~!”
”坊やそこ代われ”
「ちょっ!離せよ!!」
「行きましょう」
「はいっ!」
「んじゃ、配信はここまで。またなっ」
なつ希さんが配信を切ろうとしたその刹那、わたしの足元がガコンっとへこんだ。
「っっ!?!?」
床が開き、体が下へと引っ張られる。
下層へと落ちる罠、『落とし穴の罠』だ!
「とも子ちゃん!!」
「とも子!?」
よう華さんたちが駆けつけようとするも間に合わず、わたしと男の子は真っ暗な大穴に吸い込まれていった。
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