第23話
昨日、
お隣さん同士の幼馴染みなので並んで帰ることくらいなら不満なんてないのだが、延々としつこく「本当の本当に付き合ってないの!? ねえちょっと
本当にどうして陽キャ属性たちは、他人の関係性をやたらと気にして食らいついてくるんだよ。誰と誰がどんな関係を構築していようと別にどうだっていいだろ……。
朔はモデルを依頼してるだけだと同じ説明を溜息混じりに改めて繰り返してやると、
「付き合ってないんだったら、あんな人気のない公園のベンチにわざわざ二人並んで座って何してたのよ?」
「見たまんまだ。人気のない公園のベンチに二人並んで座って話をしてただけだ」
「……何の話よ?」
「チッ」
「舌打ちすんなっ!?」
「何の話でもどうだっていいだろ? 朋華が興味を引かれるような話題じゃねえよ」
「ま、まるで、その……、付き合いたてほやほやのカップルが絶妙な距離感で座ってるように見えたから、ちょっと……、ちょっとだけ、気になっただけよ!」
「仮にそうだったとしても朋華には関係ねえだろ?」
「うっ……、お、幼馴染みとして、真影が純粋な女の子をたらし込んだりしないように見定める義務があるのよっ!」
「なんだその迷惑な義務は……? たらし込むんだったらもっと人目に付かない場所でやるから安心しろよ」
「安心できる要素がないんだけど!? やっぱり目が離せないわっ!」
鼻息荒く俺の肘をやたらと小突いてくる朋華がさすがに鬱陶しく、本来だったら話すつもりのなかった本当の理由を口にすることにした。
「……親父に言われたんだ。ポートレートを撮るなら被写体を、モデルを理解しろって。だから朔がなんであそこまで人見知りするのかを聞いてたんだ」
どうして言いたくなかったかなんて、恥ずかしいからに決まってる。親父に教えを請うていることも、そんな親父を見返したくてみっともなく足掻いていることを知られるのも。
中学時代に練習がてらにモデルを頼んでいただけあって、朋華は俺の写真にかける情熱を知っている。それを馬鹿にしたりしてこないことはわかっているのだが、こればっかりは俺の気持ちの問題だからな。
「そう、なんだ……。被写体を理解、ね……。ほんと、アンタって写真撮るためだったら行動力が異常よね」
「芋食うためだけに駅の反対までわざわざ珍道中してるやつに言われたくねえ」
「うっさいのよっ! 芋って言うなっ! ジェネバのフォートレスポテト食べたこともないくせ!」
「なんだその物騒な名前の芋は。どんだけの量が出てくるんだよ? 名前聞いただけで胸焼けしそうだな……」
「最近新しく出来た超大盛りなのよ。これまではドレッドノートポテトが一番量が多かったんだけど……、あっ」
芋の量で殺しに来てるのかと言わんばかりの不穏なネーミングに眉をひそめていると、不意に立ち止まり似合いもしない思案顔を浮かべて朋華が首を傾げる。
「どうした、芋の食い過ぎでおなら出そうなのか? もっと離れろよ」
「違うわよっ! ……朔ちゃんの写真が撮れれば良いのよね? それだけよね?」
ずいっと距離を詰めながら朋華が腕組みの姿勢で俺を見上げてくる。
子供の頃からの癖なのだろうが、そうやって腕組みしてツンと顎を逸らせると威圧感あるから止めた方が良いぞ? あと無駄にデカい胸を強調してるみたいで横乳辺りを引っ叩きたくなるから控えろ。
「ああ、だから最初っからずっとそう言ってるだろ……」
意識的なのかさっぱりわからない朋華の胸から目を逸らしてぶっきらぼうに言い捨てる。危うく平手が飛び出すところだった。
「だったら、あたしも協力してあげるわ!」
俺の歪んだ渇望を知ってか知らずか、朋華はこれ見よがしに胸を反らせ得意満面な顔で口の端を持ち上げる。
「協力って、朋華がか?」
「他に誰がいるのよ」
「えぇ……」
「そんなくっきり露骨に嫌そうな顔すんなっ!?」
「いやだって、撮影初日の放課後にお前が指示しながら撮った写真を見た姉貴が、アヘ顔ダブルピースって言いながら笑い転げたんだぞ?」
「それ、あたしのせいじゃなくない!? あと、お前って言うな!」
「それに朔のやつ、朋華のこと華々しい陽キャ属性のギャルって誤解して怯えてるじゃねえか」
「誤解って、陽キャのギャルは間違ってないでしょ!? いやそんなにギャルを目指してるわけじゃないけど、とにかくそこよ」
「どこだよ? ギャルじゃなかったら清楚系でも目指してんのか? 諦めろよ……」
「なんでよっ!? あたしのこと何だと思ってんのよ! つまり、朔ちゃんが怯えるのが問題なんでしょ? だったら怯えないで済むように慣れさせてあげればいいのよ」
「慣れさせる?」
「どうせ真影のことだから、眉間に皺寄せながら『お前どうして人見知りなんだ? ほらさっさと答えろ!』とかってデリカシーの欠片もない聞き方で詰め寄ったんでしょ?」
まるで一部始終を隠れて覗き見していたかのように俺の口真似をして見せる朋華の、あまりに不遜な物言いに思わず引っ叩いてやりたい衝動に駆られたがギリギリ堪えた。
やっぱりさっき横乳だけでも引っ叩いておけば良かった。くそっ。
「……で、だったらなんだよ」
「そんな襲いかかりそうな剣幕で食ってかかってモデルが心開くわけないでしょ。どんどん怯えて離れていくわよ。――だから、あたしが朔ちゃんの怯える癖が治るように協力してあげるわっ!」
我が意を得たりと言わんばかりにフフンと胸を反らせる朋華に、俺は遠慮の欠片もない胡乱な目付きを返した、と思う。
反射的に横乳にビンタしそうになってしまいすぐに顔を背けたから自信はない。
「……いや、別にいいわ。じゃあな」
「ちょっと待ちなさいよっ!」
具体的に何をどう協力するつもりなのか知らないが、どうせろくなことになるはずがない。
アヘ顔ダブルピース以上の邪魔だけはしてくれるなと考えながら、やっぱりしつこく食い下がってくる朋華を無視して帰路についた。
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